質問主意書

第72回国会(常会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質七二第二号

  昭和四十八年十二月十一日

内閣総理大臣 田中 角榮   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員内田善利君提出カネミ油症の救済の現状と今後の方針の確立に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員内田善利君提出カネミ油症の救済の現状と今後の方針の確立に関する質問に対する答弁書

1について

(1) カネミライスオイル中毒事件発生当時、カネミ倉庫株式会社の食用油生産量は、昭和四十二年、三、六七二、〇二一キログラム、昭和四十三年、三、七六三、五〇九キログラムであつた。このうち、カネミライスオイル中毒に関係のある食用油は、昭和四十三年二月に生産された三〇四、一九一キログラム及び同年三月に生産された四一六、八三四キログラム、合計七二一、〇二五キログラムの範囲内のものと考えられており、この中の一部からPCBが検出されたが、これ以外の食用油からはPCBの検出はなされなかつたものである。
(2) カネミ倉庫株式会社製造の食用油についての地域別出荷量並びに商品名、販売先ごとの生産量及び地域別出荷量については、記録が残つていない。
 なお、事件を探知した当時においては、カネミ倉庫株式会社製造の食用油全製品について販売停止及び回収の措置を採り、検査についても全製品の検体について実施したものである。
(3) 油症事件発生後の食用油の回収量は、最終的には、七八六、〇〇〇キログラムである。

2について

(1) 患者数は、昭和四十三年では六七六名であつたが、その後において昭和四十四年に三二五名、昭和四十五年に五五名、昭和四十六年に二五名、昭和四十七年に一六名、昭和四十八年に一〇三名がそれぞれ追加され、昭和四十八年十月三十一日現在では計一、二〇〇名となつている。
 地域別患者数は、同日現在で、千葉県五名、東京都七名、岐阜県一名、愛知県一六名、滋賀県一名、京都府一名、大阪府二四名、兵庫県六名、奈良県二一名、和歌山県四名、鳥取県一名、島根県六名、岡山県四名、広島県八〇名、山口県三九名、愛媛県一〇名、高知県四五名、福岡県二一四名、佐賀県二三名、長崎県四四二名、熊本県一名、大分県六名、鹿児島県三名、名古屋市一名、京都市一名、大阪市一名、神戸市一名、福岡市九六名、北九州市一四〇名である。
 また、性別患者数は、男六〇四名、女五九六名となつている。
(2) 昭和四十八年十月三十一日現在の入院患者は一〇名であり、通院患者は二七四名である。なお、各患者の症度別の分類については、診断基準の改訂されたことなどにより、画一的な分類は行つていない。

3について

(1) 中毒事件の発生当時から昭和四十四年七月までの間における届出者数は一四、三二〇名であつたが、このうちカネミ製品を使用していなかつた者もあり、更に健康診査その他の方法による調査の結果、患者とされた者は九一三名であつた。その後においても、油症が過去に例をみない特殊な疾患であることから、九州大学油症治療研究班の専門家や大学院、県、市立病院、医師会などの専門医によつて引続き患者の検診、追跡調査が実施されており、昭和四十七年度には認定患者二四〇名、その他の者二八四名の計五二四名の者が検診を受けた。
 なお、前記のとおり、昭和四十八年十月末現在の患者数は一、二〇〇名となつている。
(2)イ 事件発生後間もなく、油症治療研究班によつて暫定的治療指針が作成され、これに基づいて治療が行われたが翌昭和四十四年にその一部が改訂され、更に、油症患者の追跡調査の結果及び治療法の研究の成果により、PCBの排泄促進や各種の対症療法、合併症の治療法などが次第に開発され、昭和四十七年には治療指針が大幅に改訂され、現在に至つている。
   ロ 昭和四十三年度以降実施に移されている油症患者の追跡調査及び治療法に関する研究費等による一斉検診については、油症治療研究班を中心に、関係各都道府県の大学医学部や治療設備の整備されている一般医療機関の参加を得て行われており、また、患者の随時の受診についても、九州大学の例のように、油症患者のための外来窓口を開設し、あるいは各都道府県において国立、県立、大学病院等で随時受診ができるような方法を講じるなど、患者の受診の便宜を図る措置が採られているところである。
   ハ 患者の治療費は、社会保険の患者自己負担分についてカネミ倉庫株式会社が負担している。
   ニ 国が委託者となつている油症の治療法及び患者の追跡調査等に関する研究は、昭和四十三年度から次のとおり実施されており、昭和四十七年度までに支出された研究費等の合計額は、一億三千七百八十五万七千円となつている。
 また、関係都道府県市においても独自に大学医学部等へ油症の治療法等の研究を委託している例がある。

(国の委託による研究の名称、委託先及び委託費の額)

(一) 昭和四十三年度
 米ぬか油中毒に関する疫学的研究(国立公衆衛生院 重松逸造)
            二百万円
 油症の発生防止及び診断治療に関する特別研究(九州大学油症研究班)
            二千二百六十五万二千円
(二)昭和四十四年度
 油症の薬物対策に関する研究(九州大学 樋口謙太郎)
            百五十万円
 油症の本態とその治療法に関する特別研究(九州大学油症治療研究班)
            三千六十七万七千円
(三) 昭和四十五年度
 油症の治療法と予後に関する研究(九州大学油症治療研究班)
            一千万円
(四) 昭和四十六年度
 油症の治療法及び油症患者の追跡調査に関する研究(九州大学 占部治邦)
            五百九十八万九千円
 PCBの慢性毒性等に関する研究(PCB慢性毒性研究班)
            千八百三十一万九千円
(五) 昭和四十七年度
 油症の治療法と油症患者の追跡調査に関する研究(九州大学 占部治邦)
            九百五十万円
 PCBの慢性毒性に関する研究(PCB慢性毒性研究班)
            三千七百二十二万円
(六) 昭和四十八年度
 油症の治療法と油症患者の追跡調査に関する研究(九州大学 占部治邦)
            二千万円
 PCBの慢性毒性に関する研究(PCB慢性毒性研究班)
            八百三十五万円

   ホ 油症診断基準は、事件発生直後の昭和四十三年十月に作成され、これに基づいて患者の診断、判定が行われてきたが、その後における調査研究の成果をふまえ、更にこれを全体的に再検討し、その結果、昭和四十七年十一月に全面的な改訂が行われた。
 これは、従来の診断基準が皮膚所見等の臨床症状を中心としたものであつたのに対して、新診断基準においては、臨床検査等の項目を加えた適確な基準に改めたものである。

4について

(1) 油症は、過去に例をみない特殊な疾患であることから、関係都道府県の間の密接な情報の交換を図るとともに、研究の成果をもふまえ、患者の追跡調査の際に、受診を希望する者に対しては検診を実施し、該当者については認定を行うこととしているが、今後とも患者の適確なは握に努めてまいりたいと考えている。
(2) 昭和四十三年十一月二日、PCBが原因となつて発生した食中毒であることが判明すると同時に、昭和四十二年十一月から昭和四十三年十月までの間に製造された米ぬか油について検査し、PCBの検出に努めた結果、昭和四十三年二月及び三月製造のものの一部からPCBが検出された。
 また、発症との関係では、油症治療研究班の研究によると、最少量のPCBによる発症例としては、体重五十九キログラムの男性が百二十日間にわたつて総量〇・五グラムを摂取した事例があるとされている。
(3) 新診断基準実施後、患者となつた者は、昭和四十八年十月三十一日現在一〇三名である。

5について

(1) 本件事故の発生以来、患者とカネミ倉庫株式会社の間においては、各県ごとあるいは各地域ごとに相当の回数にわたる交渉が行われて今日に至つており、カネミ倉庫株式会社は、患者に対し、診療費、検査費、入院費等の医療費、通院交通費、介護手当等の雑費、見舞金等を支払つているところであるが、現在なお完全な話合いによる解決はみていないところである。
(2) カネミ倉庫株式会社は、(1)のとおり、治療費等について費用の負担を行つており、これらの総額は、昭和四十三年から昭和四十七年十二月末までの合計で約一億六、〇〇〇万円となつている。これら以外の補償の問題については、現段階においては患者との間に解決がみられておらず、また、昭和四十四年二月二十四日以来七五四名の者から十件の損害賠償請求の民事訴訟が提起されており、現在係争中である。
(3) 現在においても、患者とカネミ倉庫株式会社との間においては、各地において随時交渉が持たれているところである。患者の要求は、主として精神的、肉体的、経済的損害を含むすべての損害の補償及び恒久的生活保障にあり、会社側も原則として誠意をもつてこれに当たるとしているが、具体的な話合いには至つていない段階である。
(4) 現段階においては、行政の立場から具体的なあつ旋を行つてはいないが、本件の解決は社会的にも大きな課題であるので、行政庁としても今後、円滑な話合いが持たれるような方法について、検討を行い、早期解決のために鋭意努力いたしたいと考えている。

6について

(1) 公害健康被害補償法に基づく公害健康被害補償制度は、相当範囲にわたる著しい大気汚染、水質の汚濁に係る環境の汚染に起因する健康被害について、迅速かつ公正な保護を図ることを目的としたものであるが、食品に起因する事故は、環境汚染を媒介とせず、直接人体に影響を与えるものであるので、公害健康被害補償制度の対象となる健康被害と区別されているものである。
(2) 食品は、本来安全であるべきものであり、食品の安全を確保するための諸方策の推進が第一に重要なものであるが、飲食に起因する健康被害は毎年相当数の発生をみており、また、多数の被害者が生じ社会的問題となる事例も見受けられたため、食品事故による健康被害者が速やかに救済される体制の整備についても研究することとし、昭和四十八年四月食品事故による健康被害の救済の制度化研究会を設け、慎重に検討を進めているところである。この問題については、種々検討すべき事項が多いのでその結論がまとまつた段階において措置いたしたいと考えている。