質問主意書

第72回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

畜産経営危機の緊急対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十九年三月十二日

藤原 房雄   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   畜産経営危機の緊急対策に関する質問主意書

 昨年から今年にかけての配合飼料の倍近い価格上昇、さらには悪性インフレの昂進、石油問題を契機とした物価高騰の加速化等々が、わが国の畜産農家に経営収支の赤字増大と先行きの不安をもたらし、ついには経営から脱落する農家さえ続出させている。わが国の畜産はまさに戦後最大の危機的様相を呈している。
 私は、こうした事態を憂慮して、四十八年九月二十七日付けで「畜産経営危機の緊急対策に関する質問主意書」を提出し、わが国の畜産経営の危機は、「政府が生産、流通、価格等、総合的な観点からの施策をおこたり、なかでも飼料政策に至つては、米国偏重の外国飼料に依存し、わが国の畜産を加工畜産化へ指向させてきたことに起因するものと考える。しかもなお、政府は、いまだに糊塗的な応急策に終始しようとしている。」と指摘したのであるが、この政府の姿勢は、いまもなお、たいして変つていない。
 政府は、年度末の畜産物の価格改定を前に、ようやく、三月十一日から畜産振興審議会を開催するが、これを契機として、今こそわが国畜産に対して総合かつ抜本的な改革策が緊急に講じられねばならない。
 政府は、今日まで農基法農政のもとで、畜産を成長部門として奨励してきたことからも、畜産農家の生活保障に万全を期することはもちろん、国民の食生活にとつて不可欠な牛肉、牛乳、豚肉、鶏卵、ブロイラー等々、動物蛋白源としての貴重な食糧を安定供給すべき責務がある。
 よつて、次の諸点について再度政府の見解を問うものである。

一、配合飼料の価格対策等について

1 今回の畜産経営危機を招いた最大の原因は、飼料価格の高騰である。よつて政府は、現在の値上り幅の妥当性について厳正な再検討を加えるとともに、強力な行政指導を講じ、飼料価格抑制の可能性追究のために、より一層の努力を傾注すべきであると考えるがどうか。
2 配合飼料価格の大幅な暴騰が畜産物価格の大幅な値上りへストレートに連動されるのみでは、物価狂騰への加熱と畜産物の需要の低下を招くことになる。このことは、畜産農家への打撃はいうまでもなく、一般国民の消費生活にも深刻な影響を与える結果となる。
 よつて、政府による飼料価格安定基金への補填については、四十八年十月以来講じてきた補填額についての大幅引き上げ、四十九年二、三月の値上り額(三三九億円)に見合う特別補填をすることはもちろん、四十九年四月以降についてもこれを継続させ、多額の負債に悩む畜産農家の現状を考慮して、これらをすべて直接助成方式にすべきであると考えるが、政府にその意図はあるか。
3 相次ぐ飼料の原料価格の高騰、混乱に乗じ、現在、配合飼料の品質低下が問題となつているが、これが家畜の正常な発育を阻害し、生産の低下をもたらしている。政府は、これに対し早急に強力な行政指導を行うべきであり、とりわけ、配合飼料の原料標示のためのラベルの貼付については、その徹底をはからせるとともに、原料の配合割合についてもラベルに明示させる措置を講ずべきであると考えるが、政府はいかなる具体的な措置をとろうとしているか。

二、政府関係融資に対する特別措置について

 政府は、四十八年十月から四十九年三月までの間、畜産農家の配合飼料購入資金として四一〇億円の融資をしたが、四十九年二、三月からの値上り分についてもまた同様の措置を講ずる用意があるといつている。これらの融資については、すべて、畜産農家経営の窮状からみて、据置期間と償還期限を長期に延長し、金利も棚上げにすべきであると考えるが、政府にその用意はないか。
 また、畜産農家は、総合資金、農業近代化資金等政府制度資金借り入れにより、すでに多額の負債をかかえている。(とりわけ、北海道の酪農家の現状には看過できないものがある)従つてこれら借り入れ資金についても同様の措置を講ずべきであると考えるがどうか。

三、畜産物政策価格改定(生産者価格の大幅引上げ)等について

1 加工原料乳の価格改定については、「生産費及び所得補償方式」に基き、最近の配合飼料、生産資材及び労賃等の高騰を十分反映させた算定方式に抜本的に改定すべきである。ことに、自給飼料生産労働の労賃については、飼育管理労働と同様の労賃に評価替えする方式に切り替えるとともに、酪農は搾乳することが本来の目的であることからして搾乳牛償却費や副産物価格の算定については適正な方式に改定すべきであるが、政府にその考えはあるか。
2 豚肉価格の算定については、従来の「需給実勢方式」を廃止し「生産費及び所得補償方式」に切り替え、“上物”以外の豚肉についても買い上げの対象とすべきであると考えるがどうか。
3 卵価安定基金の補填基準価格は、「生産費及び所得補償方式」に基き、四十八年十二月に決定された一キログラム当り二〇二円については実情にそぐわないものであるので、これを大幅に引上げるとともに同基金の資金造成については国が大幅な助成措置を講ずべきであると考えるがどうか。
 また、液卵公社の機能拡充のため、同公社による買上げ数量枠についてはその拡大をはかり、かつ、その売買差損についても国が大幅な助成措置を講ずべきであると考えるがどうか。
4 牛肉、ブロイラー等についても、一定価格の維持をはかるため、「畜産物価格安定法」の指定食肉の中に取り込むべきであると考えるが政府にその用意はあるか。
5 畜産物の消費者価格については、前記一項及び二項の積極的な措置とあわせ、価格調整機能を充実して価格安定をはかることが重要であるが、どのような措置をとるのか。
6 大手乳業メーカーは、乳製品の実勢価格が安定指標価格よりはるかに高位で推移してきたことにより、四十七年、四十八年度の二年間で一三一億円の超過利潤を得てきたと指摘されている。これは乳価の不足払い制度の建前からみても矛盾するものと考えるが、これを畜産農家へ還元する用意はないか。
 また、不足払い制度の運用については、その本旨からみて、再生産の確保と消費者価格の安定へ機能するよう厳正な検討を加えるとともに、再度、こうした事態が生じないよう強力な行政指導を実施すべきであるが、政府はいかなる方針でのぞむか。
7 畜産物の生産者価格改定については、生産資材費や労賃等が著しく高騰した場合、年度内改定を実施すべきであると考えるがどうか。
8 畜産物の安易な輸入措置が、国内価格に悪影響を及ぼし、従来の国内生産の拡大にとつて大きな障害となつてきた。世界的な食糧事情悪化の予測に照らしても、政府は、長期的な展望から、乳製品、牛肉、豚肉、液卵等、畜産物の輸入にあたつては、慎重な配慮を講ずべきであると考えるが、政府の見解はどうか。

四、飼料の自給ならびに備蓄体制の強化等について

1 飼料の抜本的な国内生産拡大を基本とした長期生産目標を早急に検討すべきであると考えるが、政府にその用意はあるか。
2 政府が、四十九年度予算案の中に飼料作物の生産振興、農用地開発公団構想、政府操作飼料の数量拡大、飼料穀物備蓄等々についての対策を盛り込んだことは、一応評価できる。
 しかし、その内容については、決して満足できるものではないので、今後、次の対策を早急に検討すべきであると考えるが、政府はどのように考えているか。

ア 飼料作物については、「生産費及び所得補償方式」に基き、政府が計画的に買い上げる。
イ 農用地開発公団が実施する予定の基盤整備については、国庫負担率をさらに大幅に引上げる。
ウ 政府操作飼料については、麦の取り扱い量をさらに拡大させることをはじめとして、とうもろこし、大豆粕、マイロ等、他の飼料作物等についてもこの際考慮する。
エ 飼料穀物の備蓄対策についてもより一層の拡充を期する。

3 飼料増産対策の一貫として、農業関係者から国有林野における未利用地の活用については強い要請がなされているが、これに対する政府の方針はいかなるものか明らかにされたい。
4 水田裏作の活用によつて麦の生産を確保するため、作付け体系の確立や品種改良のための技術開発については、その対策を積極的に促進すべきであると考えるが、政府にその用意はないか。
 また、湿田等を活用した飼料用稲作についても前向きに検討してはどうか、その所見を明らかにされたい。

  右質問する。