質問主意書

第72回国会(常会)

質問主意書


質問第一号

女性ホルモンを含む医薬品の販売規制に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十八年十二月一日

須 原 昭 二   


       参議院議長 河 野 謙 三 殿


   女性ホルモンを含む医薬品の販売規制に関する質問主意書

 女性ホルモンすなわち黄体ホルモン及び卵胞ホルモンを成分とする製剤は、次の表にみられるとおり昭和三十五年から四十六年にかけて発売が許可されている。

図 表

 そしてこれらの製剤に対する許可は、月経異常、機能性不妊症、機能性子宮出血、黄体機能不全、月経前緊張症などの治療薬としての効能に限るとされている。
 政府は、この限定許可の趣旨を徹底するために、

(1) 四十六年十二月九日に、同製剤が避妊の効能をもつことを教示あるいは暗示することを禁止する措置をとり、
(2) 次いで四十七年四月一日に、医師の指示か処方箋がなければ購入できないとする要指示医薬品に指定し、
(3) なお追いかけて同年六月一日には、全国の薬局から、これらの製剤を引き上げる回収措置をとつた。

 諸外国においては、同様の成分を含有する製剤は、単に治療薬としてのみならず、経口避妊薬として公認されている。しかも服用に伴う副作用を少なくするための改良につとめるなど積極的態度をとつている。
 我国と同様に避妊薬としての許可を保留しているのは、トルコ、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国のみであるといわれている。
 経口避妊薬として服用する場合におこると危惧された(一)血栓症のおそれについて(1)昭和四十五年四月に国際家族計画連盟中央医学委員会が卵胞ホルモン含有量を〇・〇五mg以下にすれば心配ないと表明したこと(2)四十七年にアメリカで八万人の女性について調査した結果、因果関係が認められなかつたこと。
 また(二)がん発生のおそれについて、英国医薬品安全委員会が、四十七年十月に否定的見解を表明したこと等の医学的検討の結果が一方にあり、他方において(三)アメリカで一、〇〇〇万人、中国で二、〇〇〇万人、その他の諸国で二、〇〇〇万人計五、〇〇〇万人の女性が経口避妊薬として服用しているという現状。
 しかも発売されてから十五年を経過するのに、それらの諸国の女性に、特別の疾病率の増加もみられないという実績にかんがみて、我国においても相当数の女性が現に経口避妊薬の服用によつて家族計画を実行しているといわれ、その数は三十万人あるいは五十万人とも推定されている。
 先般、毎日新聞社人口問題調査会が行つた第十二回家族計画世論調査によると、現在、避妊の実行者・経験者は、八一・三%に達し、その他の家庭では、子供が欲しいため、あるいは妊娠する見込みがないことが、実行しない理由とされている。従つて、家族計画を必要とするほとんどすべての家庭が避妊を実行していることになる。そのうちに、政府が認めないとしている経口避妊薬による避妊の実行者が二・四%あることは注目すべき数字である。
 今、世界的な問題として、人口の増加と食糧をはじめとする資源の欠乏に関して危機が叫ばれているが、政府がその対策の提示を避けても、国民は、自らの知恵をもつて生活を守り、子供を教育していく道を選んでいく。右の家族計画の実行率の高さは、その知恵のあらわれである。
 このような高い家族計画の実行率にかかわらず、人工妊娠中絶は四十二年以降七〇万台を割らず、四十七年も引き続き七二六、八三五件が報告されている。この正規の報告に基づく統計と、四十四年十二月に実施された優生保護実態調査の結果とを総合して推計される中絶の実数は、二〇〇万人とみられ、妊娠可能女性の四二%が中絶の経験者であるという驚くべき現実である。そしてその四六%の女性が計画外の妊娠であつたからと訴えている。
 このことは現在、政府が公認している避妊方法の失敗率の高さを示している。失敗率の比較は、次のとおりである。

 現在許可されている器具・薬品によるもの
コンドーム、ペッサリー       一五%
ゼリー               二五%
これに対して経口避妊薬は、〇・一 %であるから、その確実性はほとんど一〇〇%である。
 以上のような実態をふまえて、次の各項について、政府の見解をただしたい。

一、政府は、“経口避妊薬としての使用は認めない”といつているが、現実には、経口避妊薬の服用による家族計画の実行が行われていることは、前記の毎日新聞社人口問題調査会の世論調査が示すとおりである。
 許可前の臨床試験として医師が行うものはよいということであるなら、その実施者は、組織化されたグループのメンバーであるべきはずであるけれども、実際には、そうなつていない。四十六年度の医師会の家族計画指導者講習会において使用されたテキスト「経口避妊薬の投与上の注意」は、ひろく産婦人科医を対象として配付されている。
 右の事実は、臨床試験にかかわらず、ひろく医師の指導監督のもとであるなら経口避妊薬の服用を黙認しているということになると了解してよろしいか。

二、そうであるなら、服用者に対する医師の管理体制をどうするかが問題の本質であつて、薬品そのものの管理が医師でなければならないということにはならないはずである。医薬品の管理を含む供給業務をつかさどるものとして薬剤師の制度が法定されている。薬品は薬剤師が管理し、医師の指示か処方箋によつて、薬剤師が供給業務にあたるという制度上の職務区分に即しても服用者の医学的管理はその目的を達せられるはずである。
 行政上の措置は、目的の達成に必要の範囲をこえて行われるときは、合理性を欠くことになる。
 医師法第二十二条には、医師の処方箋交付義務が法定されている。その例外として交付義務が免除されるのは、

(1) 暗示的効果を期待する場合において、処方箋を交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
(2) 処方箋を交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれのある場合
(3) 病状の短期間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
(4) 診断又は治療方法が決定していない場合
(5) 治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
(6) 安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
(7) 覚せい剤を投与する場合
(8) 薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合

のほか

(9) 患者が処方箋の交付を必要としない旨を申し出た場合

だけであると、定めている。
 経口避妊薬の投与は、右法条列記のいずれにも該当しない。すべての薬局から、経口避妊薬としても使用できるからという理由で、女性ホルモン製剤を回収してしまつて、産婦人科医師の専売権を認めるような措置をとることは、患者から、医師に対する処方箋交付の申し出を不可能にすることであつて、医師法第二十二条が置かれた趣旨に反する措置であると考えるがどうか。

三、政府は、今日のように多数の家庭が家族計画を必要としている事態をどのように受け止めているのか。好ましからざる傾向だとしてこれを制限し禁止する方向へもつていく方針であるのか。それとも現実に存する必要性にこたえて、より安全性の高い、そして経費のかからない方法の研究開発を推進していく方針であるのか。

  右質問する。