質問主意書

第71回国会(特別会)

答弁書


答弁書第二七号

内閣参質七一第二七号
  昭和四十八年十月九日

内閣総理大臣臨時代理                
国務大臣 三木 武夫      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員喜屋武眞榮君提出中南米移住者の援護助成に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員喜屋武眞榮君提出中南米移住者の援護助成に関する質問に対する答弁書

一、について

 政府としては、日本人が自己の発意に基づいて移住することは、国民の海外発展として好ましいので、これを側面的に援助するとともに、これらの人々が相手国において善良なる市民として定着し、相手国の発展に寄与するように指導している。

二、について

 日本人及び日系人の数はブラジルが約六十九万人、ペルーが約五万七千人、アルゼンティンが約二万八千人、ボリヴィアが約一万二千人、メキシコが約一万人と推定され、その他の国は、それぞれ数百ないし数千人である。
 移住者全体の出身県別統計は作成していない。
 なお、戦後渡航費の貸付又は支給を受けて移住した者の出身県別数は別表のとおりである。(別表参照)

三、について

 外国に在る日本人は、その身分事項に変動を生じたとき、戸籍法の定めにより、当該国にある我が公館に届出をすることとなつている。当該公館では、その届を外務大臣を経由して、本籍地の市町村長に送り、戸籍簿に記載される仕組になつている。戸籍の整備は、当該届出人がその届出を確実に行うことにより、全うすることができると考えられるので、在外公館では種々の手段を講じて、届出の必要性や、届出要領などの周知に努めている。

四、の1について

 海外移住事業団は、国内における移住に関する啓発、渡航前講習、渡航費及び支度金の支給、国外における入植地と雇用先のあつせん、営農指導、融資、移住地での道路、学校、診療所等の公共施設の建設等を通じて、直接、間接に移住者に援助を行つている。
 現在、事業団は、移住者の早期定着安定のため、移住者に対し、その経営面と生活環境面において援助を行うことを、事業の重点としている。

四、の2について

 海外移住事業団が、移住者に融資した年度別貸付金は、次のとおりであり、年々その融資額は拡大されている。
 昭和四十五年度 六億一千万円
 昭和四十六年度 六億四千万円
 昭和四十七年度 七億九千万円
 昭和四十八年度 八億五千万円(計画)
 農業移住についての融資対象は、安定した経営段階に達していない自営農、又は独立を希望する雇用農及び移住者により構成された協同組合等の農業団体である。
 中小企業移住についての融資対象は、受入国の発展に寄与する事業を経営しているか、又は経営せんとする者である。
 ただし、事業団は、貸付に当り、個々の事業内容を審査のうえ、貸付額を決定している。

四、の3について

 海外移住事業団ボリヴィア支部は、綿作に適する移住地の入植者の経済安定のため、綿作を営農計画に取り入れることにし、昭和四十六年度及び四十七年度には、繰綿工場の基本設備と綿作者の営農を重点に融資した。
 しかしながら、融資の対象は、四、の2のとおりであつて、綿作者は勿論その他の者にも融資することが出来るので、今後は、融資資金の増額に出来るだけ努力すると共に、融資対象を拡げ、早期に移住者の生活安定を図りたい。
 なお、貸付金利については、移住者受入国の金融制度及び農業政策等も考慮のうえ、定めている。

五、の1について

 昭和四十八年三月現在の、海外移住事業団直営移住地及びその他の集団移住地における日系人の就学率は、中等学校約八十七パーセント、高等学校約三十八パーセントであり、中南米諸国の十五才から十九才までの中等教育の平均就学率約三十四パーセントに比し、上回つている。
 ただし、日本国内における就学率に比較すれば、未だ十分ではなく、この主な原因としては、通学距離、父兄の教育費負担能力(向学心に燃える貧困家庭の子弟に対しては、移住事業団から育英資金を支給)、子弟労働力への依存等が挙げられる。

五、の2について

 移住地の教育は、受入国の教育制度の下に行われるものであり、その施設の整備は、原則として、受入国側が責任を持つべきものであるが、中南米諸国は、一般的に発展途上国が多く、教育面では、まだ十分に整備が行われていない現状にある。
 このため、海外移住事業団では、まず、その直営移住地を対象とし、校舎、教員宿舎等の建設、教材教具の支給等、教育施設の整備を進めている。その他の集団移住地については、当該移住地当局と折衝の上、可能な範囲において漸次改善方努力している。
 なお、オキナワ移住地の教育施設は、そのほとんどが、琉球政府時代に建設、整備されたものであるが、未だ、必ずしも十分ではないと考えられるので、海外移住事業団では、既に行つている小学校の整備及び寄宿舎の建設等を含め、今後とも、必要に応じ、これが整備、充実に努力することとしている。

五、の3について

 移住者子弟の日本語教育の必要性については、移住者父兄の強い要望もあり、十分これを認めているが、受入国の法制上の制約や、移住者の現地同化という問題をも考慮し、あくまで補習教育という姿勢で対処すべきものと考えている。海外移住事業団では、現在、この方針の下に、現地教師指導のための日本人教師三名を、ボリヴィア、パラグァイ及びドミニカの三国へ各一名派遣するとともに、教科書、辞典等を支給する等、一連の施策を進めており、今後とも、積極的に検討することとしている。

五、の4について

 移住者子弟に対する国費又は県費補助の研修制度としては、海外移住事業団の移住者子弟技術研修、日本海外移住家族会連合会の移住者家族子弟研修及び県費留学の制度があり、その昭和四十八年度受入人数は総数百七名となつている。右のうち、県費留学生については、県によつて待遇が相違する等問題があつたので、昭和四十六年度より一部の県に対し、国費補助の道を開いたが、これにより、各県の県費留学生の待遇が改善、調整されることを期待している。
 我が国の国立大学、研究機関等での研修制度としては、文部省国費留学生制度及び海外技術協力事業団研修員制度による方法等がある。本来、これらの制度は外国人一般を対象とするものであるが、特に前者の文部省国費留学生制度においては、中南米諸国から受入れる留学生のうち、約半数が日系人で占められている。

六、の1について

 在サンタ・クルス領事事務所を領事館へ昇格することは、種々の制約があり、早急な実現は困難であるが、在ボリヴィア大使館館員の機動的な活用により、緊急事態に対処すべく、その方途につき、目下鋭意検討中である。

六、の2について

 ボリヴィアにおける海外移住事業団の移住地整備計画としては、サン・ファン移住地再建対策(昭和三十九年度より昭和四十四年度までの六カ年計画、実施内容は道路補修、排水路整備並びに機械畑造成その他)と、オキナワ移住地総合対策(昭和四十四年度より昭和四十九年度までの予定)がある。
 サン・ファン移住地再建対策は既に終了し、オキナワ移住地総合対策は、現在実施中で、飲料水対策と道路整備に重点をおいている。飲料水確保(井戸の掘さく)については、オキナワ移住地に対しては、特別に各戸一基ずつの深井戸(深さ平均七十メートル)百八十三基(米国側がやり残した分)を、昭和四十七年度をもつて、完成した。道路については、総延長百九十三粁の改修及び新設を計画に基づき実施中である。
 学校、学生寮(寄宿舎)については、移住地毎に所要数を勘案して建設しており、小学校の整備と、サンタ・クルス市における学生寮の建設が進行中である。
 移住地の電化は、逐年一移住地ずつ実施中で、サン・ファン、オキナワとも近年中には実施する計画である。
 また、住宅については、個人の施設であるので、補助等は考えられないが、改築のための融資については、前向きに検討したい。

六、の3について

 オキナワ移住地のかんがい施設については、その設置方要望があるが、その規模等調査を要し、また、ボリヴィア国の地域開発計画との関係があるので目下検討中である。

六、の4について

 オキナワ第三移住地は、ボリヴィア国農地改革院から、一万八千三百二十一ヘクタールの土地を譲渡され、そのうち約五千ヘクタール程度を移住者が利用しているが、残余の土地は、今後の営農拡大、新規移住者や分家者のために保留している。この保留地に対して昭和四十五年九月に、ボリヴィア人農民の侵入が起つた。
 この土地は、第三移住地農協が所有者であるが、海外移住事業団は農協に代わり、農事裁判所や、県知事に提訴又は抗議を行つてこの侵入の排除に努めた結果、裁判の最終判決があつたところ、侵入者の開墾実績に対する補償問題が残つたので、一千八百ヘクタールの土地割譲を行うという妥協案で、ボリヴィア側を納得せしめている。

七、の1について

 海外移住者の実態については外務省が関係省、諸団体あるいは民間専門家等の協力を得て随時、この種の調査を行つている。調査結果は必要に応じ、都道府県等へも配布している。これと併行して、海外移住事業団においても、随時、実務的調査を行つている。
 なお広報については、更に活発にこれを行うこととしたい。

七、の2について

 今後も必要に応じて随時派遣することとしたい。

別表

 出身県別、渡航費貸付または支給移住者数(昭和27~47年度)
都道府県名        都道府県名
北 海 道4,200    滋   賀126
青   森631京   都339
岩   手814大   阪849
宮   城862兵   庫934
秋   田425奈   良220
山   形800和 歌 山1,815
福   島2,555鳥   取272
新   潟369島   根411
茨   城584岡   山921
栃   木302広   島1,924
群   馬1,178山   口2,127
埼   玉439徳   島327
千   葉575香   川589
東   京3,552愛   媛1,773
神 奈 川1,317高   知2,685
山   梨402福   岡4,262
長   野797佐   賀1,090
静   岡867長   崎3,794
富   山227熊   本4,307
石   川282大   分478
岐   阜481宮   崎1,569
愛   知593鹿 児 島2,485
三   重485沖   縄6,725
福   井397  計63,156