質問主意書

第71回国会(特別会)

答弁書


答弁書第一九号

内閣参質七一第一九号
  昭和四十八年九月四日

内閣総理大臣 田中 角榮      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員鈴木一弘君提出物価等政府の経済財政運営に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員鈴木一弘君提出物価等政府の経済財政運営に関する質問に対する答弁書

一、について

 本年初来、公定歩合の引上げ、預金準備率の引上げ、公共事業等の施行時期の調整等、財政金融面から総需要抑制を強めてきているが、民間設備投資、民間住宅投資等の需要は引き続き旺盛に推移している。他方、生産、出荷も依然高い伸びを続けているが、生産面の制約もあつて需給ひつ迫の度合は一段と強まつている。
 このようななかで、卸売物価は根強い実需の増大や海外素材高等を背景に騰勢を強めており、また、消費者物価は卸売物価の上昇等を背景に依然として根強い騰勢を示している。
 一方、国際収支面については、旺盛な海外需要、ドルベース輸出価格の上昇等によつて輸出は根強い伸びを示しているが、輸入が、景気拡大や輸入構造の変化等によつて急増していることに加え、海外インフレーシヨンの進行等により輸入価格が急上昇していることもあつて急激に増勢が加速している。このため、貿易収支の黒字は逐月縮小し、長期資本収支の大幅赤字も加わつて、総合収支は、三月以来、月間十億ドル前後の赤字が続いている。
 銀行貸出増加額の鈍化や貸出金利の上昇等引締め政策の効果は、金融面に次第に浸透してきているものとみられるが、需要の実勢や物価の騰勢はなお根強く、このような情勢に対処して、今回、財政金融両面からの総需要抑制策の一段の強化、設備投資、建築投資の抑制等を内容とする物価安定緊急対策を決定したところである。
 今後は、これまでの諸対策の効果もあいまつて、経済は次第に安定の方向に向い、また、物価の騰勢も鎮静化していくものと期待しているが、政府としては、経済特に物価の動向を慎重に見守り、今後とも機動的、弾力的な政策運営を行つてまいる所存である。

二、について

 1及び2 昭和四十八年度に入つてからの経済の実勢は設備投資、住宅投資関連指標の動向や生産・出荷等の状況からみて引き続き拡大基調が続いているものとみられる。また、物価も需要の増大に輸入価格の高騰という海外要因等も加わつて卸売、消費者物価とも根強い騰勢を示している。
 一方、国際収支については、景気の拡大等により輸入が急増しており三月以降経常収支はほぼ均衡し、これに長期資本収支の赤字が加わつて総合収支は赤字が続いている。
 本年度の政府の経済運営の基本的態度は物価の安定と国際収支の均衡を図りつつ長期的視点から国民福祉の充実を促進することにあり、国際収支面については急速に大幅黒字が解消され、また、国民福祉充実のためには各種の施策が講じられつつあるが、前述のような物価の動向にかんがみ本年初来数次にわたる公定歩合や預金準備率の引上げ、公共事業等の施行時期の調整等財政金融面から需要の抑制に努めてきており、更に今回物価安定緊急対策を決定したところである。
 これら諸対策の効果は、今後実態経済面にも浸透してくることが期待される。
 今後の経済見通しについては、当面これらの諸対策の効果の浸透度合を見極める必要があり、かつ、今後の国際通貨動向、世界経済の動向等なお流動的な要因もあるのでこれらの推移を慎重に見守る必要があると考える。
 なお、政府としては今後とも物価の安定を最優先の課題として、機動的、弾力的な政策運営を行い、経済を政府見通しの意図する息の長い安定した成長路線に定着させるとともに物価の安定に努めてまいる所存である。
3(1)(イ) 政府は本年一月六日、昭和四十八年度の経済見通し策定に際し、物価に関する見通しを政策目標として策定した。
 その後、予想以上に急速な景気の拡大、海外における農産物の不作、海外諸国のインフレ含みの景気の拡大、一部商品に対する投機的需要等により、現在の物価上昇がもたらされたものと考えられる。
(ロ) 政府・日銀は、従来から物価の安定を政策の最重点課題として、公定歩合、預金準備率の引上げ、公共投資の施行時期の調整や輸入の積極的拡大等の諸対策を積極的に推進してきた。
 また、価格高騰物資については、緊急輸入、生産増強等の措置をとるとともに、投機的動きに対しては、「生活関連物資の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」の対象物資に指定して、これに対処している。
(ハ) 更に現下の物価情勢にかんがみ、今般「物価安定緊急対策」として、財政執行の繰延べ、金融の一層の引締め、民間設備投資及び建築投資の抑制、消費者信用の調整、個別物資対策の強化からなる対策を決定したところである。
(2) 前記(1)の諸対策の効果は、今後卸売物価を中心に次第に現れてくるものと期待しているが、物価情勢には引き続き十分な警戒を払い、今後とも諸般の物価対策を強力に推進することにより物価安定を図つてまいる所存である。

三、について

1(1) 本年一月以降の数次にわたる金融引締め措置により、金融面では市中貸出金利の上昇、企業の手許流動性の低下等引締め効果がかなり認められるに至つていたが、経済実体面においては、民間設備投資を中心に需要が引き続き堅調に推移し、物価の騰勢も一向に衰えをみせていない状況にある。
 このような情勢にかんがみ、この際一段と引締めの強化を図り、従来の引締めの効果を経済実体面に早急に浸透させることが肝要であると考え、今回公定歩合の大幅引上げをはじめ、準備率の引上げ、窓口指導の一段の強化等の措置がとられることとなつたものである。
 これにより、今後総需要の抑制には十分な効果を発揮してゆくものと考えている。
(2) 政府は、従来より物価の安定を最優先の課題として、これまで各種の対策を講じてきたところであり、今後、諸対策の効果が次第に現われるものと期待しているところであるが、なお引き続き物価動向には十分警戒し、物価安定のための諸施策を推進してまいりたい。
(3) 政府としては、従来から、財政金融政策による総需要の管理、価格高騰物資に対する個別対策等物価安定のための諸施策を強力に推進してきたところであるが、更に、今般、物価安定緊急対策として、財政執行の繰延べ、金融の引締め、民間設備投資、建築投資の抑制及び消費者信用の調整等物価対策の一段の強化を図つたところである。
2 物価の上昇等経済の根強い拡大基調に対処するための総需要抑制策として、財政面からも、既に、二度にわたり、公共事業等の施行につき、上半期の契約を抑制する措置をとつてきたところであるが、最近における物価の状況等経済情勢の推移にかえりみ、総需要抑制のための総合的施策の一環として、財政面からの抑制措置を更に強化することとし、去る八月三十一日閣議決定を行い、財政投融資対象事業を含め、財政の執行の繰延べ措置を講ずることとした次第である。
3(イ) 公共料金については、従来と同様、極力抑制的に取り扱うこととし、真にやむを得ないものを除きその引上げは認めない方針で対処していくこととしたい。
 なお、国鉄運賃の改定についてはその財政状況等を勘案するとやむを得ないと考える。
(ロ) 価格協定等の独占禁止法違反行為については、公正取引委員会において厳正な審査を行い、規制措置を講じているところであるが、なお一層有効適切な規制を図るべく、今後とも公正取引委員会の機能の強化に努めてまいりたい。
4 今回のような深刻な品不足は、世界的な好況により輸入原材料需給がひつ迫したこと、国内供給面において、一部工場の事故、全国的な異常渇水、公害問題等により予期された増産が達成されなかつたことなどが大きく影響している。しかしながら、今日の品不足を招いた根源的背景は、経済の拡大テンポが予想外に大きかつたこと、すなわち、昨年秋からの景気上昇が急テンポであり需要が急激に拡大したためであると考えている。
 このため、政府としては本年初めから、総需要抑制措置を講じてきたところであるが、生産の上昇にもかかわらず、なお物資の需給は広範にひつ迫しており、これを緩和するために、八月二十九日に公定歩合及び預金準備率の第四次引上げを実施するとともに、更に八月三十一日の物価対策閣僚協議会において財政執行の繰延べ、民間設備投資及び建築投資の抑制、消費者信用の調整等総需要の抑制を一段と強化することとしたものである。
 同時に需給のひつ迫している物資の供給の増大についても、業種の実態に応じ、生産の増大等に全力をあげて取り組むよう業界を指導しているところであるが、その際中小企業者への供給を確保することが特に必要であるので、小形棒鋼をはじめとする各種鋼材、塩化ビニール電線、塩化ビニール管及び紙・板紙について、あつせん相談所を開設する等の措置を講じてきたところである。また灯油については「生活関連物質の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」の特定物資として追加指定することとした。
 今後とも、その他の需給ひつ迫物資を含め、適確な需給見通しの下に、増産、輸入の促進、内外需の適切な調和、小口需要者に対する供給の確保等業種の実態に即して所要の需給調整措置を講じてまいることとしている。
5 通産省が七月時点で調査した四十三品目の需給状況は以下のとおりである。
 製造段階における製品の需給動向をみると、「緩慢」、「やや緩慢」とみられる品目が十二%、「安定」とみられる品目が三十三%であり、「ややひつ迫」ないし「ひつ迫」とみられる品目が五十五%となつている。
 需給のひつ迫は多方面に及んでいるが、特に原材料や部品の確保にあい路があるとするものが多い。
 今回の品不足は、世界的好況により輸入原材料需給がひつ迫したこと、国内供給面において一部工場の事故、全国的な異常渇水、公害問題等により予期された増産が達成されなかつたことなどが大きく影響している。しかしながら根源的背景は経済の拡大テンポが予想外に大きかつたこと、すなわち昨年秋からの景気上昇が急テンポであり、需要が急激に拡大したためであると考えられるので、政府においては総需要の抑制の一段の強化を図ることとし、また生産の増加等供給の拡大に努めるとともに、問題物資については適確な需給見通しの下に増産、輸入の促進、内外需の適切な調和、小口需要の確保等、業種の実態に即して、所要の需給調整措置を講ずることとしている。

四、について

1(1) 本年六月末における税収の進捗状況は、一般会計分で、前年同月を三・二ポイント上回つており、順調に推移してきているものと考えられる。従つて本年度においては、当初予算額に対して相当の幅の増収が生じることは確実であると思われる。しかしながらこの進捗状況は、六月までのわずか三か月分であり、また、経済諸状況の今後の動きが注目されるところであるので、増収の具体的な額を見通すことは、現段階では困難である。
(2) 本年度における自然増収の取扱いについては、歳入面における自然増収見込み、歳出面における追加財政需要見込みのいずれをとつても、なお、極めて流動的な要因が多く、確定的な見通しをたてることが困難な状況にあるので、現段階では、まだ具体的な構想は持つていない。
(3) 所得税の減税は、国の財政運営の基本に関連する問題であり、これに関する政策決定は予算編成の際に財政需要、財源事情等をも勘案しつつ財政金融政策全般の見地から総合的に検討すべき問題である。
 また、所得税の課税最低限を考えるに当たつて、物価の状況についても配意すべきことは当然であるが、このことは一年一年を区切つて判断するのではなく、ある程度の期間を区切つて判断すべき問題であり、年度内減税は考えていない。
2(1) 国債の月々の発行額については、従来から、国債の円滑な市中消化を図るため、その時々の金融情勢等を勘案しながら、例えば資金余剰期には発行額をふやすなど、弾力的に決定してきている。本年度においても、このような考え方に従い、資金の大幅な散超期である四月、五月に集中的に国債発行を行つたところである。国債の発行については、このように、その時々の金融情勢等に応じて行う必要があるので、年度途中における国債発行実績は、必ずしも、公共事業の進捗率に合致することにはならない。
(2) 国債の年度間発行額については、従来から、経済情勢等に応じて弾力的に調整することを原則としてきており、本年度においても、今後、自然増収等の見極めがついた段階で、国債の減額等についても検討を行うことになろう。
(3) 以上述べたように、建設国債としての性格やその運用について、従来からの考え方を改めることは特に考えていない。
3 御趣旨の点については、当面なお物価の動向とそれが生活保護世帯及び社会福祉施設入所者等の生活に与える影響を見極めつつ、検討してまいりたい。
4(イ) 昨年秋以降の資材費等の値上りに伴う事業費の増大については、昭和四十八年度予算の実行段階において公営住宅、改良住宅及び公立文教施設の国庫補助単価を引き上げる等事業の執行に支障を生ずることのないよう所要の措置を講じてきているところである。
(ロ) 地方交付税の税率については、地方財政の安定性を確保する見地からこれを変更せず昭和四十一年度以来現在に至るまで据え置かれてきたが、その間の経済成長に伴つて、地方交付税の総額は順当な伸びを示し、地方財政の体質改善に寄与してきたところである。
 もとより地方財政については、今後の経済情勢や財政環境の推移、特に地方財政需要の動向を見守りながら、その運営に支障を生ずることのないよう適切な措置を講ずることが必要であるので、今後とも地方税、地方交付税、地方債等を総合的に勘案しながら必要な地方財源の充実を期することとしたい。