質問主意書

第71回国会(特別会)

答弁書


答弁書第一三号

内閣参質七一第一三号
  昭和四十八年七月三十一日

内閣総理大臣臨時代理                
国務大臣 三木 武夫      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員峯山昭範君提出合成洗剤による健康被害及び環境汚染等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員峯山昭範君提出合成洗剤による健康被害及び環境汚染等に関する質問に対する答弁書

一、について

(1)(イ) 種類と成分組成
 合成洗剤の種類は、粉末洗剤、液体洗剤及びその他であり、その成分組成は、次のとおりである。
[1] 粉末洗剤(主として衣料の洗たく用)
 成分としては、鉱油系、高級アルコール系の界面活性剤及びトリポリリン酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ・ボウ硝等のビルダーからなる。
[2] 液体洗剤(主として台所用)
 成分としては、鉱油系、高級アルコール系等の界面活性剤、若干のエタノール、尿素等の溶解補助剤及び水からなる。
[3] その他
 形状は、ペースト状、固形があり、成分としては、鉱油系、高級アルコール系の界面活性剤が主成分である。
(ロ) 洗浄効果
[1] 粉末洗剤は、身体から分泌される皮脂、外部から付着するじんあいなど油性、固形の汚れを落とすのに適している。
[2] 液体洗剤は、食器などに付着した油脂類の汚れを落とすのに適している。
(2)(イ) 家庭用合成洗剤の生産企業は、ライオン油脂株式会社、花王石鹸株式会社、P&Gサンホーム株式会社など五十七社であり、化学工業統計によれば、昭和四十五年から四十七年における種類別生産数量は、次のとおりである。
(単位トン)
 昭和四十五年昭和四十六年昭和四十七年
  粉 末 洗 剤四六六、三三九四八一、一八七五一六、四三八
  液 体 洗 剤一五九、一二四一六四、九八三一八六、六一五
  そ  の  他八二五一、一一〇七七〇
     計六二六、二八八六四七、二八〇七〇三、八二三
(ロ) 家庭用合成洗剤の出荷数量は、化学工業統計によれば、昭和四十五年六十一万三千八十二トン、昭和四十六年六十四万五千九百八トン、昭和四十七年七十万五千二百二十三トンである。なお、種類別内訳は、右記統計に記載されていない。
(ハ) 使用量については、統計がないので不明であるが、前述の出荷数量とほぼ同程度のものと考えられる。
(3) 合成洗剤は脱脂力が強く、皮脂をとることは避けられないので、人によつては手の荒れが起こる場合もある。このため家庭用品品質表示法に基づき適正濃度での使用、使用後における手の手入れ等について洗剤の容器に表示を行わせ消費者の注意を喚起している。また、洗浄力は弱いが皮膚に対する作用がおだやかであると考えられる石けん等の洗剤を消費者が自由に選択しうるような措置を講ずるよう現在業界を指導しているところである。
 肝臓障害、腎臓障害、がん等の具体的被害については聞いていないが、これらの障害は、各種の動物実験の結果からみて、通常の使用による限り発生するおそれはないものと考える。
(4) 洗剤の有害・有毒性に関しては、昭和三十七年に科学技術庁特別研究調整費により厚生省、労働省、通商産業省が総合的な研究を行つたところであり、洗浄の目的から甚だしく逸脱しない限り人の健康を害うおそれはない。(研究結果の詳細は「中性洗剤特別研究報告(総論)」(昭和四十年七月科学技術庁研究調整局)にまとめられているのでこれを参照されたい。)
 また、最近三重大学三上教授らにより胎仔に対する影響等が報告されているので、慎重を期するため更に研究を進める方針である。
(5) 合成洗剤のうち、果実、野菜又は飲食器用の洗剤については、昨年第六十八国会における食品衛生法の一部改正により、成分規格及び使用方法の基準を定めることができることとなつたのでこれに基づき本年四月、洗浄剤の規格基準を定めた。
 この結果本年十一月以降規格に適合しない洗剤の製造、販売等が禁止されるとともに、使用の基準に適合しない方法による使用が禁止されることとなつている。
(6) 果実、野菜又は飲食器用の洗剤の安全性については昭和三十七年に食品衛生調査会において内外の資料をもとに検討した結果「中性洗剤を野菜、果実又は食器等の洗浄に使用することは、洗浄の目的から甚だしく逸脱しない限り人の健康を害うおそれはない」との答申があつた。厚生省としてはこの容申にそつて指導を行つてきたところであるが、安全性の問題については、常に万全を期するとの観点から、その後も疑問が提起されるたびに慎重な検討を行つてきたところである。また、最近三重大学の三上教授らによつて胎仔への影響に関する報告等が出されたのでこれについても安全性再確認のための実験を実施する方針である。
 また、食品衛生法に基づく洗剤の規格基準の設定に伴い、現在各都道府県を通じてその周知を図つているところであるが、施行後においては全国の食品衛生監視員に監視、指導を徹底させ、安全の確保に努める所存である。
 なお、洗たく用、住居用の洗剤については、今国会に提出している「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律案」が成立すれば、それにより、必要に応じ、その基準を定めて安全性の確保を図ることとしている。
(7) 合成洗剤に関しては、我が国のみならず欧米諸国における研究も多く行われており、通常の使用における安全性は学問的に十分確立したものと考えられる。
(8) アメリカを除き、食品衛生上の観点から合成洗剤を規制している国はない。アメリカでは合成洗剤(ABS)を果実等の処理のために使用することを目的とする物質として食品添加物に含めており、使用時における濃度の規制等をしている。

二、について

(1) 合成洗剤による水域の汚染は、ABSを指標として測定されているが、水質汚濁の防止の観点から、昭和四十五年までにABSの大部分がソフト化された結果、一部の河川では、汚染の進行は一時頭打ちの傾向がみられた。しかしながら、人口の都市集中の激化とそれに対応する下水道整備のたち遅れもあり、大部分の河川において汚染はいまだに進行しているものと考えられる。
 また、湖沼、海域、地下水については、一部の湖沼を除き、ABSの測定事例は少なく、経年的な汚染の状況をは握することは困難である。
 このような現状にかんがみ、政府としては、ABSの環境に及ぼす影響等について、昭和四十七年から研究、調査を実施しており、その結果をまつて水質汚濁防止法による排水規制の対象とすることを検討してまいりたい。
(2) 水道水の合成洗剤に関する水質基準については〇・五PPM以下と定められているが、現在、平均値でこの値をこえている水源はない。また、渇水時等で合成洗剤の影響が現われるおそれのある場合には、活性炭の使用によつて除去するなど、高度な浄水処理を行うことで対処している。
 なお、現在までのところ合成洗剤に起因する汚染が問題となつたのは多摩川下流部であるが、昭和四十五年九月末以降取水を停止しており、その他の水道では、取水停止等の措置をとつたという例はない。
(3) 合成洗剤を含む下水の処理については、下水道終末処理場のばつ気槽における発泡等による機能低下の問題と洗剤中のりん酸塩が除去困難であるために放流先の湖沼等閉鎖水域において惹起される富栄養化現象との二つの問題がある。
 第一の点に関しては、合成洗剤が市場に出廻り始めた初期の段階において、洗剤の大部分がいわゆるハード型で分解し難い性状のものであつたため、発泡による処理場の処理機能の低下、放流先の河川等での発泡等の問題が数多く発生したが、その後、洗剤は、いわゆるソフト型に転換し、好気性生物処理法でほぼ完全に分解されることとなつたので、この点に関しては、近年漸次解消されつつある。
 第二の下水中のりん酸塩の除去については、通常の下水処理法では困難である。これに対応するためには、りん酸塩を含まない洗剤の開発及びりん酸塩を軽減するための研究が必要であるが、下水中にはし尿等洗剤以外にもりん酸塩が含まれているので、湖沼等の閉鎖水域については、三次処理を積極的に進めて行く必要がある。
(4)(イ) 合成洗剤中界面活性剤として多く使用されているアルキル・ベンゼン・スルフオン酸ソーダ(ABS)の四八時間半数致死濃度は、コイ、ウナギ、ヒメダカ等で二〇-三〇PPM、アユで四PPM程度であり、水産環境としては、淡水域で〇・五PPM以下、海水域で〇・一PPM以下であることが望ましいとされている。
 これまでに河川等において、ABSにより魚介類に被害があつたという報告は受けていないが、これまでの実験結果で、低濃度でも長期間飼育すると魚類の味覚細胞が影響を受けることが知られており、魚介類への影響について十分注意する必要があると考えている。
(ロ) 合成洗剤に補助剤として添加されているトリポリ燐酸が、内海内湾域での燐酸塩の供給源の無視できない部分を占めているが、燐酸塩は窒素など他の栄養塩の過度の存在とあいまつて、赤潮発生の基盤である富栄養化の一因になつていると推定されている。

三、について

(イ) 合成洗剤は、必要以上に使用しても洗浄効果が増加するものではなく、適正な量の使用をすることが必要であると考えており、既に家庭用品品質表示法に基づき、適量使用量を表示することを義務づけている。
(ロ) トリポリリン酸塩の代替品の開発については、安全性、性能等に問題があり、まだ確たる成果を得ていないが、これら代替品の開発と並行して、リン酸塩の含有率を減少させる方向での研究が必要であり、このための研究が現在進められているところである。
(ハ) なお、合成洗剤に代わつて石けんの使用を勧めることは、有機物汚染量が増加すること、牛脂等石けんの原料資源に限界があること等の難点がある。
(ニ) 前述のような施策と併せて湖沼等の閉鎖水域については下水の三次処理が必要と考えられる。
 三次処理については、現在鋭意試験研究を進めているところであるが、富栄養化防止のための三次処理については、窒素、りんの排出基準の設定等とも併せその具体的実施を進めてまいりたい。