質問主意書

第71回国会(特別会)

答弁書


答弁書第五号

内閣参質七一第五号
  昭和四十八年四月二十七日

内閣総理大臣 田中 角榮      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員黒柳明君提出大牟田市における通称爆発赤痢に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員黒柳明君提出大牟田市における通称爆発赤痢に関する質問に対する答弁書

一について

 厚生省予防局防疫課の見解は、「源井は六カ所在り、昭和十年来改造工事中にして、第二及び第三井は目下工事中にして…」と示しており(東京医事新誌第三〇七三号)、熊木地裁に保管されている裁判記録(昭和十二年(ワ)第二百十一号)には、水源改修工事は昭和十二年三月二十日に完成し、四月二十五日に竣工式を挙行したとあり、また、総合ポンプ場の完成は昭和十四年二月中と記録されている。しかしながら、大牟田市役所書記小山善浩が当該水源改修工事関係の訴訟の件で熊本地裁に出張(昭和十三年五月十九日及び七月二十八日)した後市長へ提出した復命書(昭和十三年五月二十四日及び七月三十日)の中には、前記裁判記録に記載されている昭和十二年四月二十五日の竣工式は単なる通水式であり総合ポンプ場の落成等は思いもよらないという市側(被告弁護人)の陳述の事実が報告されている。
 従つて、本流行の発生時にサイホン管工事を中止していたかどうかということは明らかではないが、総合ポンプ場に係る工事は、未だ完成していない状態にあつたということは事実である。
 なお、中止時期については、三十六年前のことであり、現在までの可能な限りの調査結果ではその年月を具体的に確認するに至つていない。

二について

(イ) その事実は、熊本県の調査に基づいて、厚生省予防局防疫課の見解とされており、熊本医学会雑誌第十四巻第四号昭和十三年(熊本医科大学解剖学教室細谷一雄)にも述べられているところである。
(ロ) 大牟田市の調査によれば、当時、清里村小学校及びその周辺地域には第三源井水を給水していなかつた。当該水を児童がたまたま飲用したか否かは明らかではない。
(ハ) 記録によると、感染あるいは発症したことは事実であるが、学校当局がこれを学籍簿にどのように取扱つたかは明確ではない。

三について

(イ) 赤痢の潜伏期については、その感染、発症成立の状況によつて、幅があるものであるが、福岡県報告書によれば、熊本県報告書に記載されている患者の最短潜伏期約三十八時間を採用した場合に九月二十三日午後十時以降の水道水が原因であると推定したものである。
(ロ) 熊本県報告書によると、城東小学校児童が九月二十五日正午頃当該水道水を飲用し、最短潜伏期(約三十八時間)の例では、九月二十七日午前二時、最長潜伏期(約六日間)の例では、十月一日午後五時、平均潜伏期(約九十一時間)の例では九月二十九日に、それぞれ発病したと記載している。九月二十九日発病の例は平均的潜伏期の場合を示したものであるが、これは極めて限られた年令層(十一~十二歳)の城東小学校児童の事例であつて、一般には、感染、発症成立の諸要因により、発病の時期が異なるものである。
(ハ) 一般に赤痢の潜伏期は通常一日乃至七日といわれているが、二十四時間未満の例もある。特に疫痢年令の小児では、赤痢固有の症状のほか、脳症状、循環器症状、呼吸器症状などの急激なものを伴うもので、しかも、後者の方が主役であることが多く、従つて、短時間のうちに死の転帰をとる例がみられる。また、疫痢年令層の小児以下でも、高年令者、虚弱者等は一般に症状も重く、比較的短い時間内で死の転帰をとる場合もある。
(ニ) 一般に赤痢の感染発症については、感染源要因、宿主要因、環境要因等の諸条件により左右される。特にこの場合、記録によると、城東小学校児童は大牟田市民に比較して感染源要因の一つである飲料水を摂取する機会は極めて少なかつたといえる。
 いずれにしても、この場合、三要因は、両者それぞれについて異なるので、一面的に論ずることは必ずしも適切ではないと考える。

四について

 当時の赤痢菌の分類については学問的に諸説があつたが、関係機関及び大学、研究機関等が検討した結果、大牟田菌株については赤痢菌異型I(駒込B)とされたものである。

五について

 一般に水道の流水中の細菌は増殖することはほとんどないといわれている。しかし、水道水中に発病させるに十分な赤痢菌が混入した場合には、いわゆる水系流行伝染病が発生しうるものである。

 当時の厚生省予防局防疫課の見解によると、水源井が本流行を発生させるに足る十分な赤痢菌で汚染されたと推定している。

六について

 当時は水源が深井戸であつたこともあつて濾過機の管理が十分ではなく、また、塩素消毒も行なつていなかつたが、現在では河川水を水源としていることもあつて、沈澱、濾過、消毒等の管理を十分に行なつているものである。

七について

 昭和四十七年三月二十二日の衆議院予算委員会第三分科会ですでに答弁したように、昭和四十六年より本件についての関係資料を可能なかぎり収集し、また、関係者の意見を直接聴取する等十分検討したものである。

八について

(イ) 関係資料を収集し種々検討した結果、いわゆる当時の水道原因説を変更する理由がない旨を国会で答弁したところであるが、戸籍受付簿による調査については、現状においては困難な面もあり、現在のところその結果を得るに至つていない。
(ロ) 死亡者の死亡場所の検討については、文献、資料等の把握に努めたが、確認する段階に至つていない。
 ある地域における伝染病の流行に際して、当該地域に係る地区別の患者発生状況を原因の究明との関連において評価するためには、罹患率によつて比較検討するのが適当と考えられる。黒木論文は、いわゆる水道説の立場から地区別の発生状況を「水道の分布状態とその構造」によつて考察したものであり、本流行にかかる患者発生の全体的様相については、他の報告書等にもあるとおり、市全域にわたつて均等に発生しているとみるのが適当と考える。