質問主意書

第71回国会(特別会)

質問主意書


質問第一〇号

農薬及び肥料中における重金属等有害物質の含有状況ならびに使用実績等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十八年七月十九日

峯山 昭範      


       参議院議長 河野 謙三 殿



   農薬及び肥料中における重金属等有害物質の含有状況ならびに使用実績等に関する質問主意書

 農薬による食品汚染が問題化して既に久しいが、食品衛生法第七条第一項の規定に基づく食品添加物等の規格基準による農薬の残留基準の設定は、昭和四十三年三月以降五年間に一八農薬、二九農作物についてであり、また、農薬取締法第十二条の六の規定に基づく安全使用基準の設定は、一二農薬、二四農作物にすぎない。
 現在わが国で使用されている農薬は、有効成分の種類にすると三〇〇以上、登録銘柄数は五、〇〇〇種類以上にものぼり、その単位面積当りの使用量は、アメリカの七倍、ヨーロッパの六倍にも達するといわれている。
 政府は、昭和四十六年に農薬取締法を改正して、農薬の登録検査、使用規制の強化措置を講じたが、いまなお十分ではない。即ち昭和四十七年八月、行政管理庁の「農薬による危害防止に関する行政監察(推進)結果に基づく勧告」は、農薬による被害の実態はあく、安全使用対策、残留毒性対策、残留農薬検査等六項目を指摘している。
 更に、白木博次東京大学教授の指摘によれば、フェニール酢酸水銀を含むセレサン石灰が全国の水田、果樹園に使用されている量は、昭和二十八年から同四十四年までの間、年間約七万トン、そのうち、水銀原体だけをとり出せば年間約四〇〇トンとなり、十七年間の水銀使用量は約六、八〇〇トンにものぼる。これが、土の中で分解され無機水銀となつて残留し、食物を通じて人体に吸収されるため、日本人の毛髪の水銀含有量は、西独人のそれと比べて約六十五倍にも達している。また、日本における農薬使用量は、水田一ヘクタール当り七三〇グラムであり、これはオランダ九グラム、イギリス及びドイツ六グラムに比し約百倍にも達している。このような各種農薬の複合汚染と、長い年月にわたる農薬の散布がいかに土壌等並びに海洋の汚染を進行させているかはかりしれぬものがある。
 農薬公害防止の最大の問題は、農薬の残留毒性の解明を急ぐとともに残留農薬の検査体制を充実することにあるが、人命にかかわる問題が依然改善されていないことは、まことに遣憾である。
 また、わが国の農業は、反当り高収量を確保するため、ぼう大な量の化学肥料を投入する生産体系が確立している。化学肥料のうち、カドミウムを含有する過リン酸石灰を例にとれば、その原料の輸入リン鉱石には、アメリカフロリダ産一四PPM、モロッコ産二六PPM、トーゴー産四四PPM、ナウル共和国産八〇PPMものカドミウムがそれぞれ含有されているといわれている。肥料中における有害な重金属類については許容量が設定されているが、農薬等による汚染との重複が考慮されたうえで設定されているのか否か、また、有害な重金属類を除去するための努力が行なわれているのか否か、非常に疑問である。化学肥料の消費はますます増大するすう勢にある今日、この対策は、緊急かつ真剣に行なう必要がある。
 これらの諸点をふまえ、左記の諸項目につき質問する。

一、農薬について

1 有機水銀系農薬は、既に製造が禁止されているが、今日までの使用量はぼう大なものといわれている。そして、有機水銀の特性から、過去十数年にわたる散布の結果、相当量の有機水銀が土壌に残留していると思われるが、その実態はいまだ明らかにされていないので、次の諸点につき明示されたい。
昭和十七年から同四十四年までの間の
(1) 有機水銀系農薬の種類別、製造業者別、年度別生産量(輸入量を含む)と都道府県別消費実績並びに種類別、製品別水銀含有濃度
(2) 無機水銀を含有する農薬について、右と同様
(3) 土壌等への投下数量につき、水銀の消費総量((1)・(2)項より推定される総水銀)
(4) 「農薬要覧」一九七二年版によると、昭和四十六年九月三十日現在、殺菌剤として、とまつ用有機水銀剤が四件、液用有機水銀剤が十五件登録されているが、これら水銀農薬の毒性、在庫の実情と年度別、製造業者別、製品別使用状況及びこれらに対する政府の対応策

2 BHC、ドリン剤など残留性の高い有機塩素系殺虫剤などは既に使用禁止などの法的措置がとられているが、これらの土壌中残留や水質汚濁は相当なものにのぼるものと考えられる。
 そこで、今日までの有機塩素系農薬の種類別、製造業者別生産量(輸入量を含む)と消費量及び製品別有害物質濃度とその土壌等への投下数量を明らかにされるとともに、有機塩素系農薬に対する行政措置の実態と今後の方針を伺いたい。

3 有機リン系農薬は、パラチオン、TEPPが昭和四十四年末に特定毒物に指定され、製造が中止されたものの、マラソン剤は、低毒性、経済性のあるものとして現在多く使用されている。しかし、有機リン系農薬の汚染に原因すると思われる目の奇病(視力の低下や瞳孔収縮、拡大)や肝臓機能障害等が、長野県佐久市や大阪府守口市をはじめ、ほぼ全国的な規模で各地に発生していることからその毒性を再認識し、直ちにその使用を中止する必要がある。パラチオン、TEPP等有機リン系農薬の過去及び現在における製造業者別、種類別の生産量(輸入量を含む)と消費量及び製品別有機リンの成分濃度、有機リンの消費総量を明示されたい。

4 有機水銀系農薬、有機塩素系農薬及び有機リン系農薬以外の農薬で食品衛生法第七条第一項の規定に基づき残留基準の設定されているものについて、過去及び現在における製造業者別、種類別の生産量(輸入量を含む)と消費実績並びに製品別有害物質の成分濃度及びその消費総量を明示されたい。

5 前記「農薬による危害の防止に関する行政監察(推進)結果に基づく勧告」において指摘された各項目について、農林省及び厚生省はいかなる改善措置を行なつたか。

二、肥料について

1 過リン酸石灰の原料のリン鉱石には、一四~八〇PPMにのぼるカドミウムが含有されているといわれている。その実態及びリン鉱石の輸入量(年度別、国別)、製品としての過リン酸石灰におけるカドミウム等主な重金属の平均含有量を明示されたい。

2 肥料中におけるカドミウム等の重金属は右記肥料以外にいかなる種類の肥料にどれだけ含有されているか。
 カドミウム等の重金属が肥料を通してどの程度土壌に投与されたか、その実績を肥料の種類別、有害重金属別に明らかにされたい。

3 肥料中におけるカドミウム等重金属の含有許容量の基準は設定されているか。もし設定されているとすればその内容につき、肥料の種類別、カドミウム等の重金属別に明らかにされたい。

4 肥料中におけるカドミウム等重金属の除去技術は、現在いかなる水準にあるのか。肥料製造業者はカドミウム等重金属の除去努力を講じているのか。

5 カドミウム等重金属の除去に関し、政府は現在どのような指導を行なつているのか。政府の基本方針をも伺いたい。

6 肥料中にカドミウム等重金属が含まれていることは、施肥を通じてこれら重金属類が土壌に残留することを意味している。
 そこで、農薬の残留基準の設定にあたつては、施肥を通じての土壌汚染をどの程度考慮しているのか。

7 厚生省は、農薬の残留基準設定を昭和五十年を目途に、約四〇~五〇種類の農薬、約一〇〇種類の農産物食品について設定したいとしているが、その進捗状況はどうか。
 また現在の残留基準の設定根拠を詳細に伺いたい。

  右質問する。