質問主意書

第71回国会(特別会)

質問主意書


質問第三号

当面する沖繩の諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十八年二月六日

喜屋武 眞榮      


       参議院議長 河野 謙三 殿



   当面する沖繩の諸問題に関する質問主意書

一、自衛隊の沖繩配備中止と住民登録保留問題について

 県民の意思を無視し、憲法違反である自衛隊の沖繩配備を強行した政府は、今度は隊員の住民登録手続をするよう政治上、行政上の圧力をかけている。そして、先般、全国革新市長会基地対策委員会が出した自衛隊登録問題についての質問に対する政府回答をみると、まだ何ら法的疑義は解明されていないのであらためて次の諸点について質問する。
1 自衛隊は作戦上、たえず移動し一定の場所にいないので、その駐屯地は市民としての生活の場とはいえない。したがつて、駐屯地は「住所」にあたらないと解すべきである。
2 米軍基地内は安保条約、地位協定により実質的な治外法権地域であり、立入り調査について許可・不許可の権限を米軍が握つている。したがつて、調査権の行使については政府の具体的な保証がない以上、米軍基地内居住者についての自治体の長の登録義務は発生しないと考える。
3 憲法違反で県民の意思を無視した自衛隊配備を強行し、駐屯させているのは政府であつて、隊員の登録保留という結果を導き出しているのも政府である。したがつて、隊員の個人的不利益である登録の保留について自治体の長を非難するのは筋違いであり、政府がその責任を負うべきである。
4 悲惨な沖繩大戦、二十七年間の米軍支配下の体験から生まれた県民の反戦平和の要求と日中国交回復、ベトナム停戦など極東情勢の緩和に逆行する自衛隊の沖繩配備をただちに中止すべきである。

二、軍事基地の撤去及び補償等について

 沖繩の広大な軍事基地は、地域開発や都市計画にも大きな障害になつている。先般の日米安保協議会において那覇空港の返還を決めながら一方で、その機能を嘉手納基地に集中させるのでは基地の再編強化にほかならない。
1 今後の沖繩基地の縮小・撤去計画を具体的に示されたい。今春後半にも新たな整理計画が検討されるという報道があるが、これらの中に沖繩基地が含まれているかどうか。
2 沖繩県町村会は、当直地域開発に要する軍用地の解放を要望して、国頭(くにがみ)村他二十一市町村二千九百九十万六千七百十一平方メートルを挙げているが、これに対する政府の態度はどうか。
3 沖繩市町村軍用地等地主連合会の調査(昭和四十七年九月現在)によると、第二次大戦中旧日本軍により接収された伊江村他七市町村百三十三万九千三百七十九坪の土地に対して未だに地代の未払い分があることが判明している。政府は当然支払いの義務があると思うがどうか。
4 所有者の喪失又は不明の土地については市町村有地又は県有地とするよう復帰前から要求してきたが、その後この処理はどうなつているか。地籍調査はどの程度すすんでいるか。

三、軍用地跡の学校用地転用について

1 沖繩県教育庁は昭和四十七年十一月十三日、「軍用地を学校用地に転用する計画書」をまとめ、本土との格差是正のため、同五十六年までに四十の学校を建設する計画を県当局に提出したが、そのうち十七校が米軍用地を転用しなければならないとしている。このことは「基地のなかの沖繩」での用地難を示し、基地返還が急務であることを実証している。
 よつて、政府はこうした基地跡の学校用地転用の要求をどう受けとめ、沖繩振興開発計画でもうたつている「基地の整理縮小」の方針のなかで具体的にどう推進していくのか。
2 那覇市与儀ガソリンタンク跡を学校用地として那覇市へ無償譲渡してもらいたいという要求は市当局、議会、市民ぐるみのもので、これまで政府にも再三要求しているところである。そこで、次の点について明確に答えられたい。
(1)政府は無償譲渡できない理由を国有財産法に求めているときくが、沖繩振興開発特別措置法では公共の用に供する施設の場合は、政令で定めれば国有財産を地方公共団体へ無償譲渡できるとされており、とくに法的な問題はないと解するがどうか。
(2)一ケ所(例、与儀ガソリンタンク跡地)だけの譲渡のための政令を定めるのは困難だとものべているが、このことは他地域を含む数ケ所(例、前述の県教育庁の「転用計画」)ならよいということか、あるいは総合的な公共施設建設計画等をさしているのかどうか。その法的根拠は何か。
(3)本土の戦災都市では学校用地のための国有地無償譲渡の例があると思うがどうか。もしあるなら、同様に戦災を受け、さらに二十七年にわたる学校施設の格差の生じている那覇市の場合とどう違うのか、その差異を明らかにせよ。
(4)沖繩における国有財産は終戦から復帰するまで米軍へ無償で提供されてきたが、復帰により解放されても学校用地にさえ提供できないことに県民は大きな不満をもつている。ここにも政府の軍事優先、県民無視の政治姿勢があらわれていると思うがどうか。
(5)政府は与儀ガソリンタンク跡地の利用計画をもつているか。また、同地を学校用地に転用させるための条件でもあるのか。

四、学校施設建設・整備について

 沖繩振興開発計画では、悪条件から出発した沖繩県の教育文化施設の整備水準を早急に向上させることをかかげており、当面学校施設の建設・整備を急ぐ必要がある。
1 学校施設建設の際、国の補助単価が実際の建設費よりも低く査定されているため地方自治体の超過負担が極度に大きくなり、建設をあきらめざるを得ない自治体(例、宜野湾市)がでるほどである。そこで、
(1)公立学校に対する補助単価を実施単価の水準まで引き上げるべきと思うがどうか。
(2)県立学校及び幼稚園整備については補助率を市町村立学校施設に対する国の補助率まで高めるべきと思うがどうか。
2 別項でものべたように、広大な土地を軍事基地に接収されている沖繩での学校用地取得は実に困難で、自治体の財政を圧迫している状況である。そこで、
(1)児童・生徒急増市町村公立学校施設特別整備事業として浦添市に二分の一国庫負担がおこなわれているが、急増、過密地域として那覇市等をこれに準じて該当させることはできないか。
(2)軍用地に接収されたため代替地を確保しなければならないケースが数多くあるが、この場合の補助率(又は額)はどうなつているか。
(3)右特別整備事業に該当してなくても、例えば市町村全財政に占める学校用地(建設予定地を含む)費の割合が過度に大きい場合、国の補助対象に入れるという考え方をとるべきだと思うがどうか。那覇市などの実態を参考に答えられたい。

五、社会教育主事の待遇改善等について

 社会教育振興のため社会教育主事の質の向上と全市町村へ配置を目標に、義務教育学校教員なみに国がその待遇改善に積極的にのりだすべきである。同時にこれは主事任命権を都道府県教育委員会がとりあげるような人事の中央統制に結びつくものであつてはならない。この立場から、
1 社会教育主事の給与費の二分の一を国庫負担とすべきと思うがどうか。
2 現在、市町村の財政力が弱いため主事の全国的な数は社会教育基本法で定めている人員の一割程度で沖繩の場合はそれ以下である。未設置市町村を解消していくためにも地方交付税制度による財源措置を大幅に増大しなければならないと考えるがどうか。

六、「少年自然の家」の沖繩への建設について

 青少年の健全な育成をはかる事業の一つとして各県で「少年自然の家」の建設がすすみ、昭和四十八年度予算分まで含めると六十カ所建設されるときく。そこで、
1 現在、「少年自然の家」の都道府県別の設置数は着工予定を含めていくらか。
2 建設地は何を基準に選定しているか。
3 沖繩県への建設要請が昭和四十八年度予算要求として地元及び文部省から提出されているがどうなつているか。予算が計上されている場合、その着工予定はいつか。

七、国立「長寿の村」(仮称)の沖繩への建設について

 福祉社会を推進する諸政策のなかでも老人福祉は優先されなければならない。この観点から、国立「長寿の村」の構想は老人の保健、福祉、勤労等を目的とする総合的機能を備えたものであるが、これの建設については沖繩がわが国唯一の亜熱帯地域で青い空と海の美しい自然環境をもち地理的な好条件にめぐまれていること、また今次大戦の終焉の地として老人を中心とする遺族団の往来が多くこの施設を利用しやすいことなどから最適地であると考える。
 政府の沖繩振興開発計画でも「老人の保健、福祉、勤労、休養等を目的とする総合的な施設の建設について積極的に検討する」とし、さらに全国社会福祉協議会全国大会で昭和四十八年一月九日決議した「要望書」にもかかげられているとおり全国福祉団体の一致した要求にもなつている。
 よつて、「長寿の村」の沖繩建設についての政府の考え方、(敷地規模縮小の現地要望を含めて)建設計画を伺いたい。

八、沖繩における避難港の建設について

 沖繩永遠の繁栄は海を離れては考えられないのであり、避難港の建設問題は第六十九回国会以来私の強い主張である。島国でしかも毎年台風が襲つてくる沖繩の地理的条件に、さらには国際的関心のもとに初めて開催される海洋博など大行事を間近に控えていることを考えると、この問題は緊急を要するものであり、次の点に答えられたい。
1 右の事情をふまえて沖繩における避難港建設について政府の基本的な考え方をききたい。
2 復帰後、沖繩に寄港する船舶の数が増大しつつあり、とくに海洋博の時期には海運交通ラッシュになり観客の船内宿泊も計画されているが、台風時の避難対策はどうなつているか。
3 佐々木前運輸大臣は予算委(昭和四十八年十一月十三日)での私の質問に対し、「適当な避難港をただいま調査中である」と答弁しているが、その調査状況と今後の計画を明らかにしてもらいたい。
4 海運関係者が避難港の最適地にあげている屋我地(やがぢ)湾の建設・整備計画はすすんでいるか。

九、ハンセン氏病の医療改善について

 医療改善のなかでもとりわけ難病のハンセン氏病患者に対する医療施設の整備と生活条件の向上は切実な要求だが、政府の対策は不充分である。そこで次の点で政府の考えを示されたい。
1 本土の医療園では患者百人に対し医師、看護婦、メイド(保清婦)等の職員は四〇・六人で、沖繩愛楽園(那覇市)の場合は一八・七人となつておりその格差があまりにも大きい。当園では百人の職員増員を要求しているが、政府はこの実情をどう考え、どう応える計画をもつているか。
2 沖繩愛楽園の病棟は、一九五二年に建設されたもので今では老朽化し通風、採光が悪いうえ天井落盤の危険さえあり、その増改築が望まれている。また、本土で十二年前から実施している切替棟(不自由者棟)は沖繩の二園(愛楽園、宮古南静園)にはなく、不自由者も元気な者も共同生活している状況である。
 これらの施設建設・整備について政府の計画を伺いたい。
3 沖繩の身障関係者は障害福祉年金の昭和三十四年度からの遡及支払いを要請しつづけてきたが沖繩に憲法が及んでいないことを理由にして支給されたのは昭和四十五年からである。しかし、現に復帰前からの支給が実現したことは法的にも可能ということを裏付けており、また政府は政治的見地からも本土と同様に昭和三十四年度遡及支払いを実施すべきであると思うがどうか。

一〇、砂糖キビ原料価格の引上げについて

 昨年十一月二十日、農林大臣は砂糖キビの生産者価格をトン当りブリックス十九度以上六、九五〇円、十九度未満十六度まで五、九四〇円と告示した。
 しかし、この価格は一ドル対三〇五円の通貨切換えや労賃、生産資材等諸物価の高騰ならびに昨年の異常干ばつ、台風等の被害のため農民の生活と農業経営は重大な危機に直面している。にもかかわらず、先の大臣告示価格は再生産に結ばずキビ作への意欲喪失と沖繩の基幹産業である糖業そのものを崩壊させる危険さえある。とくに最近は諸般の事情も加わつて農地を売り、出稼ぎと転職で離農する者が続出している状態である。
 よつて農林大臣は、このような事情を理解し「砂糖の価格安定等に関する法律」第二十一条第三項に基づき、農民の要求するトン当り八、〇四九円に改定してすみやかに再告示すべきであると思うがどうか。

  右質問する。