質問主意書

第69回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質六九第二号
  昭和四十七年七月十八日

内閣総理大臣 田中 角榮      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員向井長年君提出当面する緊急課題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員向井長年君提出当面する緊急課題に関する質問に対する答弁書

一について

(1) 政府としては、いまや日中国交正常化の機が熟しつつあるという判断の下に、国交正常化実現のための具体策を着実に推進してゆく方針である。中華人民共和国側が提示したいわゆる国交正常化に関する三原則については、基本的認識としては、政府としても、これを十分理解できるので、広く国民各層の意見も十分考慮しつつ、日中双方が合意しうるような具体案を検討してまいりたいと考えている。
(2)(イ) 一般に米軍機の施設・区域への出入は、日米安保条約の目的に合致するものである限り地位協定上認められているところであり、また、今回のB52の一時的飛来は事前協議の対象となるものではないが、政府としては、B52に対する国民感情にかんがみ、米側に対して、かかるわが国の国民感情を十分認識の上悪天候の場合の避難など真に必要やむをえない場合以外にはB52をわが国に飛来させないこと、ヴィエトナム爆撃の帰途に飛来することが定型化することのないようにすること、またB52をヴィエトナム爆撃のため沖縄に常駐させることは絶対にないよう申し入れており、これに対して米側は、B52のわが国への飛来は悪天候その他緊急な場合のみに厳に限ること、B52をわが国から戦闘作戦行動のために発進させることは決してしないことを確約している。
(ロ) 政府としては、事前協議制度の運用について検討するとともに、米側とも適当な機会に話し合う考えであるが、米側との話合いは、双方の都合から本年秋頃となる見込みである。

二について

 わが国の経済規模は飛躍的な拡大を遂げたが、一方では過密・過疎の進行、公害の激化等に伴う自然環境の破壊、社会保障の遅れ等、福祉水準と所得水準との不均衡が拡大している。
 このような状況にかんがみ、政府は本年中にも高度福祉社会の実現を目標とする新しい長期経済計画を策定することとしており、住宅、社会保障等個別的な福祉項目について、達成目標を総合的な観点から設定することを検討してまいりたいと考えている。

三について

(1) 所得税減税が国民各層の強い要望であることは十分承知しているところである。
 ただ、所得税減税は、将来の高福祉実現のための財源のあり方という長期的な観点からも検討しなければならない問題であり、また、所得税減税を景気対策という短期的な観点から年内にも行なうかどうかという点については、景気が回復の過程に入つたとみられる折でもあるので、今後の経済情勢、財源事情等をみながら慎重に検討する必要があると考えている。
(2) 物品税については、昭和四十一年度の改正以降基本的な見直しが行なわれていないため、社会、経済の変化に対応していないという意見があることは承知しているところである。また、各方面から、新しい消費の態様からみて物品税の課税対象を拡大する方向で洗い直すべきだという意見も寄せられている。
 入場税についても減税要望はあるが、他のサービスの消費に対する課税との権衡を考慮すれば、現行税負担(一律十パーセント)は必ずしも高すぎるとはいえない水準にある。
 いずれにしても、物品税や入場税は、消費税の一環として所得税を補完しながら全体としての税体系を適切に維持するという役割を果たしているものであるから、それらの今後のあり方については、単に軽減の方向で検討するにとどまらず、わが国の消費課税全体のあり方や財政事情等を総合的に勘案しつつ、慎重に検討して参りたいと考えている。
(3) 一般消費税あるいは付加価値税の問題は、今後におけるわが国の税体系のあり方、特に、直接税と間接税のバランスはどうあるべきかに関連する大きな問題である。さらに、わが国においては、社会保障制度の格段の整備拡充を求める声が強くなつてきているが、一般消費税あるいは付加価値税の問題は、単に税制だけの問題ではなく、わが国の社会福祉の充実等の新しい社会の要請にどのようにこたえるか、また、その財源をどのように調達するかという国の基本政策の一環として検討すべき課題でもある。
 政府は、このような観点から付加価値税の研究にとりくんでいるところであるが、物価に与える影響等の経済効果や執行上の問題等、なお広い角度から慎重な検討が必要であると考えている。

四について

(1) 土地問題に関しては、公共優先の立場で対処していくべきであり、これを今後の施策の展開に当たつて基本的な態度としたい。
 具体的な土地対策の展開に当たつては、土地投機の抑制、土地税制の改善等を図るとともに、大都市に集中した人口・産業を積極的に地方へ分散させるための具体的な方策を強力に推進したい。
(2) 国民皆保険の実現した今日、真に国民連帯意識を基調とする皆保険の名に値するよう、医療保険制度のあり方に改革を加え、保険給付、保険料負担の両面にわたつて格差不均衡を是正しつつ、いよいよ重要性を増してきた国民医療の確保の観点から、医療保険の一層の充実発展を図ることが急務である。このような考え方に立つて昭和四十八年度から漸進的に改革を実施するため、第六十八回国会に健康保険法等の一部改正法案を提出したところである。
 一方、被用者保険の中核である政府管掌健康保険の財政は極度に窮迫しており、その財政安定なくしては抜本改正への円滑な移行にも重大な支障が生ずるところから、昭和四十七年度には政府管掌健康保険につき所要の財政対策を講ずべく、第六十八回国会に改正法案を提出したところである。
 しかしながら、諸般の事情からいずれも廃案となつたが、事態の緊急性にかんがみ、できるだけ早い機会に関連法案を国会に提出いたしたいと考えている。
(3) 老人対策の柱となる年金制度については、近年、国民各層からその改善を期待する声が急速に高まつてきており、政府としても、安心して老後を託するにたる年金制度の実現をめざし努力しているところである。
 年金制度の中心となる厚生年金、国民年金については、早急に年金額の大幅引上げをはじめとする本格的な制度改善を行なう方向で、目下準備を急いでいるところである。
 なお、財政方式については制度の成熟化の長期的見通しからみて、今ただちに賦課方式を採用することは問題があるが、さらに検討をすることといたしたい。

五について

(1) 輸入は、本年に入り次第に増加傾向をたどつているが、なお、本格的な輸入拡大にまで至つていないのは、国内景気の停滞によるところが大きく、当面の輸入促進策としては、国内景気の回復を図ることが基本であると考えている。
 しかしながら、これとあわせて、輸入面からは、輸入割当枠の拡大、輸入促進等の施策を進める必要があると考えており、また、長期的な観点からは、輸入自由化および関税の引下げについても前向きに対処していく必要があろう。
(2) 今後、消費財の輸入促進を図つていくことは重要であるが、自由経済の下では、一般的に、商取引なかんずく貿易取引については民間企業の自由な活動に委ねることが望ましいと考えており、当面、ご提案のような公団の設立については考えていない。政府としては、消費財の輸入が円滑に行なわれるよう、今後とも諸般の施策を進めて参りたい。
(3) 特定商品の輸出が特定市場に集中して急激に増加すれば、いわゆる貿易摩擦を発生するおそれがあるので、政府としては、この点に十分注意して施策をほどこしているところである。
 具体的には、特に問題を生ずるか、そのおそれのある市場や商品につき、輸出入取引法等関係法令の機動的運用を図ることとしており、今後とも、このような施策を中心として対処していきたいと考えている。
(4) 最近の内外情勢にかんがみ、産業構造審議会の中間答申(昭和四十六年五月)の線に沿つて、今後の経済運営においては、経済成長の成果を活用しつつ、環境保全、公害防止など国民生活の質的充実をめざすとともに、産業構造面では、合理的な国際分業体制の確立を通じて、国際経済との調和を図り、また、わが国の高度の技術水準、高い国民資質を生かしうるよう、産業政策全般にわたり、その知識集約化を推進していく所存である。とくに、中小企業については、国際経済環境の構造変化等諸般の情勢変化の影響を強く受けると思われるので、その円滑なる適応を助け、体質の強化を図るための施策を従来にも増して推進する必要があると考えられる。
 なお、今後の中小企業のあり方と中小企業施策の方向について、現在、中小企業政策審議会で検討がなされており、政府としては、その検討結果の方向に沿つて対処してまいりたい。
 また、今後ともバランスのとれた経済の発展を図るためには、工業のみでなく、農業、第三次産業等全体がわが国の特性に従つて、調和のとれた形で発展していくことが必要であり、これらの産業についても、近代化、構造改善を一段と進め、効率の高い産業にしていかなければならないと考えている。