質問主意書

第65回国会(常会)

質問主意書


質問第三号

香川県三豊郡詫間町において昭和四十四年度に実施された農業構造改善事業費交付に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十六年三月十六日

木村 禧八郎      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   香川県三豊郡詫間町において昭和四十四年度に実施された農業構造改善事業費交付に関する質問主意書

 昭和四十四年七月二十二日香川県三豊郡詫間町長松田幸一から香川県知事職務代理者香川県副知事田中守に昭和四十四年度農業構造改善事業費補助金交付申請書(四四収農A第三三四号)が提出され、昭和四十四年十二月九日同補助金の交付が決定された。補助額は七百三十五万円であつた。
 この内容を調査すると、次の通りの疑問があるので、政府において十分調査の上所見を明らかにすると共にその措置についても明示されるよう要請する。
 本事業の計画は、その当初において、次の五戸の農業者による協業を前提とするものであつた。
  松下 三郎 松下 又一 松下 ユキヱ 平山  幸 池田 秀太郎
 しかし、いざ実施にさしかかろうとする段階で松下文一、松下ユキヱ、平山幸から不参加の意思表示があり、松下三郎、池田秀太郎の二戸協業によることとなつた。町長は五戸以上の協業でなければ事業実施主体として欠格であるとして本計画を廃棄せしめ、全く新たな次の五名による協業(詫間養豚場)としてあらためて申請した。
  松田 幸一 清水 アキノ 森 吉三郎 倉本 信子 小林 八郎
 町長松田幸一はこの事情を「折角補助金を貰うところまで来ていたが申請者がやめたので、これを国庫に返すのは残念なので私が犠牲的にこれを受けることにした」と昭和四十五年十二月二十一日の町議会において答弁している。
 ところが町長松田幸一は、本件の申請に当り、次の通り公文書を偽造した。
 戸別営農計画No.1による経営類型区分は現況、目標とも全て協業経営参加農家とされているが、五戸の内、清水アキノ、倉本信子を除く三戸は、申請前も申請後も非農家である。更に内容を精査すると以下の如くである。



 五名の肩書は次の通りである。
(1) 松田  幸一    詫間町長、詫間町農業協同組合長、有限会社詫間養豚場代表取締役(昭和四十五年二月十七日同監査役に改選)
(2) 清水 アキノ    有限会社詫間養豚場取締役、夫清水寅雄は三豊郡豊中農業改良普及事務所長(申請時)現在、仲多度農業改良普及事務所に在勤中
(3) 森  吉三郎    有限会社詫間養豚場取締役、森獣医院長、豊中農協西部畜産の嘱託医
(4) 倉本  信子    有限会社託間養豚場取締役、詫間魚市場事務員として勤務中、夫倉本健次郎は詫間町職員、産業経済課係長で昭和四十四年度農業構造改善事業担当
(5) 小林  八郎    有限会社詫間養豚場監査役(昭和四十四年二月十七日辞任)、元香川県議会議員(昭和四十四年十月十三日死去)
 この内容は初めから非農家を農家と偽装し、補助金受給のために公文書を偽造したものと思われる。
 補助金申請書の事業主体が相当の資格を具備しているものと認定した結果、補助事業が実施されたと思うが、本事業は次の事実から事業主体となる条件を有しているとは思われない。
 即ち有限会社詫間養豚場が農業生産法人であるか、ないかの判断基準については農地法第二条第七項に求めるが、これによれば、同社は次のように常時農業就業者を欠く点に欠格が認められる。
(イ) 同社の設立は昭和三十六年十二月一日であるが、代表取締役松田幸一、取締役清水アキノ、取締役森吉三郎、監査役小林八郎(以上役員)は設立以来、今日まで詫間町農業委員会等の証するところによれば、常時農業就業者とはならなかつた。
(ロ) 昭和四十四年一月二十七日監査役小林八郎は辞任し、同日隣町高瀬町大字勝間六〇八番地の稲田岩雄が就任した。彼は香川味えさ畜産株式会社の社員である。昭和四十五年二月十七日監査役稲田岩雄が代表取締役となり松田幸一は監査役となつた。
 本事業畜舎建築後、前記稲田岩雄のみが出社して養豚を指揮し、申請されていた十二名の常時農業就業者のうち一人として出社するものはなかつた。
(ハ) 現在常時就業しているのは次の者である。勿論、これらの者は稲田岩雄を除き、同社が構成員以外から雇用したいわゆる給与所得者としての就業者である。
清水 好太郎(詫間町)    重松  英明(愛媛県)  佐藤  常夫(徳島県)
佐藤 スズ子(徳島県、常夫の妻)          昭和四十五年十二月末日現在調べ
 そこで以下の点について見解を示されたい。

(一) 有限会社詫間養豚場は一環して設立から現在に至るまで構成員による常時農業就業者を持たぬ法人であり、農業生産法人とは無関係の不適格法人とみられる。例えば精肉業者が経営する養豚会社と何等変らぬ法人といわれる所以である。この点の不適格性をどのように処理する所存であるか。

(二) 協業参加農家五戸のうち、稲田岩雄が隣町の在住者であるがために詫間町の補助金を受ける資格に欠ける故、既に辞任した小林八郎を協業経営参加農家と虚偽の申請をして資格の詐称を謀つた。稲田岩雄と登記した後において、尚も小林八郎の名義を借りた事実があるが、これを如何に判断されるか。

(三) 戸別営農改善計画No.1によれば、現況畜舎三棟とされ、更に詫間養豚場新築工事出来型設計図には則久芳郎(香川味えさ畜産株式会社代表取締役)所有の畜舎を既設畜舎としている。本事業主体と全く関係のない他人の所有する畜舎を自己のものと詐称して申請しているのはこれまた、公文書の偽造であるが、認可に支障はないのか。

(四) 本事業は、他人所有の畜舎の増築である。実施基準によれば、補助対象事業は新築、新品、新設による事業とし、増築等は特別の場合を除き対象としないものとされている。然るに本事業は、実施基準のいう経済効果または利用上の便宜が著しい場合の特例に該当せしめたものと思われるが、他人(則久芳郎)の既設畜舎の増築でもその条件が成立すると判断されるのか。

(五) 町長が自ら経営する有限会社に自ら補助金を交付するに当り、その事務手続きを町職員(農業構造改善事業担当)倉本健次郎(構成員倉本信子の夫)に取扱いさせ、県に対する行政折衝を農業改良普及事務所長清水寅雄(構成員清水アキノの夫)にあたらせた。このことは、地方自治法の精神をじゆうりんするものと考えられるが、政府はどのように判断されるか。

(六) 香川県は昭和四十四年七月十七日補助金の内示をした。その交付条件として「補助事業者の承認を受けずに補助金の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸付けし、又は担保に供してはならない」としている。然るに本事業は、昭和四十五年十二月二十三日清水アキノから清水好太郎に、また昭和四十六年一月二十三日松田幸一から水口明治に他人譲渡を行なつた。これは交付条件に反すると思うが、政府は如何に判断されるか。
 (注) 清水好太郎……清水寅雄(豊中農業改良普及事務所長)の義兄
     水口 明治……町長松田幸一の経営する詫間プラスチック工業株式会社の下請業者水口年生の父

(七) 中国四国農政局構造改善部構造改善課長角永秀夫は「有限会社詫間養豚場の構成メンバーが町長や県会議員、公務員等のいわゆる権力者によつて構成されていることが申請時においてわかつておれば、補助金の交付はしなかつた」と語つたが、以上の事実が判明した場合、既に補助金交付後だということで、そのまま放置して差支えないものかどうか。

(八) 以上のように、詫間町長自らが経営する有限会社詫間養豚場に対する農業構造改善補助事業の一連の作業は、企業と行政のなれ合いによる悪質な典型的一例である。即ち、町と県の結びつきが如何に住民を無視した独善的官僚行政であるかを如実に物語るものである。しかもこのことが香川県議会における代表質問によつて指摘されるや、農林部長の答弁にも、その不適格性を認めながら、あくまでも、これを合法化しようとするための努力がなされている。それは県農林振興室が詫間町長を指導し、合法の枠に入れようとして偽造計画が進められていることである。
 政府は補助金交付者(町長)が自分の経営する会社でありながら公文書を偽造し不適格法人を適格法人と詐称して、補助金を不当に取得した場合でも、単に構成メンバーの入れかえによつて全て解決し得るものと考えるのか、どうか。
 また、これを県が指導して行なうことの是非如何。

〔参考資料〕

一、常時農業就業者の申請が虚偽であることの根拠

(1) 松田  幸一    本人は詫間町長として常時農業就業は不可能である。妻は縫製業を営み多忙を極め、母は老齢であり長女は既に嫁ぐなど、どこをしぼつても常時農業就業者を生み出すことは不可能である。
(2) 清水 アキノ    夫寅雄は豊中農業改良普及事務所長、母は老齢、長男は外地にあるため、本人以外の常時農業就業者《男一》の生み出しは不可能である。
(3) 森  吉三郎    その所有地の殆どを他人に貸付け、自作地は一畝一七歩に止まり、父甚造が一日に二、三時間野菜を作る以外耕作者を有しない。本人はもちろん獣医として開業しており、常時農業就業者は皆無である。
(4) 倉本  信子    母重見が農業に従事しているだけである。夫健次郎は詫間町職員(申請時産業経済課係長、農業構造改善事業担当)、本人は詫間魚市場事務員として就職しており、母以外農業に就業し得る家族構成ではない。
(5) 小林  八郎    申請当時不治の病で入院していた。妻と二人暮しで妻は農業とは縁の遠い人である。なお、本人は所有する田畑皆無であり、当然農業委員会にも台帳は存在しない。

二、登記簿騰本を中心にみる土地所有関係

(1) 旧来の有限会社詫間養豚場本店は三豊郡詫間町大字香田字西郷甲七七七番地に所在し、土地二一〇坪、建物一六三・三坪、所有は有限会社詫間養豚場(昭和三十六年十二月一日から現在まで)である。抵当債務者有限会社詫間養豚場、抵当権者詫間農業協同組合であつたものが、昭和四十五年三月二日抹消し、債務者を香川味えさ畜産株式会社、抵当権者百十四銀行に移転した。この他、同所在地甲八〇一に一七坪、甲八〇五に二三坪、甲八〇六に四七坪、甲八〇七に二一坪、甲八〇九-一に七七坪を保有している。
(2) 改善計画No.1の現有畜舎の土地甲七九四、甲八〇〇の土地三一五坪には畜舎木造平家建瓦茸二四七平方メートル、畜舎木造平家建トタン葺二六四平方メートル、畜舎木造平家建瓦茸一七二平方メートルがある。これは昭和四十四年十二月二十四日まで香川味えさ畜産株式会社社長則久芳郎の経営する養豚場であつた。県に提出された詫間養豚場新築工事出来型設計図には、それを既設豚舎としている。これは農業構造改善事業戸別営農計画No.1にいう現況畜舎三棟と一致する。したがつて、本計画ははじめから他人の所有になるものを自らの施設と偽つて申請したものである。
(3) 補助事業の上地甲七九三、甲七九二-二は昭和四十五年三月二日までは債権者を香川味えさ畜産株式会社、抵当権者を百十四銀行とするものであつたが、甲七八八は無抵当から債務者を有限会社詫間養豚場、抵当権者を詫間農業協同組合、質権者を農林漁業金融公庫として農業構造改善事業補助残融資を受けた。この土地に農業構造改善事業を実施したものである。
(4)(イ) 巷説といつても詫間町では公然の秘密と化していることであるが、有限会社詫間養豚場はこれまで香川味えさ畜産株式会社から飼料を購入し、経営の不振から実に数百万円の買掛金の負債を残していたという。四十六年一月二十五日稲田岩雄(現詫間養豚場代表取締役)自身が七百五十万円の負債があつたと語つた事実により明白となつた。
(ロ) 香川味えさ畜産株式会社は香川県三豊郡大字詫間三五六一番地一に所在し、資本金一千万円、昭和四十年五月一日設立、目的を飼料の販売および畜産物取扱、食肉の加工販売とこれに附随する一切の事業とする法人である。

三、(1) 有限会社詫間養豚場は補助金を受けると負債の返済をはじめた。
(2) 建築設計と建築指示は香川味えさ畜産株式会社社長則久芳郎が当つた。
(3) 建築の支払指示は同則久芳郎が当つた。