質問主意書

第65回国会(常会)

質問主意書


質問第二号

福井県南条郡今庄町の駅裏土地問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十六年二月十二日

河田 賢治      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   福井県南条郡今庄町の駅裏土地問題に関する質問主意書

 福井県南条郡今庄町の国鉄今庄駅裏に約六、〇〇〇坪の土地がある。これは、国有財産(開拓財産)であつたが、昭和四十年三月十日、当時の農林大臣赤城宗徳名で、旧所有者(前今庄町収入役、北村金六氏、元今庄町は町農業委員会書記、田中聡氏ら十三名)に、「今庄町民グラウンドおよび車庫敷地」と用途を指定して売払われた。しかるに売払い後五年十一カ月が経過した今日、指定用途に供されていないばかりか、現場には硅石や木材が山積みされており、今庄町への売渡しもおこなわれていない。
 現在、今庄町と旧所有者(代理人、前今庄町長福島伊平氏)との売買交渉は決裂したままという。

 私が調査したところでは、この土地が売払い処分になつた直接の契機は、売払いの際の用途指定からも推察できるように、今庄町(当時町長福島伊平氏)が、この土地を町営グラウンドおよび車庫敷地として町で使用したいと、借受申請をしたことにある。
 この申請には、必要な予算を次期町議会に提出するという福島氏の確約書と、旧所有者の「売払いをうければ町に売渡す」という今庄町長に対する確約書が添えられていた。これを受理した北陸農政局は、この土地が借受申請の用途に供されるものとして、町への貸付けを省略し、五年間の用途指定をしたうえで直接旧所有者に売払つた。
 ところが、旧所有者から「町へ売渡す一切の件」を委任されていた福島氏は、売払い後、土地の買収手続きも議会への予算提出もおこなわなかつた。しかもこの件は私事であるとして、議会に報告をせず、昭和四十二年四月町長退陣の際も、現町長への引継ぎをこばんだ(現町長藤田文助氏談)。福島氏は、町長退陣後、旧所有者側代理人として買収価額のひきあげを追求し、今庄町が鑑定士の評価をもとに提示した坪あたり一、三〇〇円(これは昭和四十年三月、農林省が旧所有者に売払つた価額二円六五銭の約五百倍である。)をも拒否し、しかもみずからは価額を示すことなく、事実上売渡しを拒否している。
 この間、福島氏は、昭和四十四年三月十二日、北陸農政局徳田事務官にたいして、「もともとあんなものは町民グラウンドにする気はなかつた」と発言しており、最近では、福井県がこの土地に県道を通す計画を出すや県と買収価額を交渉し引上げさせるといつた動きまでしているときく。

 そもそもこの土地問題には、昭和四十年の売払い以前に不法不当な歴史的経過があり、昭和三十七年行政監察局による大臣特命調査がおこなわれている。福井行政監察局の行政実情調査報告(昭和三十七年三月)等によれば、この土地はすぐ側に流れる日野川のはんらんで荒廃地化した元農地で戦前、「土地改良をおこなう」として旧村長が管理していたが、土地改良はすすまず、一方では事務所敷地や材料置場として賃貸しされ、また小作にも出されており、約六十名が耕作していた。
 戦後、地主の返還要求も出されて、土地問題か紛糾してくるなかで、問題を解決しようとした旧村当局(当時村長福島氏)、村農地委員会は、農地改革を利用して、昭和二十七年九月二日自作農創設特別措置法により未墾地としてこれを買収し、当時すくなくとも三十五名の耕作者がいたにもかかわらず、耕作者でない貸借人(四名)と林業者、鉱業者など町有力者(七名)に耕作を目的としない売渡しをおこなつた(昭和二十八年三月)。この売渡しは、法の目的に全く反するものであるが、福井県は、農地法にもとづく成功検査をせず、これを看過してしまつた。また売渡地の一部については、福島氏は、農地法に違反し無許可で国鉄に賃貸しし、昭和三十二年から北陸トンネル工事の土捨場とし、かつ宅地化をはかつた。さらにこの間、町農業委員会書記田中氏は、売渡通知書を改ざんして売渡地の増減をなし、また売渡通知書をねつ造して福島氏らに未売渡国有地を売渡したこととし、登記までおこない、その一部は第三者に転売された。
 これらの書類には県知事が押印しており、県当局の無責任な事務処理のもとで職権を利用した不法行為がくりかえされ、その結果売渡計画と土地台帳、または登記簿が一致しないという考えられない事態が発生していた。こうした時、一住民から、福井行政監察局に行政苦情として不法行為の調査が幾度も訴えられたが、全くとりあげられず、大臣に直訴するにおよんではじめて調査が開始され、驚くべき実態が報告されたのである。

 この行政監察局の報告にもとづいて、昭和三十八年一月二十八日、県の処理方針が今庄町に示され、これまでの買収、売渡処分は、違法であり「無効」であるが、今日の時点で一切を取消しても紛争を生ずるばかりで現実的な解決にならないので、売渡処分のみを一旦取消して、新たに「農地法の規制下許される範囲」で、それぞれの土地の経過と現実に即応していくつかの行政的処理をしていくことになつた。
 この処理方針は、不法不当な行政の責任を徹底して追及し、根本的に解決をはかるものとはいえない。しかし、いずれにしても不法行為の是正処理のひとつとして、当該土地は、もはや農地にもできず、町当局や関係者に公共用地として使用したいという希望があつたので、最初にのべた如くの手続きがとられ、昭和四十年三月売払われた。

 以上の経過は、この土地問題の是正処理の手続きに充分すぎる厳正さを要求するものであつた。ところが、その後あきらかになつたことは、昭和四十年三月の売払いに先だつ旧所有者の買受申請は特定の者の面積をふやし、不在地主等数人の面積をへらしたり抹消して、提出されていた。この不正な申請を看過して農林省は売払いをおこなつた。したがつて売払通知書と土地台帳は一致せずいまだ移転登記のため必要な図面ができていないときく。

質問一、政府はこの土地問題の不法不当な歴史的経過と今日の事態についてどう考えるか。
 農林大臣(農林省)は、昭和四十年三月当該国有財産を売払つた後、指定用途実現のため特段の行政指導をおこなうべきであつた。にもかかわらず、福島氏や旧所有者の確約が実行されないという結果的には詐偽に等しい事態が事実上放任されてきた。これに対し、いかなる措置、指導を、いつおこなつたのか。

質問二、旧所有者が、今庄町への売渡しを拒否している主因は、買収価額が低いということである。
 本来この土地は、前述の不法な経過で、元耕作者に売渡すのが困難となり、現実的な是正処理として公共用地にしようとしたものである。
 旧所有者が、用途指定期間五年の経過を利用して、利益を得ようとすること自体許されないと考えるがどうか。
 また今回のような、旧所有者に農地改革時の買上げ価額で売払つた土地に関する買収価額の基準について政府の見解を示されたい。

質問三、この土地には、昭和四十年三月売払い以前に、現在福島氏が重役をしている藤井鉱業株式会社(社長藤井重盛氏)の硅石が不法に山積みされており、農林省は無断使用の損害金を徴収している。ところが売払い後硅石はますます増え、今庄木材株式会社(社長寺田儀一氏・元県会議員)の木材も置かれ、この土地は主に二社の事業活動に使用されているといわざるをえない。
 指定用途に反した使用にたいしていかなる措置をとつたか。旧所有者との権利関係を調査し、正しく精算して、硅石、木材等をただちに撤去すべきと思うがどうか。

質問四、福井県当局は、管内の重大な土地問題について解決への充分な努力を払つているとはいえない。のみならず、この土地を通す県道計画をたて、旧所有者と交渉し、すでにクイを打ちこんでいる。
 土地名儀人である農林省はクイうちの相談をうけて許可したのか。許可したとすればその理由はなにか。相談なしとすれば、県当局の指定用途に全く対立する行政にどんな措置をとるか。

質問五、現在旧所有者代表としているのは、福島前町長をはじめ、北村金六前町収入役、京藤甚五郎現人権擁護委員、高野由平前行政苦情相談員、京藤長現行政苦情相談員など、公的機関の要職にあり、本来町民の利益のために行動すべき人達である。ところがこれらの人達が、職権を利用し、行政を私物化し、法を悪用して、自己の利益をはかつてきた。
 しかも上級官庁は、以前大臣特命調査による行政監察にもとづく売渡取消等がおこなわれた特別の事情がありながら、ほぼ同じような不当な行為を許している。
 このような地方農政局や県当局の行政官と町村の有力者とのなれあいともいうべき関係をただし、全体に正しい行政姿勢を徹底すべきだと考えるがどうか。具体的方針をしめされたい。

質問六、現在の不当な事態を根本的に解決するために、まず昭和四十年三月の売払い処分をとりけし、完全な実測をおこない土地台帳の整理等を行なうべきである。同時に可能なかぎり元耕作者も含めて関係住民の意向を聞き、不法不当な歴史的経過を考慮したうえで、町民全体の利益を尊重する方向で、一部の者に乗じられない有効な行政処分をすべきであると思うがどうか。処理方針をしめされたい。