質問主意書

第61回国会(常会)

答弁書


答弁書第六号

内閣参質六一第六号
  昭和四十四年七月十八日

内閣総理大臣 佐藤 榮作      


       参議院議長 重宗 雄三 殿

参議院議員鈴木一弘君提出財政経済に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員鈴木一弘君提出財政経済に関する質問に対する答弁書

一 (1) 経済社会発展計画の補正作業については、経済審議会にもはかりつつ、現在までに、特に重点的な検討を要すると思われる課題の選定、計画補正の方法などについて作業を進めてきたが、今後は、これらの重点課題を個別的に吟味するとともに、経済全体のフレームの具体的な検討作業を進める予定である。
(2) 計画の補正に当たつては、現行計画の三大重点政策である物価の安定、経済の効率化、社会開発の推進は依然として堅持されるべきものと考える。しかし、わが国経済社会の変化、進展はますます著しくなつてきており、この過程で、特に、[1]わが国の国際的地位が急速に高まつてきたこと、[2]経済社会の高密度化に伴い、巨大都市やいわゆる過疎地域における生活条件の悪化、公害などが国民全般の不満感や焦燥感をもたらしつつあることなどの情勢変化が生じてきている。このため、現計画の諸施策を引き続き強化するほか、[1]物価の安定については、特に輸入政策の活用を重視するとともに、国民経済における物価、賃金、所得、労働生産性の関係を検討し、[2]経済の効率化については、国際協力を通ずる効率化、情報産業をはじめとする産業構造の新展開への対応、農業の国民経済的位置づけ、土地の効率的利用と地価対策など、さらに、[3]社会開発の推進については、望ましい生活環境の整備や社会保障の体系的整備などを検討すべきであると考えている。
(3) 現在、これらの重点課題について具体的検討に着手した段階であり、補正作業終了の時期は年内または年度内を予定している。

二1 稲作特別対策事業費補助金の額については、本補助金の趣旨、米生産のための肥料、農薬等の購入費の金額等種々の要素を総合勘案して、二百二十五億円としたものである。
2 稲作特別対策事業は、昭和四十四年産米価を据え置くこととしたこととの関連で、稲作経営に対する影響の緩和等を考慮し、稲作経営の合理化に資することを期待しつつ、特に昭和四十四年度限りの措置として、行なうこととしたものであり、その具体的内容等については、目下検討中である。
3 二百二十五億円の財源措置については、まだ昭和四十四会計年度開始後三、四か月しか経過していない段階であり、今後収入支出の動向を見守りつつ、慎重に検討してまいりたい。
4 二百二十五億円の具体的な支出方法については、目下検討中であるが、いずれにせよ、財政法の定めるところに従い、適正に決定してまいりたい。

三1 昨年十一月及び本年五月に西独マルク、仏フランをめぐる思惑から欧州に通貨不安が発生したが、西ドイツ・フランス両国の平価維持の固い決意の表明により事態は平静に戻つている。
 最近の通貨不安は、主要国において国際収支不均衡の調整が円滑に行なわれなかつたところに根本的な原因があると考えられる。国際通貨体制の安定のためには、各国が節度ある経済運営に努め、国際収支の不均衡が生じたときには、適時適切に調整していくことが肝要であると考える。
2 昨年十一月及び本年五月の通貨不安に対し、西ドイツにおいては、輸出入価格を調整するための税制措置や資本輸出の促進等によつて、国際収支の調整に努めており、また、フランスにおいても、為替管理や国内経済引締措置によつて、経済の均衡回復に努力している。
 かかる措置により、現在、事態は一応平静を保つており、今のところわが国に対する影響はほとんどない。
3 昭和四十二年の英ポンド切下げ後、金投機が起こり、米ドルに対する信認が動揺したが、アメリカにおいては、財政・金融両面にわたる需要抑制政策をとり、国際収支の改善に努めているので、米ドルの信認は、漸次回復してきていると考える。
 また、英ポンドについても、イギリスにおいて厳しい経済引締措置が実施されており、主要国による英ポンド支援のための国際通貨協力も行なわれているので、目下のところ、安定的に推移していると思われる。
 しかし、これら両国の引締措置により、一時的には世界経済の成長の鈍化がみられることも予想されるので、今後一層慎重な財政金融政策の運営を図ることによつて、できるだけわが国経済がその悪影響をこうむらないよう配慮してまいりたい。
4(1) 現在の海外高金利は、各国それぞれに種々の理由があろうが、その最も大きなものはアメリカ経済のインフレ傾向と、これに対する金融引締政策の推進であると考える。
 従つて、少なくともアメリカの金融引締政策が十分な効果をあげ、アメリカ経済の景気過熱が鎮静をみるまでは、現在の高金利は継続するとみるべきではないかと思われる。
(2) わが国としては、かねてから、ユーロ・ダラー等の短資取入れについては慎重な態度をとつてきており、いわゆる円シフトも現在の内外金融情勢よりすれば自然な動きであると考える。
 また、長期資本の取入れについては、今後海外の高金利により、ある程度むずかしくなつてくると思われるが、経常取引の黒字によつて長短の資本収支の赤字を補うという政策を今後とも維持していくつもりである。従つて、国際的高金利が当面わが国の国際収支に大きな影響を及ぼすことはないと考える。
(3) なお、わが国の場合は、国際的に高金利が続くからといつて、直ちに公定歩合をこれに追随して引き上げなければならないという面は、少ないと考える。
 公定歩合の操作については、今後とも日本銀行が内外の経済・金融情勢を慎重に見守りつつ、適時適切な措置を検討していくものと考えている。
5(1) SDR制度の創設により、国際流動性不足の問題については、解決の方途が与えられ、アメリカにおける引締政策によつて米ドルの信認も漸次回復してきている。また、金の二重価格制度も順調に機能している。
(2) しかし、国際通貨体制の一層の安定のためには、主要国において、経済運営の節度を守り、国際収支の不均衡を適時適切に調整していくことが基本的に重要なことであろう。
(3) 最近、為替相場制度に弾力性を与えるための提案が論議されているが、わが国としては、今までの経験にかんがみて、現行の固定相場制が最もよいと考えている。
6(1) わが国の国際収支は、昨年度来好調を持続しており、外貨準備も三十億ドル台に乗せているが、これは輸入規模等からみてもまだ十分とはいえない。
(2) また、わが国経済には、現状において、平価の変更を必要とするような基礎的不均衡があるとは考えられず、さらに、国内の資本蓄積が貧弱であり、貿易及び為替面においてもまだ十分な自由化を行なつていない現状において、直ちに円切上げを問題とすることは考えられない。
(3) わが国としては、今後とも現行平価を前提として、それに適応するよう経済の節度を守り、世界経済との調和をとりつつ、わが国経済の順調な発展を図つていきたいと考えている。
7(1) 現在の金融状況からすると、急激かつ大幅な円シフトが起き、そのため外貨準備が大幅に減少することは考えられない。しかし、わが国の外貨準備は三十億ドルになつたとはいえ、輸入規模との対比等その国力からみて不十分であり、また、昨年度来の国際収支黒字傾向もアメリカの好景気に支えられた面が大きく構造的黒字国に転化したとは必ずしも断定できない。
 なお、中期債については、現ニクソン政権は必ずしも旧政権と同一の国際収支対策をとるとは考えられず、また今のところその購入要請はない。
東南アジア援助は、わが国の自主的判断に基づいて行なうべきものと考えている。
(2) 金準備政策としては、従来どおり、安定した国際通貨体制の確保という基本線を十分認識しつつ、外貨準備の中における金準備の比重を高めるよう努力して行きたい。
8 国際通貨基金との関連では、わが国はすでに八条国として必要な経常面での自由化措置を了しており、クオータ増額に際して特に為替管理の緩和を要求されるということは考えられない。

四1(1) 最近における海外金利の高騰により、円金利が相対的に低い状態がもたらされ、為替銀行は所要外貨資金を円により調達することが有利となつたため、本年四月以降、いわゆる円シフトの現象が現われている。その金額は、必ずしも明確ではないが、本年四月から六月までの間に数億ドルになつているものと思われる。
(2) 現在のような内外金利情勢からみて、このような円シフトが起ることは自然な動きであり、その規模が急激かつ大幅なものでない限り問題はなく、また、商社、メーカー等の企業が円シフトを起こすかどうかは、為銀と企業の間の折衝で決定されるべきものであると考えている。
(3) 政策運営に当たつては、外貨準備のみでなく、これと為替銀行の対外ポジションとをあわせた総合的な対外ポジションに対する配慮が重要であると考える。
 円シフトについては、それによつて総合的な対外ポジションには変化がないので、急激、大幅な外貨準備の減少がない限り、特に問題はないと考える。
2(1) 経済の国際化、産業構造の変化等昭和四十年代に入つてからの経済の実態の変革に対応して、産業界が体質の強化に努めている現在、金融面においてもその効率化を推進し、国民経済的使命を達成するよう努めることが必要と考えられる。
(2) このような情勢にかんがみ、金融制度調査会では、金融制度の全面的な再検討に着手し、現在一般民間金融機関の問題をとりあげて審議を進めており、その成果を期待しているところである。
(3) 政府としては、今後とも国民経済的にみて真に必要とされる資金需要に対し、低利で安定した資金を適正に供給しうるよう、適正な競争原理の導入と金利機能の活用を通じて、一層金融効率化のための行政を推進してまいりたい。
(4) このような、金融効率化促進の一環として、昨年六月いわゆる金融二法が成立し、これに基づく合併、転換の動きがすでに中小企業金融機関を中心に各地にみられ、今後においても、金融機関の体質の改善、経営の効率化のため、合併、転換、業務提携等をも含む、再編成の動きは一層進んでいくものと考えている。
3(1) 金融機関相互間に競争原理を働かせるためには、金利面における競争が本質的に必要である。わが国の金利は、従来、恒常的な資金需要超過の状態の下で弾力性を欠いていた。このことは、金融機関に適正な競争の場を与えるということからも検討の余地があり、昨年七月の金融制度調査会の中間報告で金利規制の緩和の方向が示されたのも、このような観点にもとづくものと考えられる。ただ、金利規制の緩和が金利水準の上昇をもたらす結果になることは好ましくないので、長期にわたる金融環境を慎重に見きわめながら実施に移していくべきであると考えている。
(2) 金融機関相互間に競争原理を導入するに当たつては、より一層預金者の保護のための制度を整備する必要があると考えられる。このため、預金保険制度について、現在金融制度調査会において慎重に検討しているところであり、その結果をまつて所要の措置を講じたいと考えている。
4(1) 先に述べた通り、この金融効率化のための手段としては、具体的には適正な競争原理の導入と金利機能の活用ということが重要であり、今後もこれらを重視してまいりたいと考えている。そして、このような金融効率化のための具体策を推進するなかで、長短金融市場の育成やオーバー・ローンの解消という問題も改善してまいりたいと考えている。
(2) また、金融効率化の推進は、中堅、中小企業へ良質豊富な資金供給を行なうことも大きなねらいの一つとしているものであり、先に述べた金融二法の施行により民間中小金融機関の体質の強化と中小企業金融の円滑化が図られたところであるが、今後とも中小企業金融の円滑化が阻害されることのないよう十分に配慮してまいりたい。さらに、民間金融機関を補完する立場にある政府関係金融機関についても、資金量の確保と貸付条件等について十分配慮してきたところであるが、今後とも一層の努力をしてまいりたいと考えている。

五 わが国の景気は昭和四十年以降上昇をつづけ、本年五月にいわゆる岩戸景気の四十二か月の記録を更新し、この七月で四十五か月目を迎えている。経済の現状をみると、国際収支は引き続き好調であり、国内経済はいぜん拡大基調を続けている。また、需給バランスもおおむね均衡状態にあるとみられる。
 しかしながら、最近卸売物価が強含みに推移しているなど国内経済において注目すベき動きもあらわれている。設備投資の動きについては、企業経営者は引き続き強気の見通しを持つているが、最近の企業の行動には計画的かつ慎重になつた面もみられ、設備投資が暴走する危険は少ないものと考えられる。この先、息の長い景気上昇を達成していくためには投資の落着きを定着させていくことが望ましい。また、海外面では、国際通貨情勢がいぜん不安定であるほか、欧米主要国の経済は全般的に過熱化の様相を濃くしているが、米国景気の一部に鈍化のきざしもみられ、各国における相次ぐ金融引締政策の採用とあいまつて、欧州経済も先行きスローダウンする可能性もある。
 政府としては、このような内外経済の動向に十分注意しながら、当面、現在の慎重な政策運営を続けることによつて、息の長い経済成長を実現するために努力してまいりたい。
 昭和四十四年度の経済見通しについては、まだ本年度第一四半期を経過したばかりであるが、見通し作成後、国民所得統計が改訂された事情も考慮しつつ、なお経済の今後の推移をみて再検討していくこととしたい。

六 消費者物価上昇には根強いものがあるほか、最近新たな物価上昇要因が増加していることは、ご指摘のとおりである。
 このような消費者物価の上昇は、基本的には経済成長に伴う経済構造の変化にもとづくものであり、政府としては農業・中小企業・サービス業等低生産性部門の近代化、合理化に対して積極的な構造対策を推進してきたところであるが、さらに、今後とも、これらの構造対策を推進するとともに、競争条件の整備、輸入の活用など諸般の物価安定対策を強力に行なつていくことにしている。
 また、政府は、物価安定推進会議に引き続き、物価安定対策会議を発足させたところであり、同会議の検討の成果をまつて、すでに物価安定推進会議においてなされた各種の提言とあわせて、その趣旨をできるかぎり行政の実際面に反映するよう鋭意努力していく方針である。
 さらに、内閣に物価対策閣僚協議会を常設し、物価安定政策会議と連絡を密にしつつ、物価安定を図つてまいることとしている。
 昭和四十四年度の消費者物価上昇については、すでに、国鉄運賃を除く公共料金は極力これを抑制することとし、両米価の据置きを決定したところであり、今後とも政府見通しの五・〇パーセントの範囲内におさめるよう努力してまいりたい。