質問主意書

第61回国会(常会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質六一第二号
  昭和四十四年五月二十日

内閣総理大臣 佐藤 榮作      


       参議院議長 重宗 雄三 殿

参議院議員多田省吾君提出朝鮮問題に関する国連決議及び日米安保条約の事前協議に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員多田省吾君提出朝鮮問題に関する国連決議及び日米安保条約の事前協議に関する質問に対する答弁書

一、1 御指摘の関係安保理決議はいずれも合法であり、憲章第二十七条、第三十二条に違反するものではない。
  2 安保理における非手続問題審議の際の常任理事国の欠席は、拒否権の放棄であつて決議の成立を妨げるものではないとの解釈に基づいて御指摘の決議が採択されたものである。
  3 一九五〇年六月二十五日と同二十七日の安保理における議題が「大韓民国に対する侵略の提訴」であつたことでもあり、安保理は、審議の対象が憲章第三十二条に規定する単なる紛争でなく、侵略又は平和の破壊という緊急の場合であるとして、北鮮招請決議案(ユーゴースラヴィア提出)を否決したのである。

二、1 一九五〇年の第五回総会における朝鮮問題審議の際、米、英、オーストラリア、カナダ、フィリピン、オランダ等を含む大多数の加盟国は、同年六月二十七日の安保理決議は必要に応じ国連軍に三十八度線を越えて行動できる権限を与えたものである旨の見解を明らかにし、または、かかる見解を支持した。
  2 従つて、必ずしも文字どおりすべての加盟国ではないが、ソ連圏諸国を除く殆んどすべての加盟国がかかる見解を有していたか、または支持していたということができる。
  3 外務省作成の「朝鮮事変の経緯」にトルーマン大統領あるいは英国政府が、六月二十七日の安保理決議以後も、国連軍は三十八度線を越えるかどうかについて決定を行なつていない旨表明しているとの記述があるが、これは両国の法律的見解について述べたものではなく、三十八度線突破の是非についての政策的判断が留保されている事実を述べたものに過ぎない。

三、1 わが国が、日米安保条約、日韓基本条約において、国連強化あるいは国連憲章の原則の尊重を約束しているのは、米国又は韓国との協力において、国連憲章の目的ないし原則に従う旨を明らかにしているにすぎず、憲章上義務的でない国連の勧告についてまでこれを法的拘束力あるものとして認める趣旨でないことは言うまでもない。
  2 毎年の国連総会で採択されている朝鮮問題決議は、勧告的性格を有する従来の諸決議を確認したものであつて、これらの決議の共同提案国になることによつて勧告の実現に協力する何らの法律的拘束を受けるものではない。
  3 なお、重光国連局長は、従来、国連安保理の朝鮮問題に関する決議は、国連憲章第三十九条にもとづく勧告的決議であるから法律的拘束力をもつものではないとの趣旨を述べているのみであつて、総会決議について質問冒頭部分の如き解釈を示したことはない。

四、1 前記三、2において述べたとおり、わが国は、関係諸決議の勧告に協力すべき法律的拘束を受けるものではない。
  2 なお、米軍が国連軍として在日施設・区域を基地とした戦闘作戦行動を行なおうとする場合の事前協議は、一般の米軍の行動の場合と同様に、わが国としてはわが国の国益すなわち日本の安全を確保する見地をも考慮して、自主的に諾否を決定することができる。その根拠は、吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文及び日米安保条約第六条の実施に関する交換公文である。

五、1 休戦協定が有効に存する以上、北鮮側よりの戦闘行動は、一般には、休戦協定の違反問題として対処されるのであり、国連軍が、防衛的行動は別として、北鮮に対し六月二十七日の安保理決議を根拠として軍事行動を起こすことが出来ないことは勿論である
  2 もつとも、大規模な協定違反、例えば北鮮側から大量兵力による新たな侵略が行なわれた場合には、これは休戦協定によつては処理できない事態であるので、このような重大な事態が発生する場合には、国連としても、当然かかる新たな事態に対する措置をとるものと考えられる。

六、1 仮りに北鮮よりの新たな軍事行動があつた場合には、安保理は一九五〇年の際の如き憲章第三十九条にもとづく勧告のほか、憲章の建前として第四十一条、第四十二条にもとづき、義務的な非軍事的措置、軍事的措置を決定しうる。また、安保理が拒否権行使によりその任務遂行に失敗した場合、総会は、一九五〇年の平和のための統合決議に基づきその適当と認める措置を勧告することができる。
  2 かかる措置がいかなる効果を有するかは新たな決議の内容及び文言いかんによる。

七、三、1においても述べた如く、わが国は日米安保条約、日韓基本条約のいずれにおいても国連憲章の目的ないし原則に従う旨を明らかにしているにすぎず、具体的案件につき米国又は韓国と同一の国連政策をとることは約していない。

八、1 吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文第三項に規定するとおり、「国際連合統一司令部の下にある合衆国軍隊による施設及び区域の使用並びに同軍隊の地位は、日米安保条約に従つて行なわれる取極により規律される」こととなつている。事前協議を定めている安保条約第六条の実施に関する交換公文もここにいう取極に含まれているので、国連軍として行動する米軍についても、この交換公文に定める事前協議事項については、当然日本との事前協議が行なわれることとなつている。
  2 米軍以外の国連軍については、「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」の第五条に関する公式議事録において「日本国政府が日本国において国際連合の軍隊の使用に供する施設は、朝鮮における国際連合の軍隊に対して十分な兵站上の援助を与えるため必要な最小限度に限るものとする」と定めているところからも明らかなように、兵站支援に限られることとなつている。

九、いかなる場合においても、国連がとるべき措置については、六、1において述べたとおりであるところ、国連が具体的にいかなる措置をとりうるかについては、国際情勢、各国の態度など種々の要素を勘案しつつ決定するものである。

一〇、1 日米安保条約第六条の実施に関する交換公文にいう「事前協議」は米側に対し列記の三事項(即ち、配置における変更、装備における重要な変更並びに戦闘作戦行動のための基地としての施設区域の使用)のいずれかに該当する行動をとろうとする場合には、わが国政府と予め協議することを義務付けているものである。従つて、米側が、これらの行動をとろうとすれば事前協議は当然のことながら、米側がこの義務を履行するためにイニシァティヴをとらねばならない性質のものである。このことは交換公文がこれらの事項は「日本国政府との事前の協議の主題とする」と定めていることにも明らかに表現されているところである。
   2 しかしながら、米側から何ら協議の申し出がされないにも拘らず、日本側から事前協議の対象となりうる問題について米側に協議を申し入れることは、当然なしうることであり、この点は条約の第四条に「締約国はこの条約の実施に関して随時協議」するとの規定があることからも明白である。
   3 いずれにせよ、沖縄の施政権返還時にいかなる米軍兵力が駐留するかは、返還交渉の際に日米間において十分協議されるところであつて、安保条約第六条の実施に関する交換公文に基づく事前協議の問題は生じない。

一一、日米安保条約は相互の信頼の基礎の上に成立しており、事前協議事項について、米国政府がわが国の意に反して行動するようなことは、事前協議制度の趣旨にかんがみありえないことである。この点は条約交渉の過程において日米間に十分了解されていたところであり、また、岸・アイゼンハウアー共同コミュニケにおいて明確に確認されている。

一二、前記一一、のとおり、事前協議事項について米国政府がわが国の意に反して行動するようなことは考えられないところである。