質問主意書

第61回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

農地法の改正に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十四年七月二十九日

河田 賢治      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   農地法の改正に関する質問主意書

 農地法の一部を改正する法律案が今国会に提案されている。
 本法案は、戦後二十数年にわたり、維持されてきた農民的土地所有制度を基本にした現行農地法の民主的諸条項に大幅な修正を加え、今後の日本農業、農民の生活と経営に重大な影響を与えずにはおかないものである。
 しかるに政府自民党は、このような重要法案について、国会の審議を十分つくす態度をとろうとせず、参議院審議を事実上省略して、その成立をはかろうとしている。
 よつて、以下の諸点につき、書面をもつて政府の見解をただすこととする。

一 法の「目的」における「土地の効率的利用」規定の挿入について

 「改正」案では、現行農地法の根幹をなし、農地改革の主要な成果たる農民的土地所有を規定した「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当と認め」「その権利を保護」するという耕作権保護の規定と並列的に「土地の農業上の効率的な利用関係を調整」する旨を挿入している。
 この規定は法の実際の運用において大きな変更をもたらさずにはおかないものと考えられる。
 特に貧農・小作農の耕作権に対する侵害につながる可能性が強い。
 以上の点に関連して、次の諸点を明らかにされたい。
1 「効率的利用」をはかるための「利用関係の調整」とはどのような内容をさすのか、条文に則して、具体的に示していただきたい。
2 「効率的利用」を新たに挿入する根拠として、政府は、いわゆる「荒しづくり」「裏作放棄」「営農停滞農地」等の増大傾向を指摘している。
 これら「効率的利用」に離反する農地利用の現勢面積及び関係農家戸数を専業、第一種、第二種兼業別並びに純農村、都市農村別に明らかにされたい。
3 非「効率的利用」農地の増大傾向を生み出している主な要因をどう考えるか。
 また、農業外的要因として、(1)農地価格高騰に伴う農地の資産的保有傾向の強まり、(2)鉱害、都市公害による農地の荒廃化、(3)都市化に伴う農地の農業非適地化、(4)農家労働力の老令化と兼業増大などが指摘されている。
 今回の「改正」案はこれら農業外要因を除去する上で、いかなる有効性をもつか、具体的に明らかにされたい。

二 「改正」案は、農地等の権利移動に関し、大幅な統制緩和を行ない、上限面積撤廃、創設農地の小作化、小作地の第三者への所有権移転、農協による経営受託、公社による農地保有及び売買等の権利を新たに認め、全体として農地の上層農民への集中と資本家的経営への道を開き、貧農の土地所有、耕作権をせばめている。
 これらの点に関連して、次の諸点を明らかにされたい。
1 「本人又はその世帯員が、その取得後において」「農作業に常時従事すると認め」られた場合は、所有上限面積を撤廃することとしているが、この場合「常時」とは具体的にどこまでの範囲をさすのか。
2 農作業を主として雇用労働力に依拠し、自らは農業経営、管理に常時従事する場合も、所有上限の撤廃は認められるのか。
3 下限面積を取得後三十アールから五十アールに引上げたが、三十アール以下であつても優秀な農業技術と経営能力をもち、やがて経営規模を拡大しうる農民も少なくない。五十アールに引上げる「改正」案によつて、零細な農民を農業不適格者として認めるのか。また、その理由は何か。
4 「利用効率化」目的の具体化の一つとして、第三条第二項第八号は「その住所地から、その農地又は採草放牧地までの距離からみて」「効率的に利用」できない場合の土地取得を禁じている。
 この通作距離の決定如何は、農地の資産的保有の助長、営農権侵害につながるおそれがある。
 その基準はどう定めるのか、また、農業委員会裁定に不服の場合、異議申立、その他の方策は残されているか。
5 農林省の「生産と需給の長期見通し」における農家戸数及び農業人口減少見通しは、農地法「改正」を前提としたものか。あるいは、本「改正」によつて、更に、大幅な減少を予測されることになるか。
 その場合の見通し如何。

三 所有上限面積撤廃と併せて、農地取得権をもつ農業法人の要件についても(1)借入地は1/2未満、(2)雇用労働力は1/2未満、(3)常時従事者が構成員の1/2以上の制限を撤廃し、法人の理事(業務執行者)の1/2以上が農地提供者兼常時従事者であればよい、と大幅緩和している。
 この点は、農業への外部資本の進出、企業的農業の促進等をもたらすと考えられる。
 以上の点に関連して、次の諸点を明らかにされたい。
1 農業生産法人の役員に関して、「単に経営管理だけではなく、農作業従事者が中心でなければならない」(衆院農水委5/14、農地局長)と答えているが、農業外資本が資本出資形態によつて生産法人に参加する場合、出資額の統制を行なう考えはあるか。
 また、大口出資者の役員就任に何らかの規制はあるか。
2 「役員の1/2以上」が常時従事者であればよいとなれば、民間資本による偽装農業生産法人化の発生をみるおそれはないか。
 また、アメリカのドール社をはじめ、民間商社等が、食品企業と連携して、畜産、果樹等の農業生産への直接、間接の進出をはかる動きが伝えられている。
 このように、外国資本が少数の農業者をだき込んで農業生産法人を直接、間接につくることを規制する法的根拠はあるか。
3 要件緩和に伴い、法人構成員のうちに占める土地のみの提供者、出稼ぎ農民等の比重が高まつた場合、これらの構成員の実質的な経営参加の道はせばめられ、一部の専業的従事者の経営権、支配力が強まるものと考えられる。
 これらの傾向を防止するための、総会の運営方法、会計監査権強化等の民主的運営確保の具体的改善方策を明らかにされたい。
4 「農地保有合理化促進事業」を行なう「非営利法人=公社」の設立がうたわれ、農地保有、売買、農地造成等の権限が与えられることになつている。
(イ) 過去二回廃案となつた農地管理事業団構想と変わるところは何か、具体的に明らかにされたい。
(ロ) 「公社」の構成及び役員の構成、業務執行方針、財務、会計等につき、今回は法令によつて定めなかつたのは何故か。これらの具体的内容は、今後いかなる形で、また、どのような内容で定めることになるか。
(ハ) 農地等の売買、造成等に要する資金の調達はどのような方法によるか、民間資本からの資金導入はあり得るか。
(ニ) 「『公社』のブローカー化を防ぐ」(衆院農水委5/8、農地局長)というが、防止のための法的規制としてどのような点が考えられるか。

四 「改正」案では、所有権移転を伴わない小作権設定による農地移動を促すために、小作統制は、(1)小作地所有制限、(2)賃貸借(小作)契約の解約制限、(3)小作料最高額統制のそれぞれが大幅に緩和されている。
 これらはいずれも所有権の著しい強化と耕作権の後退を意味し、残存小作を中心に、深刻な影響と紛争の激化をもたらすことが予測される。
 以下この点に関連して、次の諸点を明らかにされたい。
1 小作人、地主の階層別内訳が政府公表資料によつてはさだかでないように思われる。
 小作統制緩和に関連して重要であるので、その実態を具体的に示されたい。
2 小作契約解約は、(1)文書による合意 (2)十年以上の定期賃貸借又は裏作契約の更新拒否は知事の許可を要しない、として地主側の解約権を大幅に強めている。
(イ) 残存小作の大部分は、現行法第十九条に基づいて、更新手続きを省略(法定更新)しているが、今回の「改正」案によつて、法運用上の修正を加えられることはないか。
(ロ) 裏作契約を現に行なつている水田面積及び該当小作戸数はどれだけあるか。
 特に契約更新拒否の多発が予想される都市化地域における農地の裏作契約面積及び該当戸数についても示されたい。
(ハ) 現に長期土地改良事業を実施中の小作地が「十年以上契約」解消によつて一方的に解約を迫られた場合、小作人に対する救済措置は何があるか。
(ニ) 小作契約解約強要、小作料引上げ要求等をめぐつて予想される紛争激化に対処するため「改正」案は、農業委員会、知事による「和解仲介」を定めているが、和解勧告の拘束力はどこまであるか。
(ホ) 解約緩和をめざす「改正」案の精神からみて、紛争調停は小作人に本来的に不利が予測される。和解不成立の際の小作権・所有権はいずれが優先されることになるか。
3 小作料統制額の撤廃は、零細小作に深刻な影響を与えることが考えられる。
(イ) 残存小作の現在戸数と平均耕作面積、及び農業・農家収入等についての最新年度の調査結果を示されたい。
(ロ) 最高額統制撤廃にかわり、農業委員会の定める「標準小作料」の公示を「改正」案は示しているが、「標準小作料」決定の基準は何か。
(ハ) 「標準小作料」に大きく離反した高額小作料契約については、将来とも罰則規定を定める意思はないか。
(ニ) ヤミ小作料の並存の下で「標準小作料」公示は何ら実効を期待しえないと考えられるが、法「改正」と併せて、ヤミ小作規制の抜本的対策は講じられているか。具体的に明らかにされたい。
(ホ) 小作料引上げ要求拒否を理由にした小作契約解約要求から小作を保護する手段は何か。