質問主意書

第61回国会(常会)

質問主意書


質問第二号

朝鮮問題に関する国連決議及び日米安保条約の事前協議に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十四年四月二十四日

多田 省吾      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   朝鮮問題に関する国連決議及び日米安保条約の事前協議に関する質問主意書

 去る四月十五日の北朝鮮清津沖で起つた米軍偵察機EC121撃墜事件は、米海軍第七十一特別機動部隊の日本海出動という準戦時体制ともいうべき憂慮すべき事態となつた。
 この事態は、わが国の安全と極東の平和を極度に脅かすものである。
 しかるに政府は安保条約の事前協議事項において、一機動部隊であつても、寄港ならば対象外という統一見解を発表し、事前協議の空洞化を意図していることが明らかになつたのである。
 このときにあたり、わが党が従来より政府を追及して来た、わが国が戦争に巻き込まれる危険性を有する三十八度線突破に関する国連決議の共同提案国となつていることについて、安保条約との関係上、ここに改めて政府の統一見解をただすものである。

一、政府の統一見解によれば、朝鮮派遣国連軍に三十八度線突破を許したのは一九五〇年六月二十五日及び二十七日の国連安保理決議であるという。しかし、ソ連ならびに紛争当事国の出席なしに行なわれたこれらの決議は、国連憲章第二十七条、第三十二条などに違反したものではないか。
違反したものでないとするならばその理由を問う。

二、政府は、一九五〇年六月二十七日の国連安保理決議にいう「国連加盟国が、武力攻撃を撃退し、かつ、この地域における国際の平和及び安全を回復するために必要と思われる援助を大韓民国に提供するよう勧告する」という部分が、国連軍に三十八度線突破を許したものだと解釈している。しかし、この文章だけからそのような解釈をひき出すことは無理ではないか。
 当時からソ連はこの決議を認めず、またイギリス、インド及びアメリカのトルーマン大統領などは、この決議によつて三十八度線突破が許されるとは考えていなかつたことが、外務省編「朝鮮事変の経緯」に明らかにされている。ところが去る四月一日、参院予算委における多田委員に対する答弁で、重光国連局長は、「加盟国はすべて法律的な見解として」これらの決議が国連軍に三十八度線突破を認めたものと考えている、といつている。これは明らかに事実に反するのではないか。事実に反しないとするならばその理由を問う。

三、国連安保理や総会の朝鮮問題に関するすべての決議は、国連憲章第三十九条にもとづく勧告決議であるから法律的拘束力をもつものではない、というのが重光国連局長の解釈である。
 それはその通りと思われる。ただし、日本の立場は、日米安保条約、日韓基本条約で、米韓両国との「国連憲章の原則による協力」を約束し、さらに一九六六年以来、米国とともに朝鮮問題決議(従来の朝鮮問題決議のすべてを再確認している)の共同提案国になつている。従つて、その勧告に対して協力する義務を負い、法律的拘束を受けているのではないか。もし法律的拘束を受けないとみるならば、その理由を問う。

四、もし法律的拘束力を受けているとするならば、戦闘再開の場合、これらの決議および朝鮮の休戦に関する共同政策宣言(一九五三年七月二十七日)により、国連軍としての米軍が、在日基地を出撃して三十八度線以北を攻撃するとき、日本に事前協議を求めたとしても、日本は拒否することができないのではないか。
 拒否できるとすれば、その法律的根拠を問う。

五、政府は、一九五〇年六月二十七日の安保理決議の「国際連合加盟国が、武力攻撃を撃退し、かつ、この地域における国際の平和及び安全を回復するために必要と思われる援助を大韓民国に提供するよう勧告する」という部分が、国連軍に三十八度線突破を許したものと解釈している。
 この部分は、「武力攻撃」の存在という事実問題と、「この地域における国際の平和及び安全を回復するため」という法律的理由づけの二つから成り立つているが、政府は休戦協定によつて「軍事活動をする権利が両方になくなつた」から三十八度線突破の法律的理由づけも無意味になつたと解釈しているようである。
 しかし、日本が共同提案国になつている一九六八年十二月十六日の朝鮮問題決議においても過去の朝鮮問題決議はすべて「再確認」されており、また、その決議前文において「この地域における国際の平和及び安全の完全な回復を妨げている緊張」の存在という実態が明らかにされている。従つて、もしも休戦協定が破られ、戦争が再開されるという事実問題が発生した場合、国連軍に三十八度線突破を許した前記の法律的理由づけは直ちに復活するではないか。
 もし復活しないとするならば、その理由を問う。

六、昨年四月十日、矢追委員が「休戦協定は平和条約ではない。何か突発した場合には三十八度線突破決議が効力を発揮してくるのではないか」と質問したのに対し、政府側(重光国連局長)は、安全弁として二つの事項をあげた。
 その一つは、戦闘行為がいずれの側からおこつても、まず休戦協定違反の問題になること。
 その二つは、国連が新たな措置をとること。
 しかし、従来の朝鮮問題諸決議を承認している国連が一体どのような新たな措置をとることができるのか。それがどんな効果があるのかを問う。

七、また、日米安保条約、日韓基本条約に拘束されている日本は、米韓両国と異なる国連政策をとることができないのではないか。もし、異なる国連政策をとることができるとするなら、その法律的根拠を問う。

八、米国は、国連憲章第五十一条の集団的自衛権にもとづいてベトナム戦争を行なつており、政府は、それを正当として支持している。しかも国連安保理は、これに対して、事実上なんの新たな措置もとることができず戦争が続いている。
 もしも、朝鮮において米軍ないし、国連軍が国連憲章第五十一条にもとづいて戦争を行なう場合、政府は「日米安保条約」「吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文」「国連軍に関する地位協定」により、それを支持し、在日米軍基地の使用を拒否できないのではないか。すなわち拒否すれば「吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文」等は死文化してしまうことになる。
 もし拒否できるとすれば、その法律的根拠を問う。

九、また、その場合、ベトナム戦争と同じく、国連はなんの措置もとることができないのではないか。
 もしなんらかの措置をとることができるとすれば、どのような措置をとることができるのかを問う。

一〇、去る四月一日、多田委員に対する愛知外相の答弁によれば、安保条約第六条にいう事前協議は、純法律的にみた場合、その発議権は、アメリカにあるだけで日本にはないことが明らかにされている。
 沖縄の米軍兵力は明らかに事前協議の対象となるべき規模をもつているが、沖縄返還交渉において、米軍側から事前協議の申し出がなければ、事前協議することができないのか。
 もしできるとすればその法律的根拠を問う。

一一、安保条約第六条の事前協議において、日本がノーといつた場合、アメリカが強行すれば、「これは当然条約違反である」というのが政府(愛知外相)の解釈である。
 その場合、日本がノーという権利はあるのか。
 その法律的根拠はなにかを問う。

一二、また、そのような「条約違反」をアメリカ側が犯した場合、日本はそれを阻止するために、どのような効果ある措置をとることができるのか、その法律的根拠を問う。