質問主意書

第59回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参質五九第八号
  昭和四十三年八月十日

内閣総理大臣 佐藤 榮作      


       参議院議長 重宗 雄三 殿

参議院議員二宮文造君提出当面の外交問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員二宮文造君提出当面の外交問題に関する質問に対する答弁書

一、核兵器不拡散条約について

(1) わが国は従来から核兵器不拡散条約の精神に賛成しており、この度成立した条約の中にもわが国の見解が多分にとり入れられている。しかしながら、条約はわが国の今後の安全保障、原子力平和利用等に影響する重要な問題を種々はらんでいるので、政府としても条約のあらゆる問題を慎重に検討し、国民にも十分説明した上で最終的態度を決定したいと考え、直ちには署名しなかつた次第である。
(2) 次のとおり条約中にはわが国の見解が多分にとり入れられている。
(イ) 核軍縮については、核兵器国の核軍縮の意図を明確にすべしとのわが国の主張に対し、条約前文の四項にわたり規定が設けられ(前文第八項-第十一項)、主文第六条において「核軍備競争の速やかな停止及び核軍縮に関する効果的な措置並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面完全軍縮条約について、交渉を誠実に行なうことを約束する」旨が規定された。
(ロ) わが国は、国連決議等の方式により非核兵器国の安全保障を確保する措置がとられるべきであるとの主張を行なつたのに対し、米ソ英三国がいわゆる核兵器国の宣言を行なつたほか、これら三国の提案にかかる安保理事会決議が採択され、さらにわが国の主張を特に考慮に入れて、条約前文に、国連憲章に従い武力による威嚇又は武力の行使を慎まなければならない旨の一項が設けられた(前文第十二項)。
(ハ) わが国は原子力平和利用の研究、開発が阻害されてはならないとの主張を行なつてきたところ、平和目的のための原子力の研究、生産及び使用を促進する権利(第四条第一項)、原子力平和利用のための設備、物質及び科学的、技術的情報の交換を容易にする義務及び権利(第四条第二項)、並びに核爆発の平和的応用から生ずる潜在的利益が国際手続を通じ無差別に提供されること(第五条)等の規定が設けられた。原子力平和利用に対する国際的保障措置については、条約前文において保障措置の機械化、簡素化に関する一項を設けたほか(前文第五項)、主文第三条第一項においてその対象を核物質に限る旨規定し、さらに、同条第三項においてこのような保障措置がこれを受け入れる国の経済的、技術的発展を阻害しないような方法で実施されなければならない旨規定している。
(ニ) わが国は将来の国際情勢の変化、科学技術の進歩に有効に対処し得るよう条約レビュー会議を定期的に開催すべしとの主張を行なつてきたところ、条約発効の五年後にレビュー会議を開催されることが規定されたほか、第二回以降のレビュー会議についても、当事国の過半数の賛成がある場合、五年ごとに開催される旨の規定が設けられた(第八条第三項)。
 以上のごとく条約中にはわが国の従来の見解がかなりとり入れられているが、他方、核兵器等の製造、取得について核兵器国間の援助が禁止されていないこと(第一条参照)、核兵器国が原子力平和利用につき条約上の義務として保障措置の適用を受けないこと(第三条参照)等の点でなお不満が残つている。
(3) 核軍縮を行ない、窮極的に核兵器を廃棄、絶滅するためには、(イ)中共、フランスを含むすべての核兵器国が、(ロ)現在の世界における軍事的均衡に留意しつつ、(ハ)通常兵器の軍縮と併行して、(ニ)有効な国際管理の下に、(ホ)段階的に実施することが必要である。
 核全廃のための五大国首脳会議については、政府としても前述のごとき事情を勘案し、核軍縮の具体的措置に関し、関係国間で先ず十分な話し合いと周到な準備を行なつてからでなければ首脳会談を開催しても実質的な成果は期待し得ず、現在の国際情勢の下において、このような会議の開催をいまにわかに提唱しても効果がないと考える。ただ、政府としてもかかる首脳会議開催の趣旨自体には異存はないので、国際情勢の変化等会議開催の条件がととのえば、これを積極的に検討するにやぶさかでない。
(4) 前述(1)のとおり、政府としては条約のあらゆる問題を慎重に検討し、国民にも十分説明した上で最終的態度を決定したいと考えており、署名の時期についても目下慎重に検討中である。

二、ヴィエトナム戦後問題について

(1)(イ) わが国としては、ヴィエトナム和平実現の暁には、ヴィエトナム及び周辺諸国に対し、諸外国と協力して国力に応じて民生安定及び経済復興のための援助を行なう必要があると考えている。
(ロ) 援助の方式及び内容については、和平実現の暁に備え、今から事務当局に命じヴィエトナム及び周辺諸国の安定と復興のための援助に関し検討を行なわしめているが、和平が何時、いかなる態様で実現されるかについて、現在確たる予想を行なうことは困難であるため、未だヴィエトナム復興国際基金設置等の具体的構想に達しているわけではない。
(ハ) なお、援助の対象国としては、アジアの長期的安定のために北ヴィエトナムを排除しないことが望ましいと思う。もつともこの点和平後の南北ヴィエトナムの関係、北ヴィエトナム自体の態度如何など今の段階ではなお的確に予測し難い要因があるのも事実である。
(ニ) わが国はヴィエトナム和平実現後のアジアの平和と安定に多大の関心を有するものであり、将来ヴィエトナム和平のための国際会議開催にあたり、わが国も参加を要請されれば、これに応ずる用意がある。さらに休戦実現の場合、休戦後の平和を有効に維持するために必要とされる国際監視機構の強化が問題となろうが、もし関係国がこれを希望するときは、かかる監視機構に対し、わが国の法制が許す範囲内で何らかの形で積極的に寄与したいと考えている。
(2) ヴィエトナム紛争がジュネーヴ協定の精神にのつとり、早期に平和的に解決され、ヴィエトナムからの外国軍隊の撤退、基地の撤去及び南北両ヴィエトナムの統一等により、ヴィエトナムが平和国家として再出発し得る日が到来することは平和に徹するわが国としては強く希求するところである。
 ジュネーヴ協定については、現在パリ会談等において、米・北ヴィエトナム双方ともその尊重については意見の一致をみているものの、その解釈をめぐり、北ヴィエトナムによる南ヴィエトナムヘの浸透または南ヴィエトナムに対する米国の軍事支援のいずれがジュネーヴ協定の違反であり、ヴィエトナム紛争の原因になつているかの点で、双方の立場が基本的に対立している。
 今後ともこの点を含めてヴィエトナム紛争の平和的解決に至る過程は、極めて困難かつ長期のものとなろうが、いずれは当事者間の辛抱強い話し合いにより平和的解決に到達し得るものと考える。
 また、ヴィエトコン(民族解放戦線)の政権参加問題については、当事者間で話し合つて決せらるべきことであると考える。

三、沖縄返還問題について

(1) 佐藤総理は国会等において両三年内に沖縄返還の時期のメドをつけるとの確信を繰り返し表明してきたが、これは昨年十一月のジョンソン大統領との会談においてその旨の具体的約束を行なつたという趣旨ではなく、佐藤総理がジョンソン大統領との会談を通じてこのような確信をうるにいたつたということである。従つて去る三月の米国下院歳出委員会対外活動小委員会の非公開聴聞会における米国国務省のスナイダー日本部長の発言はこのことと矛盾するものではない。
 さらに、両三年内に沖縄返還の時期のメドをつけるという佐藤総理の確信は、佐藤総理とジョンソン大統領との間の最高レベルの会談を通じて得られたものであり、今回のスナイダー日本部長の発言によりいささかもゆらぐものではない。
(2) 共同コミュニケでジョンソン大統領が「(沖縄の)本土復帰に対する日本国民の要望は十分理解している」と述べているのは、佐藤総理の要望と日本国民の要望とを区別して後者のみを理解し、前者については理解していないという意味ではない。
 いずれにせよ、共同コミュニケの次の段は、沖縄の地位についての共同かつ継続的検討にあたつては沖縄問題に関する日米首脳間の討議を考慮すると述べており、このことは両三年内に返還の時期につき合意すべきであるとの前述の総理の主張をも考慮しつつ検討するということである。
 従つて、総理が沖縄施政権返還の時期につき、両三年内にメドがつくと確信している次第である。
(3) 「沖縄返還実現三団体会議」の代表に対する佐藤総理の発言は、施政権返還後の基地のあり方に関し、「本土並み」についての世論について述べたものであり、政府の方針として述べたものではない。
 施政権返還後の基地のあり方については、今後沖縄にある基地の現状をも考慮し、国際情勢の推移、軍事技術の進歩、世論の動向等を勘案しつつ、日米両政府の継続協議等を通じ慎重に検討していくという従来よりの政府の基本的態度に変更はない。
 なお、右総理の発言は五月二十四日ではなく、六月二十四日に行なわれたものである。
(4) 沖縄の本土との一体化施策については、昨年十一月の日米両国政府首脳の共同コミュニケに基づき、沖縄の施政権を日本に返還する方針のもとに日米琉三政府が協力して、総合的計画的に推進すべきものと考える。日本政府一体化調査団は日米琉諮問委員会の要請により派遣されたものであり、報告書は同委員会に提出されたが、日本政府としては今後日米琉諮問委員会において一体化調査団の報告書をもとにして、沖縄現地の事情を十分参酌しながら実効のあがる具体的な年次計画の策定を行なうことを期待している。
 一体化政策遂行のための財政負担の問題については、琉球政府の財政力、米国の対沖縄援助費の事情等を勘案して、政府としても格別の配慮を払う所存である。