質問主意書

第59回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

職安行政に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十三年八月八日

渡辺 武      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   職安行政に関する質問主意書

一、労働省職業安定局長は昭和四十二年六月十九日附「職発三二二号」という通達をだしている。この通達の「職業紹介等について」にのべられている内容と、これに基づいて行なわれている職業安定所の業務は法的根拠のないものと考えられ、また憲法第一四条、職業安定法第三条、第一七条などに違反した不当な差別待遇と考える。
(1) 政府は、この内容の法的根拠を明らかにされたい。
(2) この内容が憲法第一四条、職業安定法第三条、第一七条に違反していることを認めるかどうか、認めないとすればその理由を明らかにされたい。

二、この通達はまた、措置対象者の認定基準として、求職者が「誠実かつ熱心な意欲を有するか否か」という精神的な要因を強調している。ところが職業安定局長の通達「職発七七五号」とこれに添付された「職業安定法施行規則第二〇条第四項第一号の基準およびその解釈」などによれば、この「誠実かつ熱心」の基準は、賃金に関する項などに典型的にあらわれているようにきわめて苛酷なものである。また、この基準の多くの部分は、求職者の納得できる客観的な基準によつてではなく、職業安定所の一方的な主観的判断にまかされている(たとえば、老齢者が重筋労働に適するかどうか。不適当な業務への紹介かどうか。労働条件が法令に違反する事業所かどうか。労働時間その他が不当であるかどうか。住所の変更が困難であるかどうか等)。職業安定所は賃金などについての苛酷な条件や、その一方的な主観的判断によつて失業者に、その意思に反して、劣悪な労働条件の職場への就職などを事実上強制し、それに直ちにしたがわなければ、これを理由として「中高年の措置」の対象者としての認定を拒否したり、認定を取消したりするというファッショ的な行政を行なつている。また福岡県門司、八幡、若松、福岡、飯塚、田川などの職業安定所でのこうした行政に不満をもつて行政不服審査の請求を行なつた多数の失業者に対し長期間これに回答さえも行なわず、かれらを路頭にまよわせている。
 失業者の意思に反して、低賃金、劣悪な労働条件の職場や適さない職業を事実上強制することは、憲法第二二条、第二五条をふみにじるものであり、職業安定法第一条「各人に、その有する能力に適当な職業に就く機会を与える」雇用対策法第一条「労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図る」などの条項及び職業安定法第一九条第一項にも違反するものであり、さらに職業安定法第五条第一項にも明らかなように職業紹介において本来強制力をもたない職業安定所が職権の濫用を行なうことである。またこのような不法、不当な行政によつて、失業者を「中高年の措置」から排除し、適職への就職の道さらには失対事業への就労の道さえもとざすことは、憲法第二五条、第二七条に違反する行為である。
(1) 政府は、憲法第二二条、第二五条、第二七条及び職業安定法第二条、第五条第一項、第一九条第一項、さらに職業安定法第一条と雇用対策法第一条のさきに指摘した箇所を厳格にまもるべきと考えるがどうか。またこの立場にたつて職安行政を民主化すべきと考えるがどうか。
(2) 職安行政を民主化するため、さし当り
イ 「中高年の措置」対象者の認定は、主として、求職者の前歴、日雇労働者としての就職日数、離廃職についての証明など客観的に確定できる基準により、「誠実かつ熱心」などの精神的要因を不当に重視し、これを最大の踏絵として認定、不認定を判断することは直ちにやめるべきと考えるがどうか。「誠実かつ熱心」の判断は慎重に行ない、さきに指摘した諸法規を厳格にまもる立場から行なわれるべきものと考えるがどうか。したがつて求職者の希望、意見、判断等を尊重し、その納得のもとに行なわれるべきものと考えるがどうか。
ロ 賃金についての判断基準は、前記諸法規に基づき緩和すべきであり、とくに失業多発地域では地場賃金の特別な低さを考慮し、特別に緩和すべきと思うがどうか。
ハ 「中高年の措置」期間はもつと短かくすべきであると思うがどうか。
ニ 前記、福岡県下の行政不服審査請求については、直ちに審理を始めるよう措置すべきだと思うがどうか。

三、職業安定局長の通達「職発三三五号」は、全日自労の職業安定所に対する諸行動は憲法第二八条に規定された労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権などの保障のおよばないものであるかの趣旨をのべている。
(1) この内容の法的根拠を明らかにされたい。
(2) 失対労働者も勤労者として、憲法第二八条の諸権利の主体であると考えるがどうか。
(3) 失対事業や「中高年の措置」に関する労働省および職業安定所の権限はなにか、具体的に明らかにされたい。職業安定所は労働者の生存権的利益に関する諸権限をもつており、「労使関係」の内にあると考えられるがどうか。
(4) 失対事業の事業主体は全日自労の団体交渉などの対象となると考えるがどうか。もし対象となるとすれば、交渉事項はどの範囲に及ぶか、具体的に明らかにされたい。
(5) 失対労働者の労働条件の維持、向上については、とりわけ事業主体との交渉事項以外のものは、だれを相手とすべきだと考えるか。

  右質問する。