質問主意書

第59回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四号

交通事故で親を失つたこどもを守るための緊急対策についての質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十三年八月六日

小笠原 貞子      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   交通事故で親を失つたこどもを守るための緊急対策についての質問主意書

 交通事故による犠牲者はますます増大し、このままでは今後十年間に自動車事故の死傷者は一千万人に達すると予測されている。
 昭和四十三年度上半期分の交通事故をみても、事故件数は、二七七、五〇七件で、昨年同期に比べて二四・九%の増、そのなかでの死者は、六、三一五人で、昨年同期に比べて、三・四%の増、負傷者は、三五一、六五四人で、昨年同期に比べて、二八・二%の増と、いずれもふえており、事故後二十四時間以内の死者だけでも一日平均三五人以上をだし、大きな社会問題になつている。こうした交通事故の悲劇は、独占資本の要求を優先させ、人命尊重第一の交通政策をとつていない政府の交通政策にその根源があり、これを抜本的に改めることが、交通事故をなくす根本であるが、当面、とくにその対策がさしせまつて要求されている問題は、交通事故によつて突然に親や、扶養者を失つたこどもがふえていることである。これらの不幸なこどもが、これ以上ふえないように、交通事故防止のため人命尊重第一の抜本的な政策をすすめるとともにこれらの不幸な遺児を保護するための緊急対策をとる必要があると考える。
 東京都教育委員会の調査によれば、都内の公立の小・中学校の在学生だけでも、昭和四十三年二月現在、千百五十二人にのぼる交通事故による遺児がおり、これは、小・中学生千人に一人の割合になつている。このうち八五%が父親を失い、約四〇%が生活保護か、教育補助家庭になつている。
 これらの家庭では、自動車損害賠償保障法による保険金による収入は、葬式や、あとしまつ、借金の返済などでほとんど残らず、幼児をかかえた母親は働きにもでられず、現行の法律による不十分な福祉措置すら正しく実施されておらない現状のなかで、交通事故による遺児の生活は極度に苦しい状態におかれている。
 国と自治体の責任で、これらの遺児の養育、教育、生活などについて十分な保障をおこなうことは、児童憲章や、児童福祉法の目的と趣旨からみても当然のことである。その立場から緊急対策としてただちに実行すべきと考えるつぎの六点について政府の所見を伺いたい。

一、国と自治体が交通事故による遺児の数と実態をただちに完全調査し、遺児の生活と教育、住宅問題などについて、実情にあつた対策を緊急に講じることが必要と考える。現在、国による調査が進行中ときくが、その調査内容は、遺児の精神的、経済的生活全般の実態を正しくつかむことができるものであるかどうか。調査の目的の趣旨は何か。また、いつまでに集約するかその時期について伺いたい。

二、交通事故にあつた家族たちが、現行の法令による福祉措置、保障措置を完全にうけられるため、また、遺児の実情にあつた対策を講ずるため、福祉事務所や、市区町村に特別の相談室をおく必要があると考えるが、政府の所見を伺いたい。

三、児童福祉法、児童扶養手当法、特別児童扶養手当法、国民年金法による遺児年金、母子年金、生活保護法、就学についての援助法などの関係諸法令は遺児のために完全に実施されていないのが現状である。しかも、児童扶養手当の場合、月一人千七百円という低い水準で、そのうえ生活保護をうけた場合には、この手当金は保護費からさしひかれることになつている。したがつて、現行の福祉関係の法令を完全実施させるとともに、各種の手当金を大幅にひきあげ、生活保護費からさしひくことをやめ、支給要件を改善し、手続を簡単にすること、また、遺児の教育が十分うけられるよう、育英資金制度、教育扶助、教育補助などの関係法令の完全実施と大幅な改善にとりくむことは、児童憲章や、児童福祉法の目的と趣旨から当然のことと考えるが、政府の所見を伺いたい。

四、交通事故による死者の保険金についてはその受取人または相続人である遺児のため優先してあてることは、人権を尊重する立場から当然である。したがつて、自動車損害賠償責任保険による保険金は、税金その他いつさいの債務支払いに優先して、遺児の養育、教育、生活、住宅などの費用にあてる特別措置をとる必要があると考えるが、政府の所見を伺いたい。

五、自動車損害賠償責任保険の仕事を国の仕事にうつし、掛金をひき下げ、死傷についての保険金を一千万円にひきあげる必要があると考えるが、政府の所見を伺いたい。

六、以上、五点の内容をふくめ、交通事故で親や、扶養者を失つたこどもの養育、教育、生活を保障する特別立法措置を講ずることはさしせまつた緊急の問題であると考えるが、政府の所見を伺いたい。