質問主意書

第51回国会(常会)

質問主意書


質問第一号

スペインにおける水爆積載機B52の墜落事件とアメリカの日本への核もちこみについての質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十一年三月十四日

鈴木 市藏      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   スペインにおける水爆積載機B52の墜落事件とアメリカの日本への核もちこみについての質問主意書

 アメリカ政府の公式声明によれば、核兵器をのせたアメリカのB52戦略爆撃機一機が本年一月十七日、スペイン海岸沖に墜落した。この事故で、広島、長崎に投下された原爆の数百倍の爆発力をもつ水爆四個がスペイン領内と地中海の沿岸水域に落ち、一個が行方不明、三個のうち二つの水爆の雷管が破裂して、放射能物質をまきちらした。起爆材である通常火薬の一部は爆発をおこしていた。
 この発表の内容ほど、全世界の人びとの心を凍らせるものはなかつた。もし、通常火薬の一部だけでなく、全体が爆発しておつたならば、ヨーロッパの一偶で、広島原爆の数百倍の威力をもつ核爆発で、大惨事がひきおこされていたであろう。
 アメリカの政治家自身も、再三再四、誤算や事故の結果として戦争のおきる危険性があるとのべている通り、このような事故による核爆発が、その地域に大惨事をひきおこすだけでなく、それを他国の核攻撃と誤算して、全世界が熱核戦争にまきこまれないという保証はどこにもないし、逆にその危険性が極めて大きい。まさに、世界と平和の将来にとつてゆゆしい問題であるといわなければならない。
 幸い、今回の事件では核爆発をおこさなかつた。しかし、スペイン領内と地中海沿岸水域は放射能に汚染された。これは大気圏内外、水中での核実験を禁止したモスクワ条約を侵犯するものである。同条約のもつとも重要な目的の一つが、これらの放射能汚染を防止するにあつたことは周知の事実だからである。
 また、アメリカも調印し、批准した一九五八年の公海条約は、放射能物質その他の有害な物質の使用をふくむあらゆる作用の結果として、海洋あるいは海洋の上空が汚染されることを防止する措置をとるよう義務づけているが、今回の事件は、この条約をも侵犯している。スペイン沿岸水域は公海の水と不可分に結びついており、公海汚染という現実の危険が生じているからである。
 水爆積載米軍機が、アジアとヨーロッパで常時、パトロールしている現状のもとでは以上のような危険性がつねに全世界にのしかかつている。
 とくにわが国はアメリカのベトナム侵略戦争の基地になつている。B52戦略爆撃機が日本に来た事実を政府も否定することはできなかつた。台風避難を口実として、B52戦略爆撃機の板付基地への飛来を承認した。米原子力潜水艦、原子力空母を中心とする原子力艦隊の日本「寄港」も認めた。これらはすべて日米安保条約の義務を履行するためだと説明されている。まさに日本人民は日米安保条約の存在によつて、頭上における核爆発の危険にさらされ、熱核戦争の脅威にさらされている。「死の灰」の危険の前にたたされている。しかるに、佐藤内閣は「安保条約の義務の忠実な履行」を強調し、一九七〇年以降も十年程度延長することを考慮すべきだとのべている。
 以上のような現実を前にして、スペインでの水爆積載B52墜落事件にかんがみ、核兵器を積載したアメリカ軍用機が日本の領海、領土、領空を絶対に飛行しないことをあらためて確認し、それを検証する具体的な措置をとり、国会を通じて全国民の前に明らかにする決意があるか、どうか。
 明確な回答を与えることができなければ、政府及びアメリカのいかなる口約束もごまかしにすぎないと断ぜざるをえない。