質問主意書

第40回国会(常会)

質問主意書


質問第二号

北海道拓殖銀行の樺太引揚げ預金者に対する預金払戻し回避に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和三十七年三月二日

東 隆      


       参議院議長 松野 鶴平 殿



   北海道拓殖銀行の樺太引揚げ預金者に対する預金払戻し回避に関する再質問主意書

一、昭和二十年九月二十七日付大蔵省外資局長の通牒は、連合国最高司令部からの「金融取引ノ統制ニ関スル件」の覚書に基づき出されたものであり、その内容は「外国為替その他これに準ずる取引を停止」したものであることが、昨年六月八日付の政府答弁書中一の(2)により明確にされた。
 しかしながら、この覚書の附属文書によつても、日本国内に現在する債権者が、同じ日本国内に現在する債務者に対する請求が、たとえその債権者がかつて樺太に居住していたことがあるものとしても、それは外国為替取引あるいは在外資産であるとはいえないし、そういうことは規定されていない。
 いわんや預金の便宜代払制度が適用されていたのであるから、昭和二十年八月二十日から同年十月十五日の大蔵省令第八十八号の出されるまでの期間は、樺太引揚預金者の請求に対し何らの制限を設けることはできないはずである。したがつて先の大蔵省外資局長通牒は、北海道拓殖銀行に対する樺太引揚げ預金者の請求には及ばないものである。また、この通牒をゆえなく利用して日本銀行札幌支店鈴木某なる者の印により北海道拓殖銀行宛に出された文書は、何らの拘束力をもたないばかりでなく、公文書偽造の疑いすらもたれると思うが、以上について見解を問う。

二、昭和二十五年一月五日から同年六月三十日までの間樺太預金については、北海道拓殖銀行に関し、支払制限が一時免除された理由及び再度この免除措置が廃止された理由を明らかにされたい。

三、先の答弁書中一の(3)で、連合国最高司令部から「外地銀行、外国銀行及ビ特別戦時機関ノ閉鎖ニ関スル件」の覚書が出され、これに基づいて北海道拓殖銀行の樺太預金に対する支払いが全面的に停止された、としているが、二の(1)においては「北海道拓殖銀行は閉鎖機関に指定されなかつたので、閉鎖機関に対する措置によつて預金の支払いに応じなかつたのではなく云々」としているが、一の(3)では閉鎖機関とし、二の(1)では閉鎖機関ではない、としている。どちらが正しいのか。
 また、二の(1)では前文に引き続いて「一の(3)及び(4)に述べたように行政措置及び法的措置によつて一定期間樺太預金の支払いを停止した」としているが、この場合の行政措置とはどんなものであるか。明らかにされたい。

四、「陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約」の第四十六条では「家ノ名誉及権利、個人ノ生命、私有財産並宗教ノ信仰及其遵行ハ之ヲ尊重スヘシ」「私有財産ハ之ヲ没収スルコトヲ得ス」と明記し、ポツダム宜言第十項においても「基本的人権の尊重」を明確にしている。また、連合国最高司令官マッカーサー元帥は昭和二十年十二月十九日管下部隊に発した訓令中に「占領軍は国際法及び陸戦法規によつて課せられた義務を遵守するであろう」といつている。
 以上の点からしても、樺太に現在する日本人の私有財産権は、国際法的にも、占領政策としても保護されるべきものである。しかも元樺太庁長官大津敏男氏が「拓銀預金約二億五千万円の内、島内貸付額は約八千万円で、他の全部は本店に送金し、国債投資又は北海道、東北地方の融資に流用しており、銀行としては洵に大事な預金吸収の市場であつた」と語つているごとく、実質的には樺太預金者の預金が救済されて拓銀で運用されていたといわれている。この支払いが回避されたとすれば、日本政府としても国民の私権を保護する立場から積極的に処理すべきであつたし、北海道拓殖銀行は、銀行の公益性からしても、銀行法の精神からしても当然、支払うべきものであつたと考える。これに対する見解を問う。

五、次に、戦時中樺太における軍事関係工事費を「〇〇工事費」として、北海道拓殖銀行樺太各支店にその余裕金が預けられており、額も相当のものとのことであつた。
 また樺太鉄道局関係の預金、その他国の機関が預けていた金額については明らかにされていないが、これらの昭和二十年八月十五日前後の処理につき、その経緯をも含めて、明らかにされたい。