質問主意書

第38回国会(常会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質三八第一号
  昭和三十六年六月八日

内閣総理大臣 池田 勇人      


       参議院議長 松野 鶴平 殿

参議院議員東隆君提出北海道拓殖銀行の樺太引揚げ預金者に対する預金払戻し回避に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員東隆君提出北海道拓殖銀行の樺太引揚げ預金者に対する預金払戻し回避に関する質問に対する答弁書

一、北海道拓殖銀行は、閉鎖機関に指定されなかつたにもかかわらず、樺太預金の払戻しを停止した事実があるが、これは、次のように適法な法的措置又は行政掛置に基づいて行なわれたものである。終戦後、金融機関の在外預金については応急的な措置により支払が行なわれたのであるが、その後状勢の推移により、樺太引揚者のみならず台湾、朝鮮等からの引揚者についても一時その支払を停止し、金融秩序の維持に資せしめたものである。しかしながら、その後にいたつて、在外預金の支払制限が緩和され、現在においては、樺太引揚げ預金者については一般預金者と同様の状態に復せしめているのであつて、なんら不当な措置がとられたものではない。

(1)戦時非常金融対策の一環として昭和十九年六月に実施されたいわゆる預金等の便宜代払制度は、順次取扱範囲が拡充され、終戦後においては、海外からの引揚邦人の外地預金について本制度による支払が認められることとなつた。
 樺太引揚者についても昭和二十年八月二十日から本制度が適用され、北海道拓殖銀行の樺太における預金について、引揚者は、内地所在の最寄金融機関から預金の便宜代払を受けられることとなつた。
(2)昭和二十年九月二十二日付で、連合国最高司令部から「金融取引ノ統制ニ関スル件」の覚書が出され、外国為替等の広範な金融取引の禁止措置が指令された。このような情勢に対処して同年九月二十七日付で、大蔵省外資局長から外国為替その他これに準ずる取引は停止すること。ただし、一般引揚邦人についてはさし当り一、〇〇〇円の範囲内で支払ができる旨の通牒が出され、この通牒に基づき、樺太預金についてもその支払が行なわれた。
(3)昭和二十年九月三十日付で、連合国最高司令部から「外地銀行、外国銀行及ビ特別戦時機関ノ閉鎖ニ関スル件」の覚書が出された。これに基づいて朝鮮、台湾等の外地銀行等が閉鎖されると同時に、これと併行して外地関係の預金の支払が停止されることとなり、十月一日に日本銀行を通じて外地預金の支払猶予方を関係銀行に通牒した。北海道拓殖銀行においても十月二日にこの旨の通牒をうけ、さきに一、〇〇〇円の範囲内で支払うことができた樺太預金についても、全面的に支払が停止された。
(4)昭和二十年十月十五日「金、銀、有価証券等の輸出入等ニ関スル金融取引ニ関スル省令」(大蔵省令第八十八号)等が公布施行され上記(3)の行政措置により停止されていた引揚者に対する外地預金の支払は、この法的措置によつて禁止されることとなつた。
(5)昭和二十五年一月二十五日に、大蔵省令第八十八号による外地預金の支払制限が北海道拓殖銀行について一時免除され、同行の樺太預金の支払が行なわれたが、同年六月三十日に、この免除措置は廃止された。
(6)昭和二十九年五月の金融機関再建整備法の一部改正により在外債務の支払措置が講ぜられ、樺太預金についても支払が再び開始された。昭和三十一年六月末で本措置による支払は一応完了したが、その後においても樺太預金者については、一般預金者と同様に、その申出により随時預金の支払を行なつてきている。

二、北海道拓殖銀行の樺太引揚げ預金者に対する支払の経緯は、上記のとおりであつて、個別事項については次のとおりである。

(1) 第一の点については、北海道拓殖銀行は閉鎖機関に指定されなかつたので、閉鎖機関に対する措置によつて預金の支払に応じなかつたのではなく、一、の(3)及び(4)に述べたように行政措置及び法的措置によつて一定の期間樺太預金の支払を停止したものであつて、同行が不当に預金の払戻しに応じなかつたものではない。
(2) 第二の点であるが、昭和二十年九月二十七日付大蔵省外資局長の通牒においては、閉鎖機関であると否とを問わず、一般的に外国為替取引その他これに準ずる取引を停止したものであつて、北海道拓殖銀行が閉鎖機関でないとの理由でその適用を除外される趣旨のものではない。
(3) 第三の点については一、の1、(2)及び(3)に述べたように昭和二十年八月二十日から同年十月二日までの間において北海道拓殖銀行は樺太預金の支払が認められ、支払を行なつたものであつて、善良なる管理者の注意に反したものではない。
(4) 第四の点である終戦後から樺太預金の支払を行なつていないのではないかとのことについては、一、の(1)、(2)及び(3)に述べたように、北海道拓殖銀行においては、昭和二十年八月二十日から同年十月二日までの間は樺太預金の支払を行なつている。次に、適法に支払停止措置をとることができたのは金融機関経理応急措置法の公布の日(昭和二十一年八月十五日)以後ではないかとの御質問であるが、一、の(3)に述べたように、昭和二十年十月二日に行政措置により樺太預金の支払が停止されており、従つて、金融機関経理応急措置法の公布の日以前に支払についての停止措置がとられたものである。
(5) 第五の点であるが、昭和二十年七月末における北海道拓殖銀行の樺太関係の預金債務は二一七、二九四千円であつたが、上記のような経緯をたどり、昭和三十六年四月二十五日までに二〇六、八七三千円の支払を行なつている。この支払額については、その全額が同行の樺太預金の支払であつて、御質問のような支出は含まれていない。