質問主意書

第26回国会(常会)

答弁書


答弁書第九号

内閣参質第九号
  昭和三十二年四月十六日

内閣総理大臣 岸 信介      


       参議院議長 松野 鶴平 殿

参議院議員鈴木一君提出八丈島中ノ郷における強制土地買収に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員鈴木一君提出の八丈島中ノ郷における強制土地買収に関する質問に対する答弁書

一、質問一から五まで及び八、九、一一並びに一二について

 御承知のとおり国の開拓事業は、自作農を創設し、または経営を安定させるため、開発して農地とすることが適当な土地及びこれらとあわせて開発すべき農地等を農地法の規定により買収して行うものであつて、国土資源の利用に関する総合的見地から行うべきものであります。従つて、一般的に、切替畑が山林として使用されている場合に農地として使用されている部分をもあわせて、これらを開発するために買収することは違法ではありません。
 御質問の八丈島中ノ郷における未墾地買収に係る土地は、殆どが切替畑として用いられる土地であり、そのうち現況が山林であるものが大部分であつて、わずかに農地の部分も点在しておリますが、同地域の農業経営は著しく粗放であつて、しかも、その住民はこの在来の農法を固執しており、いまだに数十年前と変らぬ形態の農業が支配的な状態であリます。本件の買収は、これら切替畑として利用されている土地を開拓してこれを優良な農地にすると共に、これに開拓道路を設ける等農民の利便を図り、適確な営農指導と相まつて、同地域に、より高度の農業を導入しようとするものでありまして、その必要性は、同地域の自給度の向上という見地からも、決して本土における場合に劣るものではなく、むしろより緊急なものと考えます。
 ところで、御質問によれば、本件買収に反対する三五名は、いずれも零細農家で、これらの土地を失えばたちまち営農の手段を欠き、生計の途に窮することとなるものであつて、また、これらの土地は自然的条件の上からも開拓に適しないかの如くでありますが、これらの土地は法令の規定する買収基準に合致した開拓適地として、また既存農家の経営を害することはないものとして東京都知事が本件買収を行つたものと思料します。しかしながら、もしその点についての判断に誤りがあり、法令の規定に違背し、既存農家の経営を崩壊に導くようなことがあれば、農地法の精神からも誠に遺憾に存じますので、御指摘のとおり、本件買収に反対する三五名から農林大臣に対して訴願が提起されておりますから、その裁決に際して慎重に審査いたしたいと考えます。なお、本件の開拓地については、御質問の五で御指摘の一五戸の入植のほか、相当数の地元農民による増反を予定いたしておりますので、同地域の零細な農民の耕地の拡張と農業経営の安定に資するところも大きいと考えられ、被買収者も、自作農として農業に精進する見込があれば、本件土地において増反することにより、その農業経営の安定と生計の維持に役立ちうるものと考えております。

二、質問六について

 御質問の東京都開拓審議会の決定の経過については、昭和二十九年二月東京都知事は同審議会に本件買収の適否について諮問し、同審議会は現況調査の上同年七月開拓適地として買収を適当とする旨答申したのであります。その後、所有者の意見書も提出され、都知事から再び開拓審議会に諮問したので、同審議会は、昭和三十年一月二十五日から二月三日まで、昭和三十一年四月三日から同月六日までの二回にわたり現況調査を行うほか、数次にわたつて土地部会を開催し、意見の調整に努めたのでありますが、結局昭和三十一年九月二十六日の開拓審議会において、先の買収決定を適当として可決答申し、あわせて「中ノ郷地区開拓計画の遂行には融資、営農技術の指導その他の援助は不可欠の要件と思料されるので、これらの点につき充分配慮し、円滑な遂行を期せられたい。」という意見具申書が提出された次第であリます。

三、質問一〇について

 御質問の買収土地その他の物件の価額の評価は、農地法第五十一条、農地法施行令第六条の規定により算出したものでありますが、なお、その結果は別紙のとおりであります。
四、質問七について
 御質問の黄八丈の保存については、現在重要無形文化財の指定はされておりませんが、昭和二十七年三月文化財保護委員会において文化財保護法の規定により助成措置を講ずべきものとして選定し、黄八丈の技術記録が作成されており、その後の改正によつて選定制度は選択制度に改められ、黄八丈は、昭和三十二年三月三十日選択され、その技術の保存・保護については慎重に検討中であります。
 従つて、開拓にあたつても、これを考慮すべきことはいうまでもないことであり、本件未懇地買収についてもこの点を調査審議した結果、八丈島の黄八丈の技術保全上重大な支障をきたすものではないとして本件土地を買収したものと思料しますが、本件についても訴願が提起されておりますので、その裁決にあたつて更にじゆうぶん検討いたしたいと考えます。

各人別買収物件及び支払対価 1/8
各人別買収物件及び支払対価 2/8
各人別買収物件及び支払対価 3/8
各人別買収物件及び支払対価 4/8
各人別買収物件及び支払対価 5/8
各人別買収物件及び支払対価 6/8
各人別買収物件及び支払対価 7/8
各人別買収物件及び支払対価 8/8