質問主意書

第24回国会(常会)

答弁書


答弁第一三号

内閣参質第一三号
  昭和三十一年六月一日

内閣総理大臣 鳩山 一郎      


       参議院議長 松野 鶴平 殿

参議院議員木村禧八郎君提出筑豊炭田地帯の鉱害と遠賀川の維持保全に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員木村禧八郎君提出筑豊炭田地帯の鉱害と遠賀川の維持保全に関する質問に対する答弁書

一、中島橋等の状況について
(1)中島橋については、右岸橋台および橋面に若干の亀裂が認められるが、近傍の炭鉱における採掘の現状よりみて、その原因は、鉱害ではない。
(2)中島橋より下流約三粁半の左岸堤内地の地盤のゆるみについては明らかでない。同地点の堤防は、昭和三十年七月出水時に若干の漏水を生じたことは認められるが、この原因が鉱害であるとはいえない。なお、この地区は、裏小段増設を本年度行う計画である。
(3)芳雄橋の右岸側橋脚一基が沈下し、これにより橋面に若干の傾きを生じているが、その近傍炭鉱の採掘の状況よりみて、その原因は鉱害ではない。
(4)唐熊地先の堤防漏水については、前回答弁のとおりであるが、その後昭和三十年度工事の施行により、今後漏水が激しくなることはないと思われる。

二、採掘の制限について
 前回の答弁どおり、従来とも個々の炭鉱についてそれぞれの条件を考慮して、採掘の適正化を図つてきたところであるが、右に述べた地域に近接する炭鉱についても、今後の採掘の進行状況等に充分の注意をはらい、必要があれば鉱業法または鉱山保安法に基き適切な措置を講じて行きたいと考えている。

三、建設省九州地方建設局における鉱害と遠賀川の関係に関する調査研究について
(1)これに関連して発表された文献は、次のとおりである。
 遠賀川の漏水と堤防決潰について古賀雷四郎、内田一郎(土と基礎第四巻)
(2)植木町中の江地先の堤防切開についての報告書を、別冊のとおり提出する。

四、建設省九州地方建設局は、従来水防の重点箇所について、工事事務所をとおし、県土木事務所、水防団体等に連絡しており、これは今後も行う予定である。新聞紙上に特に発表はしていない。

昭和30年3月
中之江樋管開削調査報告書
九州地方建設局

目次
〔1〕要旨
〔2〕樋管個所堤防及基礎の調査
(1)地層の状況
(2)透水の程度
(3)堤防及基礎地盤の締固め程度
〔3〕樋管の調査
(1)樋管の概要
(2)樋管の調査
A、樋管の位置について
B、樋管の構造及施工
C、樋管の破損
D、樋管の基礎
E、樋管の水平及縦断的変移
F、樋管の埋設調査
G、その他

中之江樋管開削調査報告書
〔1〕要旨
 昭和29年5月、先に西日本大水害により破堤した鞍手郡植木町中ノ江地先、本川左岸14K100附近の直上流400Mの中ノ江用水樋管埋設個所に於て堤防裏に陥落及漏水を生じた。
 この附近は地盤の沈下もあり今後此種構造物の設計施工上の重要な研究課題として昭和29年12月1日より樋管個所の開削調査を行つた。
 その結果現地において知り得た調査成果を報告するものである。

〔2〕樋管個所堤防及基礎の調査
 樋管個所に於ける調査は堤防開削前の予備調査と開削時に於ける調査及土質試験的調査等に分れるが大別して次の項目について述べる事にする。
(1)地層の状況
(2)透水の程度
(3)締固め程度

(1)地層の状況
 開削前に成層の状況を調査するためボーリング及びオーガーボーリングを行つた。その結果は別紙中之江樋管徹去個所土質調査の通りでNo.1.2.3は、各々(+)3.000m以上は旧築堤土砂と思われる砂質粘土略(+)3.000―(+)1.800間は青灰色粘土、略(+)1.80―(+)1.10間は細砂略(+)1.10以下は粗砂、砂利となつて居り、略(-)0.5以下は黒色粘土である。
 ボーリングに依るNo.4.5.6のコアーはNo.1.2.3のそれと非常に異り略(+)4.40迄は旧築堤用土砂と思われその下はすぐ細砂、荒目砂となつて層り同じく略(-)0.50以下は黒色樋土である。No.1.2.3とNo.4.5.6との平面的距離は僅か8m程度しか離れていないのに、この様な相違がある事は、樋管設置等に於ける埋戻等の影響に依るものと想像される。
 尚、オーガーボーリングに依る16ヶ所の柱状図は別冊、中之江樋管徹去工事土質調査図の通りであるが各種の土が互に入り混つて居り成層の状況を夫々異にして居ることは築堤あるいは埋戻の時の成層と考えられる。
 開削後に於ける成層の状況は附図の(1)の通りであるが褐色粗砂のみは、ある程度成層をなして居り其の他は入乱れて居るので不等沈下に依る成層の変形について調査資料のみでは判断出来ない。又特に堤体の亀裂等の異状現象は見られなかつた。尚、裏小段部分に於て砂層が相当高くなつて居るのは堀削に当つて刎上を行つたものと思われる。
 従つて開削途中褐色砂質ローム腐蝕土混り層に異状現象を生じ餅状を呈したのは褐色粗砂層が水分を吸上げ之に青色粘土質ローム層を通して同層に達し水分過飽和の状態になつたものと推定され普通発生する現象と考えられる。

(2)透水の程度
 ボーリングに依る地質調査を行いつつ注入する水圧を記録にしたものが別冊中之江樋管徹去工事土質調査に示してあるが荒目砂の層は0.2―0.5kg/cm2で100ccを1”8で消費して居り、かなり透水係数大であると思われるが上置層はかなり締固等が影響して1kg/cm2で100ccを2’08の長時間を要して居り透水係数は小であると思われる。尚、各層の土砂について夫々実験室で透水試験を実施したが其の結果は表-1.の通りである。
 表-1.
資料番号透水係数 cm/sec試 験 法
No.15.47×10-7変  水  位
   21.15×10-5
   31.61×10-6
   41.05×10-7
   51.56×10-1定  水  位
   63.04×10-5変  水  位
   
 本表に依ればNo.5を除き他は殆んど透水度低く透水に対して考慮要なきものと思われる。

(3)堤体及基礎地盤の締固め程度
 A、開削前締固め程度を調査するため開削前に貫入試験を行つたが   その結果を総括すれば表-2.の如くである。
 表-2      貫 入 指 数
深さ|位置本 堤前小段裏小段高水敷堤内地
0-1m1.52.72.0 6.01.0
1-2m1.82.20.930.01.4
2-3m1.00.61.3 0.60.9
3-4m0.70.5
4-5m0.50.5
 前小段、裏小段の土は高水敷の土砂を使用しており貫入係数も大きいが高水敷の2m―3mは堤内地盤に相当し堤内地の0―1.0の指数と大略同じであり只、高水敷の貫入指数6.0及び30.0は丁度、青粘土地帯で常に湿潤状態にあるために大きい指数となつて表われたものと思う。
 堤体及基礎地盤共一部を除き之の程度は大体普通ではないかと思われ特に貫入試験時異状現象は見られなかつた。
 開削中に於いても貫入試験及び現場密度試験を実施したがこの結果は一般的に地表より50糎程度の位置迄は貫入指数が大きく其の後は大体1-2糎の値を示して居る。
 これは開削にブルドーザーを使用し又その間、多数の人達に依り踏み荒され地表より約50糎程度は相当乱されて居る為この様な現象を生じたものと思われる。
 現場密度試験を行つたが測定技術の未熟不馴れのため充分の成果があげられなかつた。得られた現場密度と実験室で得られた最大乾燥密度との比を取つてみると赤色粘土混り小石砂交りの上の75%を除いて大体80%以上の値を示し一応現場の締固めの状況は悪くはなかつたと云えると思うが他の個所との関係が明瞭でなく又之の試験に依り内部に弱点を生じているか否かの判定は極めて困難である。

〔3〕樋管の調査
(1)樋管の概要(附図(1)(2)参照)
 本樋管は鞍手郡植木町中之江地先約20町歩に対する用水樋管として第1期改修終了後設置されたもので其の構造は附図2の通り鉄筋コンクリート管(コンクリート厚0.04m、内径0.46m、長さ0.98m)43本、及焼土管(径0.46m、厚さ0.04m、長さ0.72m)
3本、合計46本、総延長41.0m、河側に捲揚扉、堤内側に2.50m×2.30m、深さ7.53mの溜升(大体、天端は地盤高位)があつてポンプに依り用水補給を行つて居た様で樋管の取入口の敷高は昭和19年に+2.712mと記録されて居る。
 基礎は梯子桐木で並木松丸太未口12糎、長さ2.40mに胴木松丸太、未口5糎、長さ40糎のものを、ホゾ入れ込みにしたものであつて直接先に述べた白色砂層中におかれ埋設されたものである。尚、樋管取入水路は本川犬鳴川合流点下流200mの処に素堀にて設けられて居る。用水機の諸元は取水量11m3/min(0.183m3/SeC強)揚程3m吸水管径350mmモーター馬力15HPである。
(2)樋管の調査
 樋管個所の開削については当初は大体現樋管より3m―5m程度迄はブルトーザーで堤防土砂を堀削し最後樋管動揺をなさないため人力堀削ウインチ運搬の方法をとり慎重に行つた。尚、ブル堀削中途で先に述べた異状現象を生じたので樋管中心にそい約4.00m、幅は最後に取除いた。樋管開削の結果は次の通りである。
A、樋管の位置(附図2参照)
 樋管の取入口の高さは昭和19年、測量より1.616m、下りの+1.096mで溜升敷高は(+)0.823mで又その後、溜升を約2.60m、煉瓦積で嵩上げしている。
 樋管附近に於ける沈下量は大体1.44mであるが取入口に於ては1.616mを示しており之を正しいとすれば溜升敷高は(+)2.439mとなり敷高+2.712に対して0.273m低く従来からの樋管勾配は27.3/41.000≒1/150程度であつたと推定される。従つて現在低水位(+)2.80mに対して現樋管取入口敷高は1.704m程度低くなつている。
 又本樋管は天端に於て0.6mの深さに荒目砂層の中に作られて居る事が分つた。
B、樋管の構造及施行
 構造は附図2に示す通りであるが各樋管の長さ最大99.5糎、最小97糎、又カラーリングの長さは8.0糎―6.0糎で平均98糎、カラーリングの平均長さ7.1糎である。之により計算すると総延長は管を正確につないだ時の延長より約62.3糎の余裕があり、1本当平均1.5糎で普通この程度の余裕は許されるものと考えられる。
C、樋管の破損
 コンクリート管43本、焼土管3本が用いられて居るが土管2本は破壊されて居り又コンクリート管4本は頂部に大(20×15糎)小(径3糎)程度の欠損を生じて居る。
 之が今回の開削工事の結果でなく傷口が相当古く従つて施工時のショック又は其の他の原因に依るものと推定される。
D、樋管基礎
 本樋管の基礎は梯木胴木を直接砂層の上においたものである。梯木胴木の並べ木は未口12糎、胴木と桟木はホゾ入れこみで調査の結果はホゾが半分ほど、はずれたものが5本ほどあり何れも7.5糎程度、梯木胴木の幅が広くなつて居る。
 胴木は樋管中心線より右寄りで最大23糎程度の変移を示して居る。木材類の腐蝕は認められない。
E、樋管の水平及縦断的変移
 樋管は平面的に中心線より最大23糎程度の変移を示して居る外、殆んどが中心位置より離れており基礎胴木の中心線と合致して居ない。又縦断的に見ると推定中心線より殆んど全部下にあり特に中央部に於いて沈下が著しく沈下の個所より判定して堤体の剪断力と関係があるのではないかとも推定される。併し乍らその量は取入口の樋管を除いては10糎以内であり斯様な基礎地盤並に構造に於ては許容の限界以内と考えても差支えないと思う。
F、樋管の埋設調査
 本樋管の埋設状況は下部には高水敷より持つて来たと思われる黒色・灰色・沈泥があり又上部には樋管の周囲にある褐色荒砂の上置層があり其の高さは平均、管径の約7割以上に達している。上置の荒砂は樋管の欠損した個処に厚く約0.15mに達しており其の他は各管の継手より流入したものと思われる。
G、其の他
 開削の結果、工事用の土留板が埋没されたまま発見されたこれは打込れた未口10糎、長さ1.50米程度の杭に板を釘打したもので殆んど樋管全延長に亘り発見された。
 開削が荒目砂の層に達すると僅か噴水状態になる個処が発見されたが河川低水位及山田用水路との関係は附図2に見られる通りで河川よりの地下水と考えられる。又、荒目砂層まで堀削した時附近井戸水の枯渇を見た。
(附図は印刷省略)