質問主意書

第24回国会(常会)

質問主意書


質問第一二号

火力発電設備の輸入に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和三十一年四月十九日

田中 一      


       参議院議長 松野 鶴平 殿



   火力発電設備の輸入に関する再質問主意書

一、水主火従を国是として電力経営を堅持して来た我国において最近火主水従論を提唱し、世界最高級の容量性能の火力発電設備の輸入を奨励する者があり、電力業者もこれに追随的に従わんとしているようであるが、この結論は慎重になすべきである。
 火力発電の建設費は水力のそれより低廉なる事は昔より明瞭な事実である。しかしながら限りある石炭はできる限りこれを温存してその使用を節減すべき事は国家百年の計を憂うる識者の常識である。国策として建設費用のかかるという理由によつて水力発電を軽視するが如きは天然資源の利用に不熱心のいたすところで大局的に考うべきである。

二、国内において一二五、〇〇〇KW級のものが製作中の時に世界においても実働の数少ないそれ以上の大容量高性能機の輸入申請に対して政府は、国産不可能と断じて止むを得ず許可するとの説明であるが、必要不可欠とする結論は果して妥当か。また一二五、〇〇〇KW級のものの製作可能なる時輸入によらねばならぬ一五、六〇〇〇KW級のものがなければならぬという根拠は薄弱ではないか。如何なる理由によるのか、政治的意味でもあるのか。経済自立、国産奨励、輸出振興を叫ぶ政府の最善策か。
 現在の国内の製作技術並びに材料問題において今直ちに輸入申請どおりのものが製作困難かも知れないが電力会社と材料メーカーを加えた製造業者との隔意なき協力によつては製作中の一二五、〇〇〇KW級よりも一歩進んだものの製作が可能になるのではないかと考えられる。政府はこれだけの指導努力もせずに輸入を許可するが如きは経済自立、国産奨励の精神に欠くるところありと信ずる。

三、政府は国内メーカーに二十万KW級の製作を可能にするように指導しているというのであるが、
(イ)米国の約十分の一といわれる日本の産業規模で発電単位のみ米国並に高めて行く事が妥当か否か検討せられているか。
 米国の総発電設備は一一、八〇〇万KWでわが国は一、三六〇万KW、約八・七倍であり米国は火力本位であるから火力設備のみを比較すれば米国は八、八〇〇万KW、わが国は五〇〇万KWで約十八倍である。
 また米国の一世帯当りの電力消費量は二、五〇〇キロワツト時であり、日本のそれは四〇〇キロワツト時である。米国の工場労働者一人当りの駆動々力は八馬力であり、日本のそれは一馬力未満である。
(ロ)日本のメーカーが二十万KW級の製作を可能にするためには相当の企業資金を要する。これを遊休化せしめない充分の自信と計画があるか。
(ハ)発電設備にはおのずから日本に適した限度がある筈である。これについては各電力会社の意見も必ずしも一定していないようである。二十万KW単位は必要としない意見もある。政府は日本の限度を大略決定すべきではないか。

四、政府は今回の輸入が重機械の輸出に大して影響がないと回答しているが、確かにそうであるか。
 東南アジア方面においてドイツその他との間に激烈なる売込競争が展開されている時このような現状が競争国の悪宣伝の材料にならぬと思うのか。

五、相当の工業力を有する国家は殆んど全部自国において製作可能のものをもつて設備しているのが現状である。東南アジア諸国においても製作可能の見通しのついたものは輸入禁止の措置を取つている。
 政府はわが国メーカーが多大の費用をもつて先進国メーカーとの技術提携を承認し、わが国技術の進歩を計つている。経済自立、輸出振興のために国産奨励について一層明確なる国策を樹立すべきである。

六、特命発注に関しては前回の購入実績を有している関係上特命発注を是認するような回答であるが前回も今回同様特命発注であつた事を想起して貰いたい。この方法が慣例のようになつている。
 また資金関係が輸入の理由になつているようであるが現在の金融状態においては公益事業たる発電設備については特別の措置を取り輸入の口実とならぬような方策を取るように計られたい。

七、要するに世界各国特に東南アジアの後進国ですら自立経済の熱意と努力とに燃えている時日本の政府がその熱意と努力を欠き、外国崇拝の印象を国民に与える事は正に反省すべきである。政府は更に一層強い指導精神をもつて指導すべきである。

八、今回の火主水従の考え方は松永構想といわれるが各会社の大型火力の輸入については強力な松永の要請、また或会社に対しては圧迫によりその意思に反し変更させたといわれるが充分調査しているか。