質問主意書

第21回国会(常会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質第一号
  昭和二十九年十二月二十四日

内閣総理大臣 鳩山 一郎      


       参議院議長 河井 彌八 殿

参議院議員木村禧八郎君提出西日本大水害に関する政府の四月九日附答弁書に対する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員木村禧八郎君提出西日本大水害に関する政府の四月九日附答弁書に対する再質問に対する答弁書

一、決潰した遠賀川左岸植木町中ノ江附近の堤防は、昭和十年頃から沈下の現象を生じたものであるが、三菱新入炭鉱六坑深一卸(坑名)の掘採が昭和十六年から開始されたためその影響も加つて沈下現象は著しくなり、昭和二十五年までの間において一、〇五米程度の沈下を来した。しかし、破堤点近傍における昭和十年以降破堤時までの総沈下量は一、三〇米程度と測定されており、二米以上に及ぶものは存在しない。
 以上の沈下の対策として、昭和二十三年度において堤防に四〇糎盛土して補強を図るとともに、提防の高さを補うため堤防の天端の川岸よりに上幅二米、下幅三、一米、高一、〇五米の小堤防を築造し、引き続き二十四年度、二十五年度に堤防の前腹付け工事を完了した。
 当該地点の地下採掘に基く不均等沈下による堤防とその基礎内部の亀裂、空洞などの有無については、当時調査が行われていないためその確認は困難であるが、当該箇所の地下採掘は五〇〇米以上に及ぶ深部にあり、その採掘跡も四〇%程度の充填を行つているので、沈下は極めて緩慢に進行し、他方地表は二〇-三〇米以上の軟弱な第四紀層が存在しているので局部的な著しい不均等沈下はおこらないと推定され、更に以上の軟弱な含水第四紀層の性状および地下採掘の条件等を総合的に勘案し沈下による亀裂、空洞等は存在しなかつたと推定される。
 計画洪水位以下の出水で破堤したことはまことに遺憾であるが破堤箇所は、大正年間の改修工事の一環として旧河川敷地に堤防を新設した箇所であり、地下四-五米の所に透水度の高い砂層が存在し、しかも度重なる出水によつて砂層の透水度を高めたこと、更に堤外地に存在した池の底がこの砂層に達していたこと等の理由については、破堤後において推定できるが、破堤前においてこれらを発見し、その対策を講ずることは実際問題として困難であつた。
 さきに提出された採掘図の採掘範囲についての食違いについては、答弁書添付図面の縮尺は、一万分の一、八月十三日提出した図面の縮尺は五万分の一であるため、縮尺の相違に基く図面誤差程度は認められるが、重要な食違いはない。なお、採掘範囲は、今回提出の採掘図(縮尺三千分の一)に正確に図示されている。

二、破堤前における沈下量は、下記のように特別鉱害復旧工事完了前においては一、〇五米程度で同工事完了後においては、〇、二五米程度であり工事完了後一米以上沈下した事実は認められない。
 昭和十五年八月まで         〇、〇五米程度
 昭和十五年八月-昭和二十五年三月  一、〇〇米程度
 昭和二十五年三月-昭和二十八年六月 〇、二五米程度、しかし昭和二十五年三月以降の坑内採掘の状況からみて破堤時より一年以前にはほとんど安定しており、上述のごとき採掘条件、地層条件よりみて破堤の原因となるものではないと推定される。八月十三日付で提出した沈下量は、通商産業局調査によるもので、建設省九州地方建設局が施行している調査とはそれぞれその目的上一応別個のものであるが、今後は、根本的対策樹立のため沈下状況の調査について極力連絡を密にして積極的に総合的見地から実施したい。

三、前回の答弁書において、明治末期から大正年間にかけて遠賀川が改修された際、旧河川敷地に堤防を築造したと述べているのは、破堤地点の上下流約二粁の間を指したものであつて、遠賀川全川の堤防が砂層の上に築造されたと云つているものではない。しかして砂層と透水との関係はその場所によつて異なるが、破堤後、近傍の堤防およびその基礎地盤等について、地質調査を行つた結果、破堤地点においては地下四-五米程度の箇所にあつた砂層を伝つて堤内法尻に漏水したものと推定したものである。なお、堤外の河床高と堤内の地盤高の差については、ほとんど変化は認められないから、これによる水圧及び漏水速度の増加は、問題にならないと考えられる。

 次に質疑事項については

(イ) 昭和二十九年梅雨期の出水に際し、破堤箇所の約二〇〇米上流に漏水が生じ建設省遠賀川改修工事事務所で漏水防止作業を行つたことは事実であるが、昨年の破堤箇所がこの種水防作業によつて破堤を防止し得られたか否かの想定は、困難である。
(ロ) 破堤箇所の下流に接続する堤防法尻において漏水のあつたことは事実であるが、これは破堤点の漏水と同様砂層に基因するものと考えられる。
(ハ) 破堤箇所より上流の堤防法尻附近に存在する質問書の農家については、昭和二十三年以降二十六年までの間に最高二、四尺の地揚げが行われているが、再び四尺以上沈下しているという事実は、採掘状況および近傍の沈下状況等から見ても考えられない。
 鉱害の防止については、従来とも施業案により監督を行つて来たところであるが、今後も鉱害防止上充分な監督を実施したい。
 なお、八月十三日の参議院建設委員会における石井桂委員の現地調査報告にも述べられているように、遠賀川流域は、極度に開発が進み人口ちゆう密し、加うるに永年にわたる大小炭鉱の石炭採掘による地盤沈下等もあるので目下施行中の遠賀川修補工事を推進すると同時に鉱害復旧工事の促進を図り、できる限り遠賀川流域の根本的治水対策に努める考えである。
                                    (図面は印刷を省略)