質問主意書

第15回国会(特別会)

答弁書


答弁書第一〇号

内閣参質第一〇号
  昭和二十八年二月十日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員須藤五郎君提出神戸拘置所における公務員の暴行凌虐事件に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員須藤五郎君提出神戸拘置所における公務員の暴行凌虐事件に関する質問に対する答弁書

一、神戸拘置所の暴行事件として列挙されている事案について慎重且つ詳細に調査した結果、その真相は次のとおりであり、何等暴行等の事実は認められない。
1.昭和二十七年十一月二十二日午後七時四十分頃、被告人李洪雨に対して殴打暴行を加えたという点については、同月二十一日午後七時三十分全収容者に就寝を指示した後に、被告人金栄泰が隣房の収容者と通声をしていたため、静粛方注意を促していたところ、これと何等開係のない被告人李洪雨が突然注意を促していた職員に対して大声で悪口雑言を浴せ、全収容者就寝後の静安を乱すおそれがあるため、一応舎房中央にある処遇係事務室に職員一名で連行し、静粛方説諭したるに全舎房に響きわたる程の大声で暴言を繰り返えすのみで更に反省するところがなかつた。同人のこの大声により保安課本部で執務していた職員二名が馳せつけ、さらに同人を保安課本部に連行し説諭を加えたるところ、全く反省の色がないのみかむしろ益々喧噪叫喚をほしいままにし、机を叩きあるいは蹴る等の挙に出で、今にも職員に暴行を加えそうな気勢を示すに至つたので、当直看守長は監獄法第十九条にもとづいて戒具施用を命じた。ところが同人は益々激昂して戒具施用を阻み職員を足で蹴りまたは体当りして来る等の反抗及び暴行を続け容易に施用させなかつたが、午後八時三十分当直看守長以下七名の職員でこれを取り押え防声具及び手錠を施用の上東舎第二十房に拘禁したものである。
 なお、右の措置に際し職員において被告人李洪雨に暴行あるいは暴言をなしたというがごとき事実は、全くない。
2.昭和二十七年十二月一日、病舎収容中の被告人金漢基を殴打したという点については、同日午後三時四十分頃同人を花柳病患者として病舎に収容したところ、同房の被告人神田厳の着衣が不潔であること等を理由として転房を強要したので、職員が病舎には目下空房がない旨を諭示して納得させようとしたが、頑としてこれをきき入れず、かえつて大声をもつて職員の悪口雑言を繰り返えすに至つた。そのため職員は居房扉を閉めて事態の収拾を計らんとしたところ、腕力をもつて扉を閉めさせずますます喧噪叫喚をつづけ、このままでは全舎房の秩序を害することが甚しいので保安本部に連行しようとしたが、同被告人は右職員の胸部を突き、殴打すべく飛びかかつて来たので双方が居房前廊下でつかみ合いの乱斗となり、その際職員は右第四指第二関節部に挫傷を負い、同被告人は職員のもつていた舎房用鍵で挫傷を負つたものであつて、職員が一方的に舎房用鍵で被告人の頭を殴打したというが如き事実はない。
3.被告人金七植が公判廷において態度が悪かつたという理由で暴行を受けたという点については、昭和二十七年七月二十九日神戸地方裁判所二階の法廷で同人外三名の審理が終り、同日午前十一時頃閉廷となつたため、被告人等を退廷させようとしたところ、大声で傍聴人と檄言を交わしこれを制止せんとする職員に対し怒号し喧噪を極め容易に退廷しないので、職員は被告人等の身体を支えるようにして退廷した。かくして法廷より出た被告人等を裁判所内の留置場に連行の途中、被告人金七植は階段を降りる際職員の背を数回乱打しまたは蹴る等の暴行を加え、なお留置場に着いても興奮して容易に入房せず、果ては入房を促す職員に飛びついてもみ合う状態となつたが、漸くこれを取押え手錠を施したものであつて、被告人金七植が職員より暴行を受けたというが如き事は全くなく、むしろ職員が被告人金七植より暴行を受けたものである。
 右の外、神戸拘置所におけるメーデー被告人に対する暴行事件及びその他被告人に対する暴行事件というが如きものは現在のところ判明しているものはない。
 なお、法務省としては常に人権の尊重に万全を期しいやしくも収容者の人権を毀損するが如きことなきよう留意しており、将来ともこの方針に変りはない。

二、以上のように、本件に関しては質問主意書記載の如き人権侵害の事実は全く存在しないのであるが、仮に若し暴行等の事実が存したものとすれば、その内容に応じ懲戒処分又は刑事処分に付して断固処断する考えである。

三、神戸拘置所における暴行事件と称するものの真相は、一に述べたとおりであるが、なお一の1については本年一月十八日付李洪雨から神戸地方検察庁に対し告訴が提出されており目下同検察庁において更に、慎重取調中である。