質問主意書

第12回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第三号

内閣参質第三号
  昭和二十六年十一月十日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員青山正一君提出水産基本政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員青山正一君提出水産基本政策に関する質問に対する答弁書

一、水産資源対策の確立

 水産資源の維持培養対策としては「五ポイント計画」の線に沿つて、昭和二十六年度補正予算に組入れ左の通り実施する予定である。
(イ) 濫獲漁業の阻止対策
 沿岸、沖合漁業については、漁場資源に比して漁業者数、操業漁船が過剰であるので、資源量に見合うように小型、中型機船底びき網漁業を減船整理し、旋網漁業、機船船びき網漁業はその操業度を調整し、さんま漁業にあつては操業期間の短縮により漁獲高の制限を行う等措置を講ずる。
(ロ) 漁業取締指導監督の強化対策
 沿岸、沖合漁業については、濫獲漁業の阻止によつて漁業秩序を維持し、海洋漁業については国際漁場の管理方式に従つて操業秩序を確立する等国として現在不徹底な状態にある漁業取締能力を充実し、一般海上保安の機能完遂と相俟つて、その秩序維持回復の措置を講ずる。
(ハ) 水産増殖事業の拡充強化対策
 内水面漁業については、新漁業法により増殖義務があるので、増殖計画を忠実に実施し、生産力を充分に発揮させるため、種苗の生産施設と放流事業については補助金を支出し、浅海増殖事業については貝類の種苗増産と新しい増殖面積を開発し、鮭鱒を増殖するためには北海道の人工孵化事業を国営にする等措置を講ずる。
(ニ) 科学的調査研究の充実
 科学的根拠に基いた水産施策を行うためには、先ず八海区の水産研究所を整備充実することが急務であり、目下着々その体制を確立し、水産資源の調査も全国的組織で実施しつつある。

二、漁船関係の行政の一元化

(一) 漁船の行政は漁業の許可、取締等の漁業行政と密接な関係にあるので、漁業行政を担当する農林省において行うことは漁業者の利便を図る上から至当と考えられる。
 この意味からさきの第七国会において漁船法の成立に伴い、漁船の建造等の行政は従来運輸省において一般の海運船舶と同一に所管されていたが、新たに農林省において取扱うことになり、現在に及んでいるのであるが、漁船の検査、積量、速度等の問題は船舶の堪航性と人命の安全等の問題に関連するので、これを一元化することについては、なお考究すべき点があるので、関係省間で研究中である。
(二) 御質問の如き場合において法律上の取扱を異にするため不都合を生ずることは、まことにもつともであるが、船員法を改正して、三十トンの限界線を更に引下げて、これら漁船船員の労働の実態に応ずる労働基準を設定すべきであるとの有力な意見もあり目下検討中である。

三、漁業金融の改善

(一) 漁業金融の真の安定を図るためには漁業補償制度の確立が基本的条件である。現行漁船保険制度は、農業災害補償制度に比して極めて弱体であるので、これを強化拡充し、漁業経営の安定に資する必要があるので、漁船保険制度を拡充するとともに、漁業災害復旧に融資した金融機関に対する政府の損失補償及び利子補給等の措置を講ずるよう努力している。
(二) 財政事情が許すならば、出来うる限りそうした措置を強化して行きたいと考えているが、与えられた財政事情の下においては、自ら限りがあることでもあり、又資金蓄積の現況においては限られた資金を最も効率的に所用して行くことが必要で、このためには、漁業経営の合理化と漁業者の自立への努力が、金融改善の前提条件になると思われる。
(三) これらの制度は金融方式の一種であつて、現に漁業手形は日銀の適格担保にもなつており、これを法制化することは考えていない。
(四) 漁業共済基金制度に基く積立金は、漁業者の資金調達のための一手段として積み立てるものであつて、その性質は一般の預貯金と何等異なるものではない。従つて、積立金額を所得に算入しないこと及びその利子に対して所得税を免除すること等は、負担公平の原則よりして適当でないと考える。
(五) 漁船建造資金については、復興金融金庫が融資活動をおこなつていたときに可成り積極的にその融通を行つたが、復興金融金庫の融資業務停止以来は、農林中央金庫、市中銀行等によつてその融資が行われている。漁業就業資金についても、現在のところは、農林中央金庫、一部市中銀行等によつて行われているが、その融資期限については、漁船建造資金と同じく、御指摘のごとき法規上の制限はない。
(六) 関東北旋網漁業に対する漁業手形の保証は、曾て復興金融金庫によつて行われたが、本年三月右の保証の履行に際し漁業者の承諾を得てその償還期限は、一年と定められた。従つて、明年三月償還期限が到来するわけである。
 その後漁業者の経営状況その他諸般の情勢に徴し、目下のところ右の償還期限を更に延長する考えはない。

四、漁業に対する課税方法の改善

一、徴税に際し、いわゆる目標制度による割当課税は行つていない。なお、割当課税であるというような誤解を招くことのないよう充分留意し、課税の公平を期したい。
二、漁獲から生ずる所得については、年により変動が激しいというその特質にかんがみ、変動所得としての五箇年にわたる平均課税を認めるとともに、その損失額については三年間の繰越控除を認め、更に青色申告者である漁業所得者については純損失の繰戻控除を認めることとしており、負担力に適応した課税がなされることとなつている。従つて、右の外特に漁業所得に限つて不漁の場合について特別の減免措置を講ずることは他の所得の場合との権衡上適当でないと考える。
三、(1) 漁業所得については、その所得の性質にかんがみ、できるだけ個別に実数を調査することとしているが、やむを得ない事情で基準を定める場合は、漁業者側の適正な意見を充分参考としている。
(2) 漁具については、他の固定資産と同様に耐用年数一年未満のもの又は取得価額若しくは製作価額一万円未満のものについては、原則としてその取得価額又は製作価格を必要な経費に算入しているのであり、これによりワイヤーロープ、いけす及びいかり等特殊の漁具を除いては殆んどこれに該当するものと思われるが、特に漁具に限つてすべてその代金を必要な経費に算入することは他との権衡上適当でないと考える。
(3) 固定資産の修理費については、通常の修理費は必要な経費に算入するが、支出した金額のうち、通常以上に使用可能期間の延長又は価額を増加せしめる部分に対応する金額は、これを資本的支出として減価償却の対象とすることとしているのであつて、特に漁船の修理費に限つてすべてこれを必要な経費に算入することは、他との権衡上適当でないと考える。
四、自家労力の対価を必要な経費に算入することは現行所得税の建前から考えられない。
五、漁業に対する附加価値税については、主として自家労力を用いて行う漁業に対しては課税しないこととなつている。これに該当しない漁業については、他の事業との権衡上非課税とすることは適当でないと考える。
六、青色申告の帳簿様式の簡易化については、研究中である。

五、漁況調査並びにその速報

(一) 県の指導船及び一般漁船からも資料を提供させて、これをローカル放送を通じて、各地域の漁民に知らせている。これは現在全国的な組織にまでいつていない。現在は日本海におけるイワシ、サバ、東北海区研究所を中心とするカツオ漁業について行つている。いずれ各県の指導船に国費の補助を与え、海況漁況の調査を各海区研究所を中心として行い、全国的な組織にまでもつて行きたいと考えている。
(二) 水路部及び各県の水産試験機関とは密接な連絡をとつて、可能な範囲で海洋調査を行つている。東海区水産研究所では毎月一回、海況漁況を記入した海洋図を発行している。長崎の西海区水産研究所では月三回イワシの漁況と漁場についてパンフレツトを発行している。東北海区水産研究所ではカツオについて速報を出している。北海道海区水産研究所では月一回研究報告を発行して業者に配布している。その他の海区研究所でも漁業者に役立つ速報を準備しているが、設立以来日が浅いので未だ発行するまでに至つていない。海区研究所の内容が整備され次第、次第に漁民に役立つ報告をさせたい。

六、旋網漁業調整案の実施

(一) 国会にて目下審議中の「漁業法の一部を改正する法律案」が可決後速かに省令を制定の上実施する予定である。
(二) 本漁業は、定置、釣、刺網等他種沿岸漁業と密接不可分の関係にあるため、本漁業のみの経営の安定を図ることなく、沿岸漁業についても充分考慮を払うべきである。然し、その反面、本漁業の操業を不当に抑制するようなことは考慮していない。
(三) 許可の独占集中についての排除は、当然考慮すべきで、この件については他の漁業調整規則と同様省令に規定する。又現在考慮中の海区の範囲は、従来の旋網漁船の活動範囲を基礎にして定めたものであり、隣接海区のものについても過去の実績を参酌の上考慮したい。
(四) 旋網漁船の大型化は種々な理由があるにしろ、近年著しい傾向であり、その抑制を図るのが調整要綱の主眼であり、若し例外を認めるとすると、その目的がくずれる虞があるので原則的には不適当と思われる。
(五) 現在考慮中の三海区の内北部太平洋海域については、異論がないものと思われるが、日本海区を二海区に区分したのは次のような理由である。
(イ) 現在の入会操業(他県の許可を受有している状況)を見るに一応この二海区の範囲内で収つている。
(ロ) 中部日本海海区の経営体は漁民の協同体が多いのに反して西部日本海海区は個別経営体が多い。
(ハ) 中部日本海海区に属する各県は西部日本海海区と合体することに猛烈な反対がある。
(六) 沖合漁業の調整機構の確立が立ち遅れているのは御説の通りであるが、その主たる理由は、新漁業法の主眼が先ず沿岸漁場の利用関係を漁場計画により明確化し、その過程において問題を沖合漁業に移すべき方向をとつたためであるが、現在ではこの沖合調整機構の確立を図るべき時期に立ち至つているので、目下種々考慮中であるが、現行制度の連合海区調整委員会で処理することも右と別個な沖合総合調整委員会を新設の上処理することも不適当と認められるので協議会制度も採用して処理したい。

七、荒廃漁場の復旧

 放置物件の種類については所轄が海上保安庁にある物件もあるので、海上保安庁と緊密なる連繋のもと放置物件の引揚を実施したが、今後も益々復旧措置を講ずる。

八、連合軍演習に因る被害の補償

(一) 現在の区域以外に拡大しないよう要請する。
(二) 昭和二十五年七月二十一日の閣議において左の要綱が決定された。
   占領軍の演習による漁業者の被る損害の補償要綱
一、占領軍の演習(爆撃、砲撃、上陸演習等により一定の水面を占用して行われるもの)により漁業者が被る損害に対しては国費(終戦処理費)をもつてこれを補償するものとする。
二、損害補償は予算の範囲内においてこれを行うものとする。
三、補償実施の細目については農林大臣と大蔵大臣が協議してこれを定めるものとする。
右の閣議決定により二十四年度までの損害に対しては、二十五年度の補正予算で要求して一応の解決をみたが、なお、二十五年度の損害に対しても予算措置を講じたいと考えている。