質問主意書

第10回国会(常会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参質第八号
  昭和二十六年三月二十八日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員片岡文重君提出戦争傷い者の生活保障に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員片岡文重君提出戦争傷い者の生活保障に関する質問に対する答弁書

一、もとの軍人軍属たる戦争傷い者は公務による障害であつてこれらの人々に対する援護対策については研究致したい。

二、現在傷い者の保護更生については災害、事故、疾病等による一般身体障害者と同様に四月一日より施行になつた身体障害者福祉法並びに生活保護法によつて種々の施策を講じており、今後も質問の趣旨に沿うよう努力したい。

三、現行のいわゆる傷病軍人恩給は、従来、軍人に支給された公務傷病恩給を、昭和二十一年十一月二十四日連合国最高司令官から日本政府に発せられた覚書の趣旨に従い減額改正したものであつて、恩給額に差を設けているのは、退職当時の条件と不具廃疾の極度に基くものに外ならない。従つて現在においては退職当時の条件を無視して、不具廃疾の程度のみによつて恩給を支給することは困難である。

四、いわゆる傷病軍人恩給については、その増額につき研究中である。

五、軍属の傷い者に対する雇員扶助令又は傭人扶助令の適用は戦争中から引続き行われているが現在はこれ等扶助令の適用を受けるよりも未復員者給与法の適用を受ける方がより有利であるがため雇員扶助令及び傭人扶助令の療治料及び傷害手当は有名無実となつている実情である。現実に軍属の傷い者に対する療養、障害一時金、埋葬料の支給は未復員者給与法により実施され軍人と何等の差別がない。

六、いわゆる傷病軍人恩給に対する扶養家族加給の給否は、その恩給の給与事由発生の時を標準として、これを決定することになつている。従つて、昭和二十三年九月一日以降に妻帯した傷病軍人恩給受給者と雖も、その恩給の給与事由の発生の時如何によつては昭和二十一年勅令第六十八号第五条第三項の加給を支給する取扱をしている。

七、傷い者の更生補導施設はこの事業においては特に重要な問題であるので、これが収容施設を増設するは勿論この施設の運営及び内容についても更に研究して最低基準等を設け遺漏のないよう致したい。

八、身体障害者の就職対策は職業安定行政上最も苦心を携つているものの一つである。
 身体障害者の就職を円滑にさせるためには、先ず雇用主を含む国民全体のこれら傷害者に対する深い理解と同情が啓蒙されるとともに身体障害者個々人の失われた身体上の欠陥を補う他の能力機能の発見と育成が為されることが必要である。斯る見地から、政府においては、平生はもとより特に身体障害者雇用促進強調運動期間を設け、一般雇用主に対して、これら傷害者についての従来の誤つた観念を是正し、傷害者の未だ有する能力、機能が障害によつて失つたそれを補つて余りある例等を知らしめる等、雇用主の啓蒙に努力を払う一方、傷害者のための特別の専門的職業補導所を設け、これら傷害者の能力、機能の発見とその補導に力を尽し、傷害者が一般労働市場の要求に合致する職業的能力を持ち得るように援助指導している。

九、身体障害者の更生補導は、身体障害者福祉法を中心として関係各機関と密接な連絡を取り系統的な運営を図つてこの事業を強力に推進したい。

十、身体障害者は更生補導によつて残存能力を充分活用するならば一般の人に比して何ら劣ることはない。特に身体障害者のみによつて運営されている平塚製作所はその作業効率において年々相当の事業成績を挙げており、昨年七月の整理もその後の情勢により実際は行わなかつたような次第でありこの様な事業場の拡大強化は極めて望ましいことであるのでその助長に努めたい。

十一、傷い者の更正資金は現在国民金融公庫をして行わせしめている更生資金の枠内において、引揚者、戦災者、未亡人等一般生活困窮者と同様に取り扱つている。

十二、戦争傷疾者に対する所得税の課税に当つては、その者が所得税法上の不具者に該当する場合に一万二千円を特別控除することとしているのであるが、今回これを一万五千円に引き上げ、更にその負担の軽減緩和を図ることとしている。
 なお納税についても、国税徴収税法を改正し、納税者が罹災、盗難、疾病、廃業、休業、事業上の甚大な損失等により、一時に納税することができないときは一定条件の下に徴収猶予の措置をとりうることとし、又、滞納処分の執行によつて事業の継続を著しく阻害するおそれがある等の事由があるときは、滞納処分の執行を停止しうることとする等徴税上の緩和措置をとることとしている。更に、課税に際して法の適正な運用を図り、真にその実情に即した課税を行うことについては、今後とも一層努力いたしたい。

十三、国立病院は広く一般に適正な医療を普及させることを主なる使命とする関係上真に入院治療を必要とする者のために病気が治癒又は病状が固定して療養の必要がなくなつた者は退院してもらうようにしているが国立病院の経営について営利化するようなことは考えていない。
 なお国立病院に入院中のもので住宅がないために退院できない者については来年度は特に国庫補助公営住宅の建設等により特別の考慮を計らいたい。

十四、重度傷い者に対しては身体障害者福祉法により義し、車椅子等の補装具を給与し、更生指導所、光明寮、収容授産施設等に収容する等その更生援護を計つているが、なお、その生活保障の充全を期するため現行制度の適正な運営を図りたい。

十五、未復員者給与法による療養では病の再発が治癒後の新たな原因により又は本人の重大な過失又は不注意によつて起つた場合を除き法に規定する期間内は療養を行つている。又恩給は傷病の治癒の後或は医療を継続するの必要のなくなつた時に申請し受給するものでその状態では療養の必要はなくなるものであるから未復員者給与法の適用を打ち切ることは当然のことである。

十六、身体障害者福祉法及生活保護法の内容充実により万全を期したい。

十七、身体障害者福祉法、生活保護法その他の社会立法等を充実し、活用してかかる募金行為が自然に消滅するようその健全なる更生の途を図りたい。