質問主意書

第9回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質第一号
  昭和二十五年十二月五日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員青山正一君提出漁業経営合理化に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員青山正一君提出漁業経営合理化に関する質問に対する答弁書

一 漁業金融の改善について

(一) 漁業金融は、他産業に対する金融と異なつた性格をもつているので、漁業金融について独自の金融機関を設置することについては、政府としても考究中であるが、諸般の実情から早急にこれを実現することは極めて困難であると思われる。
従つて漁業金融改善の問題は差当つて既設金融機関に長期低利の資金(例えば預金部資金による金融債の引受)を供給することによつてこれが打開を図ることとし、併せて漁業独自の金融機関設置の促進に努力したい。
(二) この問題については質問主意書の意見に同感であつて、目下法制化につき考究中である。
(三) 公共事業については既に相当程度この問題は実現している。問題は私企業に関してであるが、目下特定漁業については既に補償制度立案のために資料を整理中であり、又災害融資に関する臨時立法の制定につき努力中である。
(四) 現行漁業手形の償還期限の延長の問題であるが、一率に手形期限を延長するということは考えていない。これは個々の手形債務者の具体的なケースとして研究を要するものであり、(二)の漁業手形制度の恒久的法制化の際同時にこれが解決を図りたい。

二 漁業課税の改善について

(一) 徴税目標達成のための割当課税は行つていない。
 なお、割当課税であるというような誤解のないよう充分留意する。
(二) 現行所得税法においては、漁獲から生ずる所得については、これを変動所得として、五箇年にわたる平均課税の方法によることができることとしている。すなわち、年により所得の変動が激しいという特質を考慮して、年々平均的に所得を得ている者との負担の均衡を合理的に調整している次第である。同時に、変動所得として平均課税の方式を選択している場合には、不漁によつて損失を生じたときには、青色申告書でない場合においても、その損失額は、翌年以降三年間にわたつて繰り越して控除することができるよう既に適切な措置を設けているところである。
(三) 現在主として自家労力による漁業のみが非課税とされているのであるが、漁業のように労賃部分が相対的に高く、且つ、漁獲変動のはげしい産業に対して附加価値を課税標準とすることは極めて苛酷な税負担となる結果を生じ、これが新しく徴収される免許料、許可料と併せて漁業経営に対して過重な圧迫となるので、漁業を附加価値税の適用除外とされることが望ましく目下研究中である。
(四) 漁業所得については、その所得の性質に顧み、できるだけ個別に実数を調査することとしているが、やむを得ない事情で基準を定める場合は、漁業者側の適正な意見は充分参考としている。
 次に、個人がその年中に船体、機関等の固定資産について支出した金額で、いわゆる改良費その他資本的支出に属するもの以外のものは、その年中の必要な経費に算入することになつているのであるが、特定の支出が資本的支出であるかどうかは、個別的に、具体的事業に即して適当に判定することとしている。
(五) 自家労働の対価を経費として控除するときは、所得課税の本旨に反し負担の公平をかくこととなるので妥当でないと考える。なお、現行所得税法においては、漁業を営む者と生計を一にする配偶者その他の家族がその事業から所得を受けるときは、その事業を営む者の所得とし、家族従業者はその扶養親族として一人当り一万二千円の控除を認めることとし、負担の緩和を図つている次第である。
(六) 青色申告者の備えるべき帳簿様式をより一層簡易化することについては、目下検討中である。

三 経営費の低減並びに魚価の維持の方策について

(一) 漁業用資材の確保については、一般漁業用水産用石油製品は年間需要約七十二万キロリツトルに対し約四十八万キロリツトルの供給を確保し約六十五パーセントの充足となり、綿糸については需要二千六百万ポンドに対し二千二百万ポンドを配給し八十五パーセントの充足となつている。現在の国際情勢、自立経済確立のための輸出等の関係から百パーセント充足は困難であるが、今後更に努力したい。科学的施漁法に関する研究施設の強化については目下努力している。
(二) 水産物の保蔵施設については、魚価対策の一環として生産地における鮮度保持と出荷調節とを図ることにより販売を合理的にすることを目的として漁業協同組合等に対する保蔵施設を奨励することは必要であると思うのでその助成策について研究している。なお、現在見返資金による融資方策を進めている。
(三) 魚価に対する給氷費の割合は約五パーセントであり、また輸送費は五乃至三十パーセントとなつているが、製氷費は電力費等の関係もあり急速なコスト引下げは困難であるが、製氷施設に対する技術指導、融資等の助成を更に充実して供給の円滑を図りたい。輸送費については一般輸送費との関連において水産物のみが特に高いということはないが、計画出荷指導等により遠隔地出荷を合理化し、経費の節減を促進したい。
(四) 漁業用資材中、燃油は約九十パーセントまで輸入にまち、且つ国内での精製費は配給価格の一六・五パーセントに過ぎない。また綿糸についても輸入原料の値上りが重要な部分を占めているので、生産面からの価格引下げは困難な状況であり、生産奨励金については財政面から困難であるので適当な融資方策等を考えたい。
(五) 中央卸売市場については、自主的に代金決済機関等により決済の促進を図つているところもあるが、なお水揚金の決済を促進するよう政府としては法律の改正により現在の開設者中心の監督制度を改め、政府の荷受側に対する指導監督を強化したい方針である。