第7回国会(常会)
答弁書第五四号 内閣参質第四三号 昭和二十五年四月十八日 内閣総理大臣 吉田 茂 参議院議長 佐藤 尚武 殿 参議院議員田中利勝君提出失業対策並びに賃金政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員田中利勝君提出失業対策並びに賃金政策に関する質問に対する答弁書 一、失業対策について (一) 昭和二十四年度の労働力需給について 1 昭和二十四年度における新規雇用量を理論的に四〇万と推定したが、「この新しい雇傭が如何なる産業に分布されているか」について産業中分類別の分布状況は、この種統計に欠けている今日明瞭にすることは困難であるが、総理府統計局の労働力調査により、昭和二十四年三月と昭和二十五年二月の就業者数を対比するに、農林業等の季節的労働の変動は別として非農林業の雇用量は一、八〇〇万人内外で略々保合状況であり二十四年三月に比較して本年二月は稍々減少となつている。そのうち増加している部門は製造兼小売業、土建業等でその数は約一二八万人となつてをり、その他の部門における雇用量の減少数は一四一万人である。 2 昭和二十四年三月新規に学校(大学その他を含む)を卒業した者の数は、推定約一七〇万人でありそのうち就職を希望する者は約六十数万人と推定される。 一方老齢その他で職を退くものがあるがその数は不明であつて、結局新規にどの程度増加したかの算定は不可能である。 しかしながら一方同じく労働力調査によつて見ると、次のごとくなつている。 即ち、一五才以上人口は二十四年三月五、五六七万人であつたが、本年一月には五、五二一万人となり四六万人の減少となつている。 このうち就業者と、失業者を加えた労働力人口は三、五六五万人から三、三九三万人と一七二万人の減少を見ているのであるが、一方非労働力人口は二、一二八万人であつて一二七万人の増加となつている。 その内訳を見ると、不具、老齢、病気等によつて、就業不可能な者二九万人、通学、家事等身分上の理由によつて就職の余裕なきもの六二万人、求職の意志なきものその他において三六万人の増加となつている。 3 完全失業者数は四月四三万、五月四四万となり、その後六月三六万、七月三八万、八月三五万と減少を続けたが、九月には四七万と増加しその後十月三五万、十一月三三万、十二月三四万と減少を続け、本年一月には、四〇万、二月四三万人と増加の趨勢を示している。 (二) 潜在失業について 1 労働力調査によつて、昭和二十四年十一月の就業者のうち追加労働を希望するものは二〇四万となつているが、このうち (イ) 就業時間別にみると、
(ロ) 希望する労働力時間別にみると、
2 3 の質問の趣意は明らかでないが、政府としては顕在化した失業者に対しては、綜合的失業対策に努力している。 (三) 昭和二十五年度労務需給について (1) 昭和二十五年度における雇用の新規増加の見透しについては、おおむね次の如く考えている。 経済情勢は逐次安定化の方向を辿るが更に見返資金の運用、公共事業の拡大実施等によつて新規雇用は可成り増加すると考えられる。 即ち公共事業の拡大実施及び見返資金の運用等による土木建築事業の振興によつて土建業部門の雇用は相当大幅に増加する他各種産業部門においても経済の安定化に伴つて、おおむね次の如き雇用増が行われるものと推計される。
(2) 次に新にどの程度の人員が就職を要し、及び離職するかについての見透しは極めて困難である。引揚者、新規学校卒業者等相当大巾に求職部面にあらわれると考えられ、又一方相当程度の人員が離職するものと考えられるが明確なる資料を欠き従つて全般的に確たる見透しをつけ難い。 (3) 失業者に対する対策は根本的には経済の振興による雇用量の増大のうちに失業者を吸収することにあるが、この他なお見返資金の運用及び公共事業の実施によつて相当の雇用の増加が考えられる。 これらの増加した雇用量のうちに吸収され得ない失業者に対しては、失業保険制度による救済或いは職業補導所への吸収をすることとしており更に必要に応じて失業対策事業を実施する予定である。 知識階級の失業者に対しては特にそのための対策は実施していないが、公共事業或いは失業対策事業等における就労配置に当つてはその能力に応じて作業監督者事務系統の職務等に配置するよう特段の努力を払い配置転換を容易にするため職業補導を強力に実施することとしている。 しかしながら知識階級の労働者といえども、現下のわが国の状勢下においては、必ずしも従来筋肉労働に従事していたものと区別する必要はなく一般の奮起が望ましい。 なお家族従業員、中小企業主等についても同様に考えている。 昭和二十五年度の失業対策は、現在のところ必ずしも全般的な細部計画が樹立されている訳ではないが、公共職業安定所を中心として把握した失業状況により可及的に失業の情勢に応ずる如く、見返資金の運用を図り公共事業、失業対策事業等の実施をなすこととし、これについて充分の考慮を致したい。 二、賃金政策について (一) 賃金(毎月勤労統計)及び消費者物価(C・P・I全都市)は昭和二十二年一月を基準として昭和二十四年末にはそれぞれおおむね一〇倍、四倍となつている。 これを最近の一年間(二十四年中)について見れば賃金はおおむね一九%上昇しているのに対し、物価は殆ど変動していない。従つて実質賃金は一九%向上しているのであつて、今後も賃金物価共に著しい変化はないものと考えられる。 (二) 経営の合理化は決して低賃金政策を意味するものではない。 なおソシアル・ダンピングの復活を排除するためには労働基準法の規定を励行することと致したい。 (三) 現在のわが国の経済状態の下において最低賃金制は複雑な影響を持つものと考えられるので、賃金審議会においてわが国経済の実態、企業の支払能力特に中小企業に与える影響等を十分検討の上その基本方針を審議して貰うつもりである。 |