質問主意書

第7回国会(常会)

答弁書


答弁書第一四号

内閣参質第二号
  昭和二十五年一月三十一日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員岡村文四郎君提出北海道産いらくさ集荷に対する損失補償に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員岡村文四郎君提出北海道産いらくさ集荷に対する損失補償に関する質問に対する答弁書

 昭和二十三年度当初における国民衣料の需給状況は国内用繊維原料の輸入もその多くを望めず、衣料需給計画を遂行するためには、国内産の繊維原料によらざるを得なかつたのであります。ために農林省蚕糸局及び商工省繊維局においては、野生いらくさの採集を計画し、昭和二十三年三月十五日附連名局長通牒をもつて採集集荷の割当をなし、同年六月十六日附連名局長通牒及び北海道については同年六月十六日附繊維局長名通牒をもつて、需要者別(工場別)配分をなし、之により国民経済生活安定の本である衣料の増産を期したのであります。
 然し乍ら北海道内の集荷、状況に関しましては、昭和二十三年十一月二十七日附北海道(経済部長、商工部長)名出荷工場照会により始めてその報告に接したような次第であり、この間における雑繊維適格工場たる旭川紡績の綿紡績への切換及びその切換に関しての中央当局への無報告等の事情もあり、加うるに周知の如く経済状勢の変化は著しく、雑繊維工業もその渦中の難を免れ得ず、製品価格の低落、需要の減少等により、内地雑繊維工業者もかかる状勢下において莫大なる運賃を支払い、品位の判明しない北海道産野生いらくさの引取に関し不安を抱いていたのでありますが、集荷依頼の責任上、また採集者各位への労苦に対し、損失を自覚の上昭和二十四年四月北海道を除く雑繊維業者一致してその引取の了承を得たのであります。
 然るに実際輸送に際しては内地到着現品中腐敗原草多量でありまして、引取関係者の中には、原草としての商品価値は失われており、かかる品位の原草をあえて輸送したのではないかという疑義の声もあつたのであります。北海道内の特殊事情等によるとはいえ、原草保管問題に関しましては、あくまでも集荷者の責は免れざるを得ないと見られたのでありますが、原草採集及び集荷者各位の御努力に対しては折角感謝に耐えないので、かかる輸送原草腐敗等の問題は関しまして昭和二十四年八月六日関係者代表全員出席しましてその協定を致し、その後一時交通事救もありましたが、昭和二十四年十月をもつて、一応いらくさ内地輸送を完了したのであります。
 以上本問題解決に関しては経済状勢等の変化により、その解決に相当の日時を費したが、政府におきましては手続上取るべき手段は一応完了しているので本問題の損失に関してはその責任を負うべき筋ではありませんが、本問題の従来の経過に鑑み政府もこれを重要視しあえてその解決に腐心しているのであります。北海道における野生いらくさ集荷時期は通常九月より十月迄の期間でありますから、需要工場及び集荷団体は需要者配分計画に基いて随時取引を行うべきものでありまして、この取引によつて雑繊維業者が原草を受領し、これを精練開繊して、その報告により通商産業省通商繊維局は指定生産資材割当規則に基く消費割当をするのでありますが、この間の取引、報告、原草の保管等は総て需要者及び供給者がそれぞれその責を負うべきものと考えます。損失に対する補助交付はその性格上、また予算面上支出は困難であり、これに代るべき物資の特配については、種々考慮し、その確保に努力し、ゴム製品(長靴二、〇〇〇、地下タビ五、〇〇〇足)に関してはすでに割当が決定し、その他の希望物資を特配することによつて問題を円満に解決するよう万全の努力をいたしている次第であります。
 以上別紙昭和二十三年度北海道産いらくさ処理経過の顛末を附記して損失補償に対する答弁とする。

     昭和二十三年度北海道産野生いらくさ処理の経過

一、昭和二十三年三月十五日附二三蚕局第四二九号{農林省蚕糸局長/商工省繊維局長}名知事宛「昭和二十三年度野生いらくさ取扱に関する件」にて採集、集荷に関し通牒す。
北海道集荷割当数量九九五、〇〇〇貫
全国集荷割当数量二、〇〇〇、〇〇〇貫

二、昭和二十三年四月十九日附官体一九号文部省体育局長名知事宛「学童の雑繊維資源蒐集援助について」にて採集、集荷に関し学童の協力の指導方を依頼する。

三、昭和二十三年六月十六日附二三蚕局長第一〇二二号{農林省蚕糸局長/商工省繊維局長}名知事宛「昭和二十三年度産野いらくさ需要者別配分に関する件」にて製紙及び繊維原料農産物委員会にて決定せる原草の工場別配分を通牒す。
 但し北海道の九九五、〇〇〇貫は本割当にては配分せず第二次割当とす。

四、北海道産いらくさについては昭和二十三年六月十六日附二三繊第六一五六号商工省繊維局長名{商工省商工局長/各需要者}宛「昭和二十三年度産野生いらくさ需要者別配分に関する件」によつて次のように配分した。
割当表(北海道分)旭川紡績一〇、〇〇〇貫
内地工場計九八五、〇〇〇貫
北海道産合計九九五、〇〇〇貫

五、昭和二十三年十一月二十七日附子農務第二八九三号 北海道{経済部長/商工部長}名農林省蚕糸局長宛「昭和二十三年度野生いらくさの取扱について」にて原草消費工場につき照会あり。

六、直ちに折返し農林省蚕糸局蚕業課長名北海道経済部長宛野生いらくさ集荷数量を照会す。

七、昭和二十四年一月二十一日附北海道庁より蚕業課長宛集荷数量の報告あり。
集荷数量二四八、八八九貫

八、直ちに商工、農林両省間にて北海道産いらくさの内地工場引取に関し折衝を開始する。経済状勢の変化等により引取りに関しては困難を感ず。

九、三月上旬北海道庁、北海道販売農業協同組合連合会(以下北販連と呼ぶ。)旭川紡績係官上京する。
 商工、農林両省とも始めて北海道内の集荷状況の詳細及び旭川紡績の綿紡績工場への転換等を知る。

十、昭和二十四年三月十三日日本雑繊維工業連合会(以下雑繊維と呼ぶ。)役員会にて原草引取に関して、その協力方を依頼し全員一致しての承認を得る。

十一、昭和二十四年四月一日北販連と雑繊維との間に原草受渡契約を締結、覚書を手交する。

十二、昭和二十四年五月末原草出荷開始する。

十三、昭和二十四年六月上旬雑繊維より到着品腐敗甚しきにつき一時出荷中止し再検査をするよう申出あり。
 直に北販連及び雑繊維、農林省並びに北販連及び雑繊維にて現品着荷状況を視察し、腐敗を認む。

十四、昭和二十四年七月十二日附二四蚕局第一三四五号農林省蚕糸局長名北海道経済部長宛「昭和二十三年産野生いらくさ処理問題につき係官派遣方依頼の件」にて内地着荷腐敗原草の処理、運賃、道内滞貨原草内地輸送、その他の問題に関し協議のため係官派遣を依頼する。

十五、昭和二十四年七月二十九日北海道庁、北販連係官上京す。

十六、商工、農林両省、北海道庁、北販連、雑繊維係官にて協議を重ぬ。
 昭和二十四年八月六日内地輸送不良品数量、貨車積載量、集荷量、今後の内地輸送、運賃、その他等につき結論を得る。

十七、昭和二十四年十月四日及び八日附交通事故によるいらくさ原草輸送遅延について関係方面への配慮方に関し北販連より連絡あり。

十八、昭和二十四年十月末昭和二十三年度北海道産野生いらくさ内地輸送完了す。
 北販連にて判明せる集荷原草の処理状況左の如し。
全集荷数量二四八、〇八九貫
内地輸送数量計一二一、八〇〇貫
内地輸送数量中
 腐敗原草数量
一二、〇〇〇貫
 但し右数量は昭和二十四年八月六日雑繊維、北販連協定によるものであり、その後の輸送原草中には腐敗原草を含まず。
産地腐敗原草数量一二六、二八九貫

十九、昭和二十四年十一月二十五日附販林号北販連会長名農林大臣宛「昭和二十三年度いらくさ腐敗事故額、補償申請について」により事故額補償の申請あり。

二十、昭和二十四年十一月二十九日附二四農第二六九五号北海道経済部長名農林省蚕糸局長宛「昭和二十三年産イラクサ処理問題について」により損失補償の申請あり。

二十一、昭和二十四年十二月北販連係員損失補償に関し上京り。

二十二、商工、農林両省損失補償につき協議す。直ちに特配物資の確保に努む。

二十三、昭和二十五年一月二十三日ゴム製品(長靴二、〇〇〇足/地下タビ五、〇〇〇足)足の割当決定す。

二十四、昭和二十五年一月二十二日北海道庁係官上京損失補償に関し申請す。