質問主意書

第7回国会(常会)

答弁書


答弁書第一〇号

内閣参甲第一七五号
  昭和二十四年十二月二十七日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員姫井伊介君提出失業対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員姫井伊介君提出失業対策に関する質問に対する答弁書

一、昭和二十五年度における失業者の概数

 失業者数を把握する場合には標本調査によつて全国的な推計を行つている総理府統計局の労働力調査、公共職業安定所における職業紹介状況或は失業保険金の支給を受けている者の数等種々の資料が存するが、確実なる失業者の数を把握するには夫々一長一短があり、これらを綜合的に判断することによつてその大勢を知ることとなるのである、適確なる失業者数の把握は特に我が国の現状においては困難であるといわねばならぬ。
 更に将来の推計については、その困難は倍加され、海外政情の動向及びこれに伴う経済情勢の変動等について、確たる見通しをなすことは極めて困難であり、従つて雇用情勢についての確定的な予測はでき難い実情にある。

二、昭和二十五年度雇用吸収計画

 昭和二十五年度における失業者の雇用吸収及び救済計画について政府としては大要次の如く考えている。

(一) 雇用量の拡充計画
 失業対策としては、民需産業の振興等による雇用量の拡大によつて失業者を吸収することを根本的な方式とするものであり、これには次の如きものが考えられる。
(1) 輸出産業を中心とする民需雇用量の増大  八〇万人
 わが国の経済的自立達成のためには、貿易の振興が中軸となるべく、これがためポンド地域との貿易協定の改訂、フロアフライスの撤廃及び輸出C・I・F建取引商務官の海外渡航の決定等各種の貿易条件改善措置が努力されている。
 一方民需産業振興のために金融及び資材等の面においても諸般の施策が講ぜられているので、輸出産業並びに民間産業の相当の活況が期待される。従つて民間雇用量も安定した経済基盤の上に、相当数増加すると見込まれる。
(2) 見返資金の運用による雇用量の増大  三〇万人乃至四〇万人
 見返資金の活用が自立経済の再建に寄与する所は極めて大なるものがあり、昭和二十四年度においても、その効果は注目すべきものがあつたのであるが、昭和二十五年度において見返資金総額約千五百億円のうち仮りに約六四〇億円が基幹産業及び公共事業等に投融資されるものとすれば、これによつて約三〇万人乃至四〇万人の雇用量の増大が見込まれる。
(3) 公共事業の施行による新規雇用量の増大  五〇万人
 昭和二十五年度公共事業費九七〇億円が成立すれば、これによつて約一〇〇万人の労務者の使用が見込まれるが、昭和二十四年度において、約五〇万人がこれに雇用せられていると推定せられるので、昭和二十五年度においては更に五〇万人が新規に雇用されるものと見込まれる。
以上の(1)(2)(3)によるもなお実際に吸収するまでには時間的な懸隔があり、或いは又失業者の全部を吸収することが不可能な場合等においては、臨機応変に一時的に雇用機会を造出して、これに吸収することが必要であり、これがための措置として次のものを考えている。
(4) 失業対策事業による吸収  一〇万人
 昭和二十五年度失業対策事業費四〇億円が成立すれば、失業の情況に応じて適時に、必要なる地域で所要の規模の失業対策事業を施行し、これによつて約一〇万人の失業者を吸収しうることとなる。
(5) 職業補導の実施  五万人
 輸出産業を中心とする民需産業の振興による雇用量の増大に応じ、これに対する配置転換を容易ならしめ併せて産業に必要な技能要員を養成するために、職業補導事業を実施することとし既設三〇五ケ所の職業補導所(内身体障害者の補導所五ケ所)の他に、新に三五ケ所を増設して計三四〇ケ所の職業補導所において年間五万人を吸収することとする。

(二) 失業保険制度による失業者の救済計画
 先に述べた雇用量の拡充計画によつても、吸収することのできない失業者については、離職後六ケ月の間一般の失業保険金を支給して、これを救済することとし、日雇の失業保険制度の活用と相俟つて、金銭給付による救済の万全を期することとしている。
(1) 一般失業保険  四〇万人乃至八五万人
 昭和二十五年度失業保険給付金一二〇億円を予定しており、これによつて救済される者は四〇万人であり更に昭和二十五年度においては予備費四〇億円(これに見合う国庫負担金二〇億円を合すれば六〇億円となる)が予定されているので、これをも支出して給付するとすれば合計六〇万人を救済することができる。
 更に、保険料の積立金として昭和二十三年度分三六億円昭和二十四年度分二〇億円合計五六億円(これに見合う国庫負担金二八億円を合すれば八四億円となる)の運用によつて二五万人を救済することが可能であり、総計八五万人迄は、救済し得る体制にあるといえる。
(2) 日雇失業保険  一三万人
 日雇失業保険給付金一一億三千万円によつて昭和二十五年度においては約一三万人を救済することができる。

三、完全雇用の根本政策

(一) 完全雇用の問題は単なる完全就業でもなく、又失業者救済の問題でもない。それは飽く迄、総体としての経済の合理的な拡大再生産の問題であつて、わが国経済については輸出振興を中心とする生産の拡大のための綜合的な経済政策の推進がなさるべきだと考えられる。
 即ち、わが国の場合においては輸出産業を中心として産業の興隆を図り、これに伴う雇用の再配置を期待すべきであろう。即ち軽工業をも含めた輸出産業の膨脹こそ、現下の最大要請のみならず将来のわが国経済における物的バランスの軸となることが経済進歩の基盤であり、完全雇用実現えの第一歩であろう。