質問主意書

第7回国会(常会)

質問主意書


質問第一八号

庶業所得税に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十五年一月二十五日

池田 恒雄      

       参議院議長 佐藤 尚武 殿



   庶業所得税に関する質問主意書

一、最近納税者に対して税務署よりつぎのような信書が送達されている。
     「お知らせ」
 昭和二四年分の貴殿の営業(庶業)所得の最終課税見込額は、税務署では○○、○○○円以上と見て居りますから、本月三十一日までに提出することになつている確定申告には、右の金額をもつて申告をなさるようお奨め致します。
 もし特別の事情がなくて右の金額より少い申告をされた場合は、税務署ではやむを得ず二月上旬更正決定を行うことになりますが、この場合は税額の差を追徴されることは勿論外にその差額に対し二五%の追徴税と日歩十銭の加算税とが徴収されることになりますからくれぐれも御注意願います。
  昭和二五年一月
下館税務署長印      
    ○○○○殿

二、税務署が申告前に納税者に対して親切な注意を与えるということがらは、この時代にあつては好ましいことであるが、右の下館署の「お知らせ」には今日の税法にてらして好ましからざる点がある。
 この信書は一見至極平民的で親切のようであるが、税務署が申告の内容を命令的に規整することになつている。
その問題の第一点は、
 所得の最終課税見込額は、税務署では○○、○○○円以上と見ております―というのであるが、この所得の最終課税見込額とは、その納税者の年間所得金額をいうのであるか、その所得金額に対して賦課される税金の額をいうのか、税務署長からの手紙を開封した納税者達は判じかね、非常に困惑している。
その問題の第二点は、
 税務署では○○、○○○円以上と見ております―というのであるが、この金額は後段の注意にてらして、税務署としては確信ある数字と解すべきである。ところで、税務署では「見ている」というのであるから、何らかの方法で、その納税者の経営内容、取引の経過を調査したものと解すべきであるが、税務署は個々の納税者につきどのような方法で調査したものか、その調査の方法と事実を立証されていないのである。
その問題となる第三点は、
 税務署は単に金額だけをお知らせして、その金額が算出された経過の説明がないことである。もし、税務署が後段の注意をするほどに、この金額に確信があるならば、その算出の経過も一応説明し、申告に便宜を施すべきである。でないと、後段においておどかされている納税者は税務署から知らされた金額を絶対のものとして、まづそれを申告書に書き、他はとにかくそれに符合させるということになる。多くの納税者はこのお知らせをいただき、申告すべき金額は判つたが、それについて自己の経営の損益をどのように組立てるかに戸惑つている。
その問題の第四点は、
 右の金額より少い申告をされた場合は―更正決定、不足額の追徴、追徴金、日歩――等が徴収されるとあるのである。だから、この「お知らせ」は幸運のくさりよりももつと厳重なる命令なのである。その金額より少い申告は許されないことになつている。
 所得税の申告は、単に所得金額または税額を申告するのではない、自己の経営における収支の経過を明らかにして、その上で所得金額を明らかにし、それに応じて税金を納めるのである。しかるに「お知らせ」によつてすでに申告すべき金額が、税務署内に確定しているとすれば、「お知らせ」は納税告知書として作用し、経営収支の経過を申告するということは無意味になる。
 右に列記した問題点について、いま「お知らせ」をうけた納税者達は困つている。これは、下館税務署のは一例であつて、全国的に散見する事実である。これらの問題点について政府の詳しい説明をいただきたい。

三、私は昨年夏以来公私の旅行で、北海道より愛知県に至るいくつかの地方を調査した。その間、それらの地方の小都市でも、また名古屋、東京等の大都市でも驚くべき話を聞いた。
 その一つは、予定申告に当つて、税務署は今年はこの位に申告しろと、業者に勧告していることである。それはいろいろな業種を通じて、前年度実績の三-六割の割増しであつた。
 業種によつては、営業が前年より盛つているのもあるが、前年よりも何割かおとろえているのもある、それでも一律に何割増しといつた具合である。業者はこのことを疑問にしている。
 また、一応予定申告した業者に対し、これでは足りないから、これ位に書いて来いと申告を戻している向もあつた。
 更に驚くべきことは、そのようにして税務署の勧告通り予定申告をして、これで安心だと納税貯金などをしていた業者に、最近、確定申告にはこれだけ申告しろと予定申告に二倍も割増しした金額をかんこくしている向もある。
 ドツジ財政が各種営業にどのような影響を与えているかは政府が詳しく知つていると思うが、その営業状態の変化如何にかかわらず、税金が前年の何割増となるのはどういうわけか。
 またこのような勧告は、盆踊りのかかりを割賦したり、夏祭の場銭を割当てるのと同じ感じを与えている。所得税というものは、相隣関係の諸掛り同様、どこでどれだけしよつてくれといつた具合に取扱うべきものかどうか。
 尚この際、営業所得の調査方法、調査事例、所得標準率等を業種別に説明されたい。