質問主意書

第5回国会(特別会)

答弁書


答弁書第六十八号

内閣参甲第七四号
  昭和二十四年四月二十六日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員藤森眞治君提出社会保険診療報酬支払遅延に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員藤森眞治君提出社会保険診療報酬支払遅延に関する質問に対する答弁書

一、診療報酬支払遅延の原因

 健康保険その他の社会保険制度におきましては、昨年八月に保険医制度の改善を図るために法律改正が図られ、又従来から改善を要望されておりました診療報酬支払の遅延の傾向と保険者の支払の一元化等を改善いたしまするために、社会保険診療報酬支払基金法が制定いたされた次第でありますが昨年八月以来社会保険における診療報酬の一点単価を、おおむね慣行料金程度まで引き上げを図る等保険診療の円滑化を図りましたために、八月以降におきましては、毎月診療の件数及び一件当り金額等の異常な上昇を見る一方漸く経済界の不況の深刻化に伴い保険料の滞納の傾向を来しまして、保険経済の収支の均衡が破れ、保険経済の逼迫を招いた次第であります。
 ここにおきまして、各保険者といたしましては、保険経済の逼迫等によりまして、基金に対して支払う診療報酬支払資金の支払遅延を招きまして、基金が、診療担当者に対して支払遅延の事態を来している次第であります。
 他面におきまして、基金制度による各保険者からの診療報酬支払委託金は、おおむね一月分を限度といたしておりました関係上、基金の支払資金に不足を来しまして、支払遅延の事態を助長した次第であります。
 次に国民健康保険の診療報酬支払の遅延は、各保険者ごとに事情が異なるのでありますが、一般的にいえば、保険者が必要とする保険料を徴収することができないために支払ができない場合と、審査その他支払事務の遅延によるものが多いのであります。なお、昭和二十二年の診療報酬についても若干の未払がありますが、これは、多く保険者の中に、財政上の赤字のために、遂に事業の休止を致しましたために、その際の未払が整理されていないものであります。 

二、各種社会保険における診療報酬支払遅延の状況

1 政府管掌健康保険及び船員保険の支払状況
 政府管掌健康保険及び船員保険におきましては、昨年八月分以降十一月分までは、おおむね基金に対する診療報酬支払資金の支払が順調でありましたために、基金においても順調な支払がなされていたのでありますが、十二月分以降におきましては、前に説明致しましたように、診療件数及び一件当り診療金額の予期以上の増加のために支払予算額に不足を来しまして、基金に対する支払が遅延がちとなりまして、十二月分が二月中旬、一月分が三月中旬に漸く支払を完了致した次第でありまして、基金における支払も、おおむね一箇月程度遅延致しました実情であります。
 二月分におきましては、予算の関係上本月二十五日に漸く基金に対する支払を致しましたので、基金におきましては直ちに二月分の支払を完了する予定となつております。
2 健康保険組合及び共済組合の支払状況
 健康保険組合及び共済組合におきましては、政府管掌健康保険と同様に、昨年十一月分までは、おおむね十二月末日までに支払を完了致した次第でありましたが、十二月分以降におきましては、保険経済の逼迫等によりまして、支払遅延の傾向を招きまして、十二月分の支払は二月下旬に至りまして支払を完了し、一月分の支払は四月上旬に支払を終り、二月分の支払は五月上旬におおむね完了の予定となつております。
3 国民健康保険の支払状況
 国民健康保険における診療報酬の未払額は、全部の保険者を通じまして約二億六千万円程度であると推算しております。この中昭和二十二年度において支払うべき額は、その七%の約千八百万円と推算しており、残りの九十三%の約二億四千万円のうち多くは、保険者の毎月の支払上のズレによるものと考えます。
 因みに国民健康保険の全部の保険者の診療報酬支払額は、毎月平均約三億円でありますから、この支払未済額は、その約七十八%に相当しているわけであります。

三、診療報酬の迅速な支払についての対策

1 基金制度によつて支払をする保険等の対策
(イ) 委託金の増額
 基金における診療報酬の支払遅延は、前に説明致しましたように、基金が、各保険者から受ける委託金の不足にその主なる理由がありまするので、おおむね支払資金に不足を来さないように、現在の委託金の一箇月分を一箇月半分に増額致しまするために、今期国金に基金法の一部改正に関する法律案を提案致しまして、診療報酬支払資金の潤沢化を図つている次第であります。
(ロ) 保険経済の安定確保
 第二と致しましては、診療報酬支払の遅延は、各保険者の保険経済の逼迫によりまして、基金に対する支払の遅延に基いているという事実に鑑みまして、政府管掌健康保険におきましては保険料率の引き上げと、他面におきまして保険給付の面では、被保険者の一部負担金制度の復活を図りまして、保険経済の収支の均衡を図ることと致している次第であります。
 又健康保険組合に対しましても保険経済の確保を図りまするために、健康保険組合の予算編成その地におきましても適切なる監督を図つているのでありまして、これら保険経済の確保に基きまして、基金に対する診療報酬支払資金の円滑なる支払を励行するように致している次第であります。
 なお、基金における事務的改善の面におきましても、充分なる改善を図りまして、基金本来の目的の完遂を期したいと考える次第であります。
2 国民健康保険における対策
 診療報酬を確実に支払わしめるためには、必要な財源を適期に確保せしめることが必要でありますから、必要で十分な保険料を賦課するよう特に指導しておりますが、各保険者が本年度予算に計上致しておりまする保険料は、一般に前年度当初予算の三倍から五倍になつており、従つて相当の事業内容の向上を見込んでもおおむね適当な額であろうと考えております。
 保険料等の徴収についても、滞納処分その他の方法を講じて、これを強化するよう特に指導致しております。

四、支払遅延の完済日時予定

1 基金における完済日時予定
 以上説明いたしました対策におきまして、基金におきまする診療報酬支払遅延の完済は、二月分を六月下旬までに、三月分を五月中旬頃に、四月分を六月初旬頃に完了することと予定いたしまして、五月分以降におきましては、おおむね順調なる支払をなし得るよう努力したいと存じている次第であります。
2 国民健康保険における完済日時予定
 国民健康保険におきましては、保険者によつてそれぞれ事情が異なりますので、診療報酬の完済時期を一概に予定することは困雖でありますが、七月までには、おおむね必要な支払をなさしめるよう強力な指導を期している次第であります。

五、診療報酬支払遅延に基く診療担当者に対する金融方法

 以上によりまして、基金によつて取扱いまする診療報酬の支払遅延の傾向は、本年六月以降におきまして自然的に解消することと予定されまするので、政府といたしましては、診療担当者に対する金融の方途は、目下のところ考慮していない次第であります。