質問主意書

第5回国会(特別会)

質問主意書


質問第二十四号

農業所得税更正決定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十四年三月十一日

池田 恒雄      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   農業所得税更正決定に関する質問主意書

一、昨年の三月にも大部分の農家が、所得税の更正決定通知をうけた。それで多くの農家は税務署にワイワイ押しかけ、いろいろ押し問答をして、その誤謬、誤算を訂正せしめていた。中には税務署員の暴言に圧倒されて泣く泣く無理な金を払つた人もあるということであつた。
 この好しからざる事態をつくつた責任は押しかけた農民が悪いのではなくて、押しかけられた税務署が悪いのであつた。何故なら、更正決定通知について殆ど誤謬、誤算が発見されたからである。
 このようなことは、農家のためにも、国家のためにも大損害である。また税務署の権威を欠損し、所得税というものの性格をうたがはれる。滞納が多いとか、反税運動が現れる。所得税にからむサギ事件、ニセ税務署員の出現、税務官吏のトク職といつたことの原因も多くそこに在る。
 従つて、このような事態は再びくり返さないようにしなければならぬのであるが、今年またも同様事態を再現している。政府はこのことに責任を自覚すべきである。そして更正決定に当つて、高率の事故を犯した税務官吏の責任を追究すべきであると思うが、所見如何。

二、前年度は申告納税制度が初めてのことであり、税務署も農家も馴れてないので、事故も多く、好まざる事態が惹起した。しかし今後はそのようなことのないように努力するというのが、第二国会における政府の説明であつた。しかるに事故を縮少する努力をしないで、差押その他で、納税の強引な完遂を図るのは甚だ無責任ではないか。

三、税務署では、各農家の申告の当、不当を調査し、申告が不当と認められる農家及び申告をしない農家に対しては、更正決定の通知をする―のであつて、更正決定は農家の申告の誤謬、誤算を校正したるものであり、そのように沢山の誤謬、誤算があるべきものでないと思うが、どうして事故が多いのか。税務署は果して真面目に調査や計算をやつているのかどうか。係員の指導監督、賞罰はどのようになされているのか。

四、殊に今年は、所得標準の作成をみると、昨年の不備を更め、上中下の三段に分け、更に細く地力等級と組合せた反当所得標準率を定め、これを基準として申告させている。昨年と違つて、このようなハツキリした地力基準の尺度をもつて計算した確定申告であるから、殆ど更正決定の必要がないと思う、何故なら、税務署で定めたハツキリした尺度に地力、反別、収穫をはかつて計算したのだから、確定申告は更正決定の同様のものである。それでも沢山の更正決定が出ているのはどうした訳か。

五、ミルはその原理において―所得税は、如何なる平等主義によつて之を課するも、実際上不平等に陥るを免れず、しかもその不平等たるや、最悪の不平等であつて――至極実直なる人に至つては、国家の意図せる税額よりも多くの額を支払わさるることとなるであろう。けだし、吏員は必ずや、納税者の隠蔽に対する最後の防衛手段として、権力をもつて専断なる査定をなすに至るだろうからである。―と訓えている。
 申告に重点をおかないで、税務署の一方的に決定する所得標準と更正決定に重点をおく今日の日本の所得税の徴収はまさにミルの指摘せる事実の観がある。
 今日多くの農民は「所得標準による申告に対しては更正決定をしないと約束しながら更正決定を出すなら、所得税の申告制は止めてほしい」といつている。まさに所得税の危機である。税の高い安いということは勿論問題であるが、今日それよりも、税務者の徴税態度が更に重大問題と思うが政府はこのことをどう認識しているか。

六、私は、三月一日茨城県取手町を歩いていて、税金を苦にして自殺した者があると聞いた、更にその翌日那珂郡大賀村にても自殺したもののあることを聞いた。
 大賀村高須柏正信(四一)農業兼自転車屋は税金を払うことが出来なくて二月二十五日夜割腹自殺した。初め、村一番高い山に登り腹部をデバで切り、更に心臓二ケ所を突き、死にきれず、木の葉かごの縄を切り高い木に登り首をくくつて絶命した。―とまさに狂死である。この男はキンシ勲章もあり、水戸聯隊でも有名な勤勉な性格であり、村でも堅いという信用ある人物であつたという。
事の真相を詳らかにされたい。