質問主意書

第5回国会(特別会)

質問主意書


質問第二十一号

地力調査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十四年三月十日

池田 恒雄      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   地力調査に関する質問主意書

一、昭和二十三年から、地力の一筆調査によつて、地力の等級を定め、事前に生産と供出の割当をすることとなつた。そしてそれが、昨年四―五月ごろ実際に施工されたことになつている。
 ところで、昨年度の地力調査は切迫した必要に臨んで実施されたこと、またそのためにも調査技術が貧困であつたこと、それにまたいろいろの政治的な情実もからんで、調査の成績には、正しい答案が現れなかつた。このことは、第二国会において、私がしばしば指摘し、且つ警告したことであり、当時農林大臣もその他の大官諸公も肯定され、初めての経験でもあり、更に努力して修正し、イカンなきを期したいという説であつた。
 ところが、昨年一度大ザツパな調査(中には地租等級をそのまま地力等級としたものが多い)をしたのみで、その後校正調査は殆ど施工されていない。また政府は施工せしめていない。そのために、前年度のデタラメ的地力等級をそのまま今年に適用しつつある。これは、今年度産米供出に際して、更に昨年以上の問題を発酵させることになる。
 従つて、政府は、今年も前年に続く初校調査を実施すべきであると思うが、どうか。
 中には、自ら発起して、前年の経験によつて反省し、今年度事前割当を前にして地力調査の初校を施工している真面目な村もある。

二、私は三月五―六日茨城県と栃木県の境の四つの村を視察して、次のような事実を発見した。この事実は、単にこの四つの村についてのみ見られる事実か、それとも全線的にみられる事実かを詳らかにされたい。

1 小栗村と物部村
 栃木県芳賀郡物部村と茨城県真壁郡小栗村とは、小貝川をはさんで相隣関係の特に親密なる村である。
 二つの村は、農業の技術、経営、地力、その他の立地条項が近似している。事実、社会的な諸般の慣行もにかよつて、金や米の貸し借り、嫁のやりとり、手間の交換なども日常的に行はれている。ところで、
(農家、A―小栗村加草)
(1)耕作反別 水田二町六反、他に陸稲一畝ほど作付している。
(2)家族構成 一二名
(3)供出数量 一二四俵半
(4)摘要   三月末転落
(農家、B―小栗村宮本)
(1)耕作反別 水田一町六反三畝、畑では一俵余の陸稲を収穫している。
(2)家族構成 一〇名
(3)供出数量 八一俵
(4)摘要   二月二〇日即時転落
(農家、C―物部村桑の川)
(1)耕作反別 水田二町三反八畝、畑には二反歩ほど陸稲を作つている。
(2)家族構成 一三名
(3)供出数量 八六俵
(4)摘要   農家Aに比較されたい。
(農家、D―物部村反町)
(1)耕作反別 水田一町五反七畝 畑八反
(2)家族構成 一〇名
(3)供出数量 五六俵
(4)摘要   農家Bと比較されたい。

2 久下田町と河間村
 この二つの村の関係は小栗と物部の場合と大体同様にみてよいが、久下田町は町でもあり、停車場もある。そして水利が発達している。
 私はこの二つの村の落合、下高田(河間)阿部品川(久下田町)の部落について、河間村の農業調整委員と共に踏査観察をした。地力は久下田から河間に至るに従つて低下している。
 地続きで自然的境界はない、畦畔が縫うように県境を描き、部落間で出作入作が交錯している。
(1)久下田町の部落では、反当実収に近い生産割当をしている。約四俵内外である。
(2)久下田町に接する河間の地力は久下田に近い。それに対して、河間村は五俵内外の生産割当をしている。
(3)県境―村界から遠ざかるに従つて河間の地力は低くなる、けれども生産割当は久下田より一俵位多い生産割当をうけている。この生産割当は出作入作の農家間でハツキリした差を示す。
(4)河間村落合と下高田の表土はがいして黒い泥炭である。火をつけると炎る畦畔がある。水が出ると浮く田がある。
 この中に五〇町歩ほど更に悪質な水田がある。
 表土五―八寸位が黒い泥炭である。その下がマコモその他の草が七―一五寸位埋つている。下層の方は茎などハツキリして色は未だワラをぬらした程度である。草層の下がザリ、ネンドである。水が湧いている。
(5)この草炭層の水田の実際収穫は年に八斗位であるといつている。それに対して村はその倍位の生産割当をしている。
(6)この草炭地帯では水田のところどころを高くして麦を蒔いている。この高い麦畑は草炭を積んだところである。未だもえる泥があり、スキを入れるとボコボコする。
(7)ところどころで裏作をやつている。低い反収を埋めるためだといつている。高うねである。しかし、この近在の普通田では裏作慣行が普及してない。ここにのみ裏作のあるのはキガ耕作を意味する。

3 この私のみた事実がせまいものであるなら、問題は局地的に解決さるべきものである。
 第一に、一―二町余という大型農家が十名以上の家族をもつて半年間飯米に事欠くということは、普通常識では考えられない。一方では闇米の流れるを車窓にみることができる。一方ではこの大型農家にして、配給をうけ、飯米を借り歩るくということは、直ちに是正されなければならぬと思う。
 小栗村ではいま盛んに供米トク励をしている。供米完遂と同時に隣接村間の公平化を完遂さるべきものではあるまいか。
 第二、河間村の場合は、とくに悪質田があり、地力に特異性がある。このことが未だ本格的に検討されていないで、隣地並の供出割当が村に下される。村では、帳面を合せるため止むなく草炭地のキガ耕作に対して倍の生産割当をしていろいろ説明があつた。このためにキガ耕作を放きする農家も現われている。
 三月六日茨城県知事は二台の自動車を動し、警察、地方事務所員を同伴して、供米トク励を行つている。三月十日までに完遂すると村長は誓つて、即時トク励に出動した。しかし、このまま供出を強行することは、赤字供出裸供出の強要である。また割当技術上の欠損を改めないで、誤れる供出の完遂のみを強要するところの行政行為は、道義上非人道的であるというだけでなく、憲法の許さざるところである。政府は、供出のトク励に先行して、この地力調査の不備の校正をトク励し本行政上の非違なからしめなければならなぬと思うがどうか。
 第三に もしこの不公平が県境村界の全線的事実であるとすれば、昭和二十三年度産米の都道府県別割当は供出の完遂に先行して修正さるべきである。何故なら政府は不公平(多少の不公平をいうのではない、この非人道的不公平)なる供出割当を強行して、ある部分の農家に生理的苦痛、経済的損失を与える権利はないからである。勿論この不公平なる事実、地力調査の不備なる事実、村当局の不法なる措置等は、村の役場員、農調員、農家等と共にせまい範囲で見聞したものであるが、私としては、これ以上の調査をすすめる力もまた権限もないのである。従つて、政府において詳細なる調査を行い、事実とそれに対する見解を発表されたい。