質問主意書

第5回国会(特別会)

質問主意書


質問第九号

農業所得税に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十四年二月十二日

池田 恒雄      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   農業所得税に関する質問主意書

一、昭和二十二年秋の利根川を中心とする水害にさいし、
1 埼玉県北葛飾郡古川町その他数町村は、この水害のため全秋作を失つた。それで農家は農業共済金の交付をうけたのであるが、粕かべ税務署は、この共済金に対して課税したとのことである―これは同郡下の農業会関係者のいうところであるが、真相如何。
2 茨城県側も同様被害をうけており、殊に稻しき郡の霞ケ浦沿岸は夏の旱害と共に秋の長期冠水により甚だしい損害をこうむつている。
 しかるに税務署は、この農家の惨状を深く見ることなく苛酷な所得税を賦課した。
 ために農家は苦んだばかりか、ついに耕地を放棄する者が続出し、町村当局、農民団体、地方事務所は、その善後措置に甚だしい苦労を続けている。(この事実については農林省の詳しい調査がある。)
 収税吏のこのような農業生産のハカイ行為を政府は常時調査し、取締りをしないのはどういう訳か。

二、昭和二十三年秋にも御承知のように利根沿岸に水害が展開された。この災害町村に対する収税吏の態度は依然として修正されていない。茨城県でみると中部北部には雹害があり、湖岸、河岸地方に水害があり、農作物の全滅をみた町村も沢山ある。
1 それに対する税務署のやり方は極めてザンコクである。一例を猿島郡でみると、
 一―三割までの被害は、その損害を認めていない。三―五割、五―七割、七割以上の三段階について損害を認めるとしている。
 損害は一割でも二割でも事実のある限り認めないという法はないし、損害は事実について戸別に計算すべきで、三―五割までといつたような大ザツパなやり方をすべきものではない。
 このような乱暴なやり方は、何事によらず几帳面な収税吏のやるべきことではないと思うがどうか。
2 また計算のし方であるが、
 五割減収の場合は、所得標準率からその五割だけ引くといつている。これほど百姓を馬鹿者扱いにしたやり方はあるまい。
 五割減収とは、町村長や農業共済組合の作柄証明にも示されるごとく、平年作並の総収穫に対する五割減収である。従つて、ここから算出される絶対量が農家の損失であつて、所得標準率の五割より大であることはどんな収税吏にもわかつていることではないか。
 法に関する農民の不明に乗じて、このようなイカサマを働くことが、公に奉ずる役人のやつてよいことかどうか。
3 この地帯は干拓地、流作地が多く、地形の不利から被害甚だしく飯米は勿論、飼料たるワラまで失つた農家が多い。町村当局は不慮の転落農家の大量出現に困りきつていることは政府もすでに承知のことであり、この際免税その他保護を加えるべきときである。しかるに、このような高利貸的やり方を許しておくとは、いかなる法律によつて許されているのか。

三、昨年十月私が大蔵次官と会見したとき、今度から農民団体代表者を正式に委嘱して所得標準率を作成し、前年度のような好ましくない事態を起さない方針であるといつていた。
 ところが、こんど私が、猿島、結城、北相馬、稻しき、新治等の諸郡の村を視察してみると、農民団体の代表者達は所轄署から何等の沙汰もうけていないといつている。
 しかも所得標準率は、多くの場合一方的に説明され、天下り的に押しつけられているのが実情である。
 政府は現地税務署をよく指導かんとくしているのかどうか。

四、所得標準率なるものは、税法に規定なき措置である。収税当局がこの際の便法として採用しているものならば、このような法を略した便法は一方的に決定すべきものではない。あくまで和解的に協力的に運用すべきである。
 しかるに昨年同様一方的態度を更めようと努力しない事実は、今日でも収税吏達が天皇の官吏というような、旧憲法的官吏道を堅守しているためではないか。この点行政民主化の観点より重視する。政府にはかくされたる吏道または、官僚の指導精神があるという疑が大きくなつて来る。

  右各項について農民の誰でもが、民主主義の指導精神に照らして承認できるような詳しい説明を要求する。