質問主意書

第4回国会(常会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参甲第二〇四号
  昭和二十三年十二月十七日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員カニエ邦彦君提出京都市において発生せるジフテリヤ予防接種副作用による災禍に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員カニエ邦彦君提出の京都市において発生せるジフテリヤ予防接種副作用による災禍に関する質問に対する答弁書

一、今迄にとりたる措置

 十一月九日事件の発生を知るや京都と電話連絡の上、その概要を聴取し、十二日大阪日赤医薬学研究所の該当製品の配給先を厚生省薬務局の台帳により調査の上、京都、滋賀、奈良、和歌山の四県に使用中止の電報を発した。しかして直ちに予防局防疫課柴山技官及び予防衛生研究所ヂフテリヤトキソイド検定室主任黒川技官を現地調査並びにこれが対策のため京都、大阪に出張せしめた。帰京せる黒川技官の材料と近畿駐在防疫官森田技官持参の京都市において使用せるワクチンの一部とにより、直ちに予防衛生研究所において化学、動物試験等の検査を開始した。
 十六日予防衛生研究所において学識経験者特に小児科、外科、皮膚科、病理学、法医学、伝染病学等の各関係者の参集を求め当局より予防局長、薬務局長、以下係官出席し第一回調査会を開き、同時に現地調査員を派遣することを決定した。よつて十七日石橋防疫課長、予防衛生研究所中村部長等現地調査員五名を京都、大阪に、又薬務局より審査課長友技官を出張せしめた。而して研究の結果が判明したので、二十五日東京、京都において今回の原因はワクチンの毒素より起つた旨の新聞発表を行つたのである。
 事の重要性にかんがみ予防局長をして二十八日対策並びに現地調査のため出張せしめ、死亡者並びに病院入院患者に対し夫々弔慰並びに見舞を手厚く行わしめ、同夜島根県に赴かしめた。
 同局長は二十九日島根において知事、衛生部長と面談の後各保健所長の参集を求め、これが対策につき指示しなお入院患者の見舞をなし十二月一日大阪日赤医薬学研究所に赴き予防液の製造に関し厳重な調査を行つた次第である。他方薬務局においては十一月二十六日全国のヂフテリヤトキソイド製造所の主任技術者に作業記録携行の上、各個に出頭せしめ、作業経過の厳密なる再審査を行い作業に関し厳重な注意を与えた。
 又大阪日赤医薬学研究所に対しては、その発疹チフスワクチンの製造中止を命じ、製薬課技官を現地に出張せしめて薬事法第四十六条に基き営業停止の指令を発せしめた。さきにヂフテリヤトキソイド使用中止を命じた四県に対してはそのトキソイド全部を回収し予防衛生研究所に送付するよう打電せしめたのである。且又事の重要性にかんがみ十二月三日、四日の両日全国の生物学的製剤地方監視員を招集し二日間に亘り今回の事故の説明及び今後の監視の徹底を指示し更に監視に必要な技術的再教育及び実地見学を行つた。又各都道府県衛生部長宛ヂフテリヤトキソイド、腸チフス、パラチフス、発疹チフスワクチン、コレラワクチンの本省指令以外の移動については禁止する旨打電を行いヂフテリヤトキソイド基準専門委員会を開催し基準の強化について協議を行い各都道府県知事宛大阪日赤医薬学研究所の各種ワクチン類の在庫調査を行わしめ全生物学的製剤の手持在庫量の調査を開始した。続いて十二月十四日全国の生物学的製剤製造所の経営責任者、技術者、配給担当者を本省に招集し、製造その他について厳重な訓示を行つた。
 なお患者の治療に関しては人工呼吸器の必要にかんがみ G・H・Q の好意により借用の斡旋をなし、食糧、燃料、薬品等についても不足あるときは至急連絡するようにし自宅患者に対しては医師、保健婦、看護婦等をして巡回せしめるよう指示を与えている。

二、経費について

 十一月十七日取り敢えず厚生大臣名を以て死亡者に対し香料として一千円宛入院患者に対し療養食二号及び三号を各一個宛見舞として送つた。
 十二月十三日弔慰見舞金として各一人につき死者一万円重症者三千円軽症者千円を取敢えず京都に対し百三十五万四千円を、島根県に対し四十五万円を持参した。
 なお治療費として京都市に対し異例的な補助をすることとし、目下その手続を鋭意進めている。

三、今後の対策について

 生物学的製剤については、薬事法等によりかねてからその重要性を強調している処であつたが、今回の事故発生にかんがみこの種製剤の供給の万全を期するため製造及び検定については概ね左記要領により急速な整備を行わんとするものである。

(一) 製造について
イ 製造所の整備
 全国の製造所の設備、技術、経営の実態を査察し設備技術等の整備、改善をなさしめるとともに改善の見込のないものは整理する。
 右の査察は昭和二十四年二月末日迄に完了するものとする。
ロ 製造技術者の再教育
 厚生省において定期的な再訓練を行う。この訓練は昭和二十四年一月から開始し各種目ごとに年二回を最低限として実施する。
ハ 製造所経営者との連絡強化
 製造所管理者と常時緊密な連絡を保持しこの種製剤の重要性に対する認識を深からしめ製造上の充分な注意を喚起せしめるため協議会等を開催する。
 第一回協議会は昭和二十三年十二月十四日に開催するも前述イの査察の結果をまち明年三月上旬第二回目を開催する。
(二) 検定について
イ 現行の検定規則並びに基準を再検討して整備強化する。
ロ 検定機関の整備及び検定に要する資材の供給につき一層の努力をする。
(三) 監視について
 監視員の再教育を実施するとともに監視員制度について根本的に検討する。
 以上の外今後必要に応じ所要の措置を講じ、かかる不祥事の万一にも起らぬように万全を期したい。