質問主意書

第3回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二十六号

内閣参甲第一九〇号
  昭和二十三年十一月三十日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員市來乙彦君提出物価並びに賃金に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員市來乙彦君提出の物価並びに賃金に関する質問に対する答弁書

第一

(1) 政府は、闇価格を引下げ、更にこれを絶滅し、公定価格と闇価格とを綜合した所謂実効物価を引下げることについては、固より全然同感でありまして、鋭意その実現方に努力いたしておる次第であります。
(2) 政府は実効物価の引下げについては、極力努力しているのでありますが、総需要が総供給に超過している日本経済の現状としてはどうしてもヤミ価格の存在を免れないのであります。即ち購買力の偏在化している所得者が先ず限界購買力としてより高い価格を以て物資を買取りますので賃金生活者はこれに追随して賃上げを要求ししかして企業はこれを支払うためには生産がさして上らない限り、製品の闇価格を引上げる外はありません。しかして終に公定価格の引上げを余儀なくされているのであります。このように、物価、賃金の循環的上昇が日本経済の現状において免れない結果でありますので、物価引下げは現状としては極めて困難でありますが昨年の下半期以降闇価格の上昇は鈍り、特に本年六月の価格改訂以後は著しい安定傾向を示し遂に本年九月及び十月においては総理庁統計局調にかかる消費者物価指数(実効物価指数)は若干の低落を示すに至つたのであります。政府は今後この傾向を一層推進し物価の安定を図りたいと考えています。
(3) 終戦後三回に亘り物価賃金の均衡を推進する為めに公定価格の引上げによる改訂が行われましたが物価引下げの根本策としては生産を戦前に近いところまで回復させ物資の生産に見合はない偏在購買力を除去しインフレーシヨンの根源を断ち切るの他はないのでありますから、生産の増加に全力を傾注すると共に財政の収支均衡と金融の適正化に努力しているのであります。
しかして今や徐々にその効果が現われておりますので、政府は、この好機を捉え、物価安定推進運動を展開し消費者を哲蒙しその地位を強めることによつて物価の安定乃至はその引下げの効果をもねらつているのでありますが、他方、有効需要が引締められると共に生産がかなり伸びている現状に鑑み、今後生産並びに国民生活に緊要なる物資の価格を除き、できる丈大巾に価格統制を撤廃し、需給の自然の法則によつて価格を引き下げ得る余地を拡げ度いと考えるのであります。

第二

(1) 行政整理については、政府はその必要を認め、その方法、時期等について、目下慎重に研究中であります。
(2)(3) 人員削減の数については、目下検討中でありますが、必しも現在人員に超過する予算人員に拘泥することなく諸般の状況を考慮して、決定したいと考えております。
(4)(5)(6) 現在の財政経済において、行政機構の簡素合理化又は行政整理が必要であることは御指摘の通りであります。然しながら、それを如何にして実行するかについては、失業対策経済統制の現状ともにらみ合せて、慎重な考慮をめぐらす必要があり、俄かにこれを決しえないのであります。政府は現在のところ、徒らに波瀾を巻き起すような行政整理を直ちに実行することは目下の処考えておりません。むしろ政府職員の増加を可及的に抑制し国費使用の徹底的合理化によつて経費の節約を図ることが必要であると考え、今回の追加予算編成に際しても約七十七億円の人件費の節約を図つた次第であります。
(7) 行政整理につきましては、一般行政と現業の事情の相違に応じてその対策も自ら異つて来ると考えられますが、現在必ずしも現業を整理から除外するという方針に決定しているわけではありません。

第三

 追加予算の財源として、鉄道運賃、通信料金の値上を行うことは、国民生活に重大な影響を与えることになるから、政府においては、今回はこの方法を採用しなかつた次第であります。又本年度予算の基礎となつている鉄道運賃、通信料金、酒、煙草の価格は相当高いのでありますが、これが国民生活を不当に圧迫するとは考えておりません。政府はこれらによる国庫の収入が予定通り確保されるよう大いに努力を重ねており、又そのことを確信している次第であります。

第四

(1) インフレーシヨン下において物価と賃金のいづれが先に上昇するかは、所謂鶏と卵の論議であつて総需要が総生産を超過し、生産に見合わない偏在購買力が存在する限り、その循環的上昇は止み難いのであります。
 従つてインフレーシヨンの根本的原因を除去しない限り物価面のみで一般的に高物価を低物価に転換せしむることは不可能であると考えます。
 ところで物価賃金の現状を見ますると物価は今年に入つて著しく騰勢を弱め特に価格補正以降その傾向が顕著となつておりまするのに、賃金のみは対前月比一割を超える上昇を示しております。従つて賃金上昇の勢がこの儘続いた場合には企業の生産力的基礎を超えて支払給源を赤字融資、補給金乃至公価改訂に求めしめることとなる惧があります。
 ここに物価賃金の現段階において賃金の安定が必要とされる理由があるのであります。生産の向上に伴わない賃金の高騰が結局物価の高騰を齎すものであることを勤労者がよく認識せられ、自制せられることが切に要望せられる次第であります。
(2) 正常の経済の下においては企業は製品の販売収入によつて充分に賃金の支払が可能であり、同時に賃金生活者はその賃金によつてその生活資料を確保することができたのであります。インフレーシヨン下においては右の事情は共に達成し難いのであります。さればと云つて、賃金の支払を企業の支払の可能の範囲を超えて許すものとすれば、所謂赤字融資又は補給金によることとなり、インフレーシヨンを更に昂進させる要因を造るものであります。勿論貴説の通り高物価を低物価に転換させる事は同時に前述の物価賃金の安定状態を可能とするのでありましようが、そのような低物価転換が可能となることは既にインフレーシヨンを解決したことを意味するものに他ならないのであります。故に、現段階の対策としては前述のようにインフレーシヨンの根本的要因の除去に努力することが必要でありますが、一方インフレーシヨンの悪化を阻止する為の努力として企業の生産増加、経営合理化及び、労働生産性の向上によつて賃金支払給源を企業の自力によつて生み出すよう、労資双方の努力が要請されると共に政府として賃金の実質的安定の為めに諸般の綜合施策を強力に推進する他はないのであります。