質問主意書

第3回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第十八号

内閣参甲第一八二号
  昭和二十三年十一月三十日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員板野勝次君提出塩業政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員板野勝次君提出の塩業政策に関する質問に対する答弁書

第一問

一、今や、五年十年の先を見越した長期的塩業政策の根本を確立すべき時期に際会していることは、御説の通りであり、政府と致しましても全く同感でありまして、目下、関係方面の理解と協力を懇請しつつ鋭意その樹立に努力中であります。終戦後の我が国民経済全般の混乱の過中にあつて、国内塩業の在り方も亦、混迷を免れなかつた事は、誠に遺憾でありますが、今や我が国民経済再建の時に当り、国内塩業も、その安定構造の一環として適当な規模と構造において再編成さるべきことが日程に上つて参つたのであります。
我が国民経済の安定構造に適応せる国内塩業の在り方には、二つの根本的な指標があると考えられます。

二、その第一は、我が国民経済の自主性との関連であります。
 ここにいう自主性は、勿論、戦争経済的アウタルキーを意味するものでありませんが、併し、八千万乃至八千八百万国民の生存不可欠物資たる食料用塩の最少限度量は、これを国内で自給することによる自立的安定性の確保は、当然含まれねばならぬと考えられるのであります。
 かくして、年産六〇万屯乃至九〇万屯の国内生産は、我が国民生活、国民経済の自立性保持の基本的要因の一つでありまして、塩業長期政策の根本目標も亦茲に存すると信ずる次第であります。

三、併しながら、吾々は更に第二点を考えねばなりません。それは我が国民経済の産業構造は、資源資材労力の合理的配分活用を前提とし而もその配分活用は、単に国内経済の領域のみならず、国際経済との関連において問題とされねばならぬという事実であります。
 我が国内塩業が、第一点で述べた規模で存続せしめられる為には、第二点に指摘された要件を充足する如き構造であるを要します。即ち、国内塩業に、資材資金労力を配分利用することが、国内経済的にも、国際経済的にも、合理的活用であるという処まで、経営と技術が合理化、近代化せられ、且つ生産コストが適正化されねばなりません。
 この事が、国内塩業が維持せられるためのいわば、主体的条件であります。

四、前述の塩業政策の理想を現実的な対策にまで具体化するためには関係方面の好意ある理解を得なければならぬことは、申すまでもないところでありまして、この点国会が指導勢力となつて、ほうはいたる国民輿論を喚起せられることを切望します。

五、なお、国内塩業対策を右の如く確立したとしても、我国アルカリ工業等化学工業の復興とにらみ合せて今後とも相当の外塩輸入は必要であります。五ケ年計画の中間的数字によりましても、昭和二十八年国内生産九〇万屯程度としても、なお、一七〇万屯程度の輸入を予想しているのであります。

六、最後に当面の問題でありますが、前述二大目標を達成するまでの過程は、我が国民経済全般の復興テムポに対応致しまして、決して急速には参らないと思われるのでありまして、特に石炭、電力等その配分好転、従つて操業度の向上については決して楽観を許さないのであります。
 この過程におきましては関係方面の御好意により、外塩輸入をつづけ、それをいわば国内塩業復興の誘い水とする要があります。併し、これは単なる外塩依存主義ではありません。
 来年度の供給計画は、未だ最後的確定を見ていませんが、大体国内生産四〇乃至四五万屯程度、輸入一四〇乃至一四五万屯程度を予想しています。

第二問

一、塩の収納停止は以下述べる通り、正規の燃料割当不足による代用燃料使用の増加、これに伴う加算賠償価格の支出増加により予算に不足を来したのが原因であります。即ち
(1) 塩の専売会計は独立採算制の建前を以て実行予算が樹てられております。しかして国内塩の生産計画及び収納塩に対する賠償金支払実行予算については、本年六月二十三日一般物価補正に伴う塩価改訂の際、製塩用配炭計画(精炭二〇万屯、格外炭四万屯、亜炭六万屯)と改訂塩価とに鑑みて左の通り決定しました。
生産計画               三〇万屯
賠償金支払実行予算     二八九、五三一万円
(2) 然るに、上半期製塩最盛期における精炭の割当が僅かに、六、四〇〇屯に止つたため、已むを得ず薪等の代用燃料を使用するの余儀なきにいたり、加算賠償価格を適用する塩が予定以上に生産されました。これがため、上半期末における賠償金支払見込額が全予算額の八〇%に達し、塩専売会計に赤字を生ずる公算が大となりました。
(3) よつてこれが打開に関して塩売渡価格の改訂の必要を認め、九月上旬以来関係官庁間において協議を行つたが終に妥結するにいたらず、止むなく十月二十三日以降収納の全面的停止を行つた次第であります。

二、塩の収納停止は専売制度上本旨に反するので、政府としては一日も速かにその解決を図るため、関係官庁間で更に協議を続けてきたのであるが、今回交渉が成立し、塩の売渡価格を改訂することとなり、十二月一日から塩の収納を再開することとなりました。従つて収納停止の際の手持塩は全部収納することとなるので補償の問題は生じないのであります。

第三問

 塩政府売渡価格は国内塩及び輸入塩の購入価格、すなわち、前者は屯当り九、七四五円、後者は一、九五〇円にして、金額をプールした上、専売による経費を加算し、これによる専売会計の収支を均衡させるように決定したものであります。
 この計算により、白塩売渡価格は九、七〇〇円原塩売渡価格は八、九〇〇円に決定されました。元売及び小売販売価格はこの政府売渡価格にそれぞれのマージン及び運賃を加算したものであり、東京最高を例にとりますと、白塩九、七〇〇円に元売利益二五五円運賃一、八一〇円を加え元売販売価格は一一、七六五円となり、小売は利益が二六〇円、運賃一、〇一八円で小売販売価格は一三、〇四三円となる次第であります。
 ソーダ用塩につきましては、これが産業復興の基礎的重要物資であります。ソーダ灰及び苛性ソーダの主要原料である点に鑑みまして、輸入塩価格に運賃プール額を加算して決定したのであります。すなわち、輸入塩価格は基準年度のCIF価格一三円七九銭の一一〇倍で一、九五〇円、これに運賃一、〇五〇円を加えて三、〇〇〇円といたしました。ソーダ灰及び苛性ソーダが安定帯物資であり、人絹、スフ、ガラスなどの基礎物資として輸出に重要な役割を占めているため、特需価格が別途に定められております。
 なお、一般用と特需用の割合は本年一般用が約一〇五万、ソーダ用が四一万屯、二十二年は七〇万屯と二〇万屯、二十一年は五〇万屯と一〇万屯でありまして、戦前、例へば昭和十三年一般用九七万屯、特需用一四七万屯十五年一般用一〇二万屯、特需用一四〇万屯に比べ、はるかに特需用の割合が小さくなつております。

第四問

一、製塩方式別による現有生産能力並に整備の対象となる生産能力は大略次の通りであります。



二、整備は製塩効率、立地条件及び生産意欲等一定の整備基準によりこれを行う計画であつて、その基準は生産能率にあつて、能率不良なものは如何なる生産様式の設備でも、これを整備する方針であります。従つて生産様式による整備はこれを行わないことにしました。

第五問

一、整備される塩田は農耕地等に転換させる見込で、廃止される製塩設備については出来得る限り整理交付金を交付したいと考えております。

二、整備される製塩労働者数は約四、七〇〇名であつて、これらの者に対しては出来得るならば、一定の基準により算定した解雇手当を出したいと思つております。

第六、七問

一、塩田面積の推移は左の通りであります。
年 度塩田面積(バク)年 度塩田面積(バク)
四、五三四一六四、四四一
四、五三九一七四、五三三
四、五三四一八四、五六四
一〇四、五三七一九四、五二八
一一四、五三四二〇四、六五〇
一二四、五二五二一四、一九九
一三四、五一六二二五、四二三
一四四、四八一二三五、五〇二
一五四、四七八

二、なお整備される塩田は約五三六陌の見込であり、廃止塩田に対する措置は第五問一、の通りである。

第八問

一、塩生産の長期計画は、未だ最後的帰結を得るに至つて居りませぬが、中間的数字は左の通りであります。
昭和24年四二万五千屯
昭和25年五〇万屯
昭和26年六〇万屯
昭和27年七五万屯
昭和28年九〇万屯

二、この数字は、未だ確定的なものではなく、熱源、資材、資金の裏付けも決定していません。

三、五ケ年計画全般が目下再検討されているので、塩につきましても検討の上、できるだけ早く確立したいと考えています。