質問主意書

第3回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二十六号

物価並びに賃金に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十三年十一月二十二日

市來 乙彦      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   物価並びに賃金に関する質問主意書

 終戦後に於ける累次の政府は祖国の再建「インフレーシヨン」の克服に関し、其政策宜しきを得ず、却て「インフレーシヨン」の克服に逆行するの手段を採り、益々「インフレーシヨン」を激成し、終に今日の惨憺たる情勢に陥つたのである、即ち国費は益々膨脹し、通貨は増発に増発を加え、物価は暴騰に暴騰を重ね、国民は食生活さえも安定を得るに至らず、給料賃金の値上げ運動は底止する所を知らず、物資の増産は幾多の障礙に悩まされ、財政は破綻に瀕し、政府は歳入の財源を得るに暗中模索の努力を余儀なくせらるる等の情勢が是れである。
 此頽勢を挽回して、「インフレーシヨン」の克服、祖国再建の方向に進むの道は、先ず以て徹底的に行政整理を断行して、国費を緊縮すると共に、金融に関する諸般の施策と相侯つて、通貨を収縮すること、是れがその基礎方策である。この基礎方策の実行に依て、高物価を低物価に転換せしむることが出来るのであつて、始めて「インフレーシヨン」の克服、祖国再建の順当なる道程に、辿り入ることが出来るのである。この整理緊縮は固より困難なる事業であるが、然しながら之を突破しなければ財政も経済も生活も、終に最後の破局に陥いるのであることを、真剣に悟らねばならないのである。
就ては、

第一、

(1) 政府は物価を引下げることには、同意されないのでありますか。
 若し然りとせば、その理由を承りたいのであります。
(2) 政府は物価を引下げることに同意であつても、引下げられないのでありますか。
 若し然りとせば、その理由を承りたいのであります。
(3) 政府は物価引下げの手段方法に付て、腹案があるならば、それを承りたいのであります。

第二、

(1) 伝うる所に依れば、政府は行政整理を実行する旨を、発表されたと云うのであるが、整理を実行されることは、事実でありますか。
(2) その整理は、大体に於て現在人員に超過する予算人員だけを、削減すると云うのであるが、事実でありますか。
(3) 現在人員に超過する予算人員を減少するだけで、真個の財政建直しの結果が得られると、考えられるのでありますか。
(4) 右様の整理に依る人件費の削減の外には、如何なる費途に削減を加えられるのでありますか。
(5) 右様の整理に依て人件費の削減額、並びに其他の費途の削減額は、大体何程を目途とされるのでありますか。
(6) 伝うる所に依れば、前政府の実行したる行政整理は、極めて小規模であつて、而も之に依て生じたる剰余を、直に他の経費の財源に充当したので、国費の真個の緊縮ともならず、財政の建直しともならなかつたと云うのであるが。
 今回政府の企図せらるる行政整理は、之に依て生ずる剰余を他の経費の財源に充当することなく、絶対に国費を緊縮するものとするのでありますか。
(7) 現業に対しては、整理を行わないと云うのであるが、事実でありますか。
 若し然りとせば、その理由を承りたいのであります。

第三、

(1) 伝うる所に依れば追加予算の財源として政府筋の一部には、更に鉄道運賃通信料金等の値上げ計画があるとのことであるが、事実でありますか。
(2) この計画を実行することは、現在に於ける国民生活の脅威に、更に一層苛烈なる脅威を加うるものとは、認められないのでありますか。
(3) 前政府の実施したる、鉄道運賃、通信料金、酒、煙草の値上げに対する国民の意向を、政府は如何様に観察されて居るのでありますか。
(4) 此等の値上げに依る今日までの収入実績を以て、将来を推測せば、予期の収入を得べき見込みが、立つのでありますか。
 若し予定収入と推測収入とが相違するとせば、その比較計算と共に、政府の所見を承わりたいのであります。

第四、

(1) 政府は物価と賃金との悪循環を断絶することに、苦心せらるると承わるのである、果して然らば、それが成功すべきかは、全く疑問である、元来賃金は、働く者がその生活費を支弁する為のものであることは申すまでもないのである、即ち生活費の内容たる物価が源泉であつて、賃金はその下流である、源泉を清めずして、その下流を清めることは不可能である、物価と賃金とは、決してその関係を断絶し得ないものであることは経済上の通理である。賃金の上昇を防ぎ之を安定せしめんとせば、先ず以て物価の高騰を抑制し、之れを低下せしめ安定せしむることが絶対に必要である、之れが為めには、今日の場合に於ては高物価を低物価に転換せしむることが唯一の方策であることは、申す迄もなく極めて明瞭である。
 賃金の上昇を制限するとしても、政府の力を以て物価の高騰を抑制することが不可能である今日の場合、殊に政府が進んで物価の高騰を策する様な場合に於ては、賃金の制限も亦不可能である。更に実質賃金の実行と雖も、之れに必要なる各種の特配物資の不足の為め、その成功を見ざることは、既に経験を得たのである、又諸般物資の増産に依て、賃金並びに物価の低下安定を見るを得べきことは、前途なお遼遠である。
 之れを要するに、前に縷述せる諸種の方策を真剣に実行して、高物価を低物価に転換するに非ざれば、賃金の制限、低下、安定は断じて得られないと信ずるのである。
 右の鄙見に対する政府の所見を承わりたいのであります。
(2) 企業に於ける賃金は、企業の支払可能の範囲に止むべきものであるとの説がある、元来企業に於ける賃金は、従業者が之れを以てその生計を支え得べき程度でなければならぬことは当然である、随てこの説は生活費が正常の程度である場合、即ち生活費の内容たる物価が、正常の程度である場合にこそ、適応するのである、然るに今日の如く、「インフレーシヨン」が昂進し、物価随て生活費の瀕騰する場合に於て、若し之れを強て励行せば、従業者の離職、罷業、怠業等の瀕出すべきは当然の事であつて、甚だしく生産を阻害し、企業の混乱を来たすべきは明瞭である、それは政府が自ら顧みて自己の官業に付て諦観しても、その揆を一にすることを悟らねばならぬのである、此等の見地よりしても、政府は速がに高物価を低物価に転換し、以て物価賃金の安定を策すべきである。
 右の鄙見に対する政府の所見を承わりたいのであります。

  以上各項の質問に対し、政府に率直に答弁されんことを希望するのであります。