質問主意書

第1回国会(特別会)

答弁書


(答弁書第百二十七号)昭和二十二年十二月二日配付

内閣参甲第一四〇号
  昭和二十二年十一月二十八日

内閣総理大臣 片山 哲      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員木檜三四郎君提出小作料金指定価格不公平に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員木檜三四郎君提出小作料金指定価格不公平に関する質問に対する答弁書

 第一の質問は、種々の実例を挙げて現在の物価暴騰の現状を説明した後、かかる物価暴騰の故に米価を再三引上げ、現在は米一石千八百円(俵代、奨励金を含む)となつている。しかるに、一方小作料金は、昭和二十一年に米四斗につき三十円(石当七十五円)と定めたまま、釘付けしている。その結果、昭和二十一年当時に米四斗に相当した小作料金では、現在では米五合も購入できぬ実情にあるにも拘らず、政府は小作料金納化による当然の結果であると主張し、かくの如く地主を苦しめて、平然としているのであるが、かかる態度は政府の責任として差支えないと信じているのか、どうか、明答せよ、というのである。政府は、第七の質問に対する答弁に述べる如き理由によつて、小作料の金納化を断行したが、その結果、小作料が実質的に低下していることは事実である。物価の騰貴に伴つて、小作料を比例的に引上げていては、実質的には代金納に外ならない。農地改革の一環として断行された小作料の金納化を否定して、代金納制又は物納制に逆戻りさせることは、政府の責任として絶対に賛成できない。しかし、「地主を苦しめて平然としているのが可なりと信ずるのか」との質問に対しては、政府は国民の一人一人の生活の安定を望んで各般の施策に努力しているのであつて、地主という特定の階級を仮想して、これを苦しめようとの考えなど毛頭持つていなことは、断るまでもない。

 第二の質問は、今月、小作人の販売する米の価格は一石一、八〇〇円に定められ、地主の小作米は一石七五円で換算しており、同じ米について地主と小作人とで取扱を異にしており、又その結果として小作人と地主との収入が不均衡となつてきているのは、地主と小作人とを差別待遇しているのであつて、憲法第十四条に違反するのではないか、というのであるが、農地調整法施行令第十二条の規定による農林大臣の指定価格による小作料の金納化は、憲法第十四条に違反するものではないと信ずる。何故ならば、現在小作人は、その生産した米一石について千八百円の対価(俵代、奨励金を含む)を受取ることができるが、小作人は、一方においてこの米一石を生産するために必要な支出をしているのであつて、差引き、自家労働に対する正当な労働報酬と適正な企業利潤を得るべきであり、又地主は、単なる土地所有者としての地代を受ければよい訳である。かくの如く、それぞれその経済的機能に相応じて国民所得の配分をうけているのであるから経済的な差別待遇ではない。

 第三の質問は、農林大臣の一片の指令によつて定められた現行金納小作料金は、他物価に比してあまりに安価であつて、かくの如きは地主の財産権の侵害であり、憲法第二十九条に違反するのではないかというのであるが、物納小作料の換算基準を定めた農林大臣の指定価格は農地調整法第九条の二によつて委任された施行命令に基づいたものである。且つまた、他物価に比して「あまりに安価」であるから、財産より生ずる正しき利益を蹂躙したものであるという主張も何が正しき利益であるかを考えなければならない。土地所有者が収穫物の一半を分前としてとり得た過去の不合理な小作料は決して正しき利益とはいえない。金納小作料は法律によつて定められた地主の財産権の内容をなすものに外ならない。本問についても政府は憲法違反でないと考える。

 第四問は、金納小作料では現実の問題として小作料収入で生活していた地主が従来の生活を維持できなくなつている、これは憲法第二十五条が保証している生活権を奪うもので、憲法違反でないかというのであるが、土地を貸付けて得る所得で多数の地主が生活を営んで来たという過去の事実は多数の小作人に最低限度の生活を営む権利すら認められなかつたという暗い反面があつたのである。憲法第二十五条はすべての国民が最低生活を営む権利をもつていることを謳つているのである。ポツダム宣言受諾に伴う日本民主化の基盤としての農地改革の重要な一環である小作料の金納化を断行したことに伴つて一部地主に最低生活の維持困難なものが生ずれば、それに対しては、他の生活困窮者と同様生活保護法による保護の途を講じているのである。故に、本問についても、政府は憲法違反でないと信じている。

 第五問は、今日の如きインフレの激しきときに金納小作料の特徴として小作料金の釘付けをおし通すことは間違いではないかという点について政府の所見を求められている。政府としては次の如く考えている。すなわち今日各種の重要な生産物は一定の体系の下に価格統制が行われており、米その他重要農産物もその例外ではない。最近米価等の改訂が行われたが、これは生産費の昂騰によつて従来の価格では再生産が不可能となつたので、再生産の可能な限度で引上げが認められたのであるが、現下の生産事情では農業といわず工業といわず全産業が赤字に悩み勤労者も亦耐乏生活をしているのであつてこのような事情の下においては小作料の引上を認むべき理由がないばかりでなく若し小作料の引上げを認めるときは直ちに農産物の生産費の増加となつて米価の再引上げを不可避とし、かくて益々インフレを激化する結果となるであるから小作料水準の引上げには賛成できない。

 第六問は、小作料の金納化は地主に不利益を与え小作人に利益を与える結果となり、かくの如き政府の処置が多数の地主の不平不満をまねている。かかる行為は新憲法の規定に背き、且つ民主主義の本義に違反するものと信ずるとて政府の所見を求められている。政府の見解は本問の趣旨と逆である。何故ならば、小作料の金納化は第七の質問に対する答弁で述べる如き理由で断行されたのであつてかかる改革こそ新憲法の趣旨に合致し日本の民主化に貢献するところが大であると存ずるからである。

 第七間は、物納を禁止して金納に改めた理由を尋ねられている。これについてお答えする。
 従来水田の小作地の九九%、及び畑の小作地の半ばは、現物納又は代金納制であつたが、生産物の一半を地主が現物で徴収するという関係は、正しく旧幕時代の年貢そのままであつて、小作農の経営はいつまでも地主の保護干渉から独立した完全な商品生産者として市場に結びつかず、なお又米価の上昇にしたがつて自動的に小作料も上昇することとなり、(この点は、代金納制も物納制と同様である。)かかる関係をそのままにしては、永久に小作料の合理化は期待されないのであるが、更に、現在の供出制度の下においては、物納制であるが故に生産者でない地主にも自家保有米が認められ、その分を小作農が負担し、生産者である小作農がかえつて配給に依存しなければならぬという矛盾が起る。
 このような理由から、物納制又は代金納制の定額金納制への切替えが、行われたのである。