質問主意書

第1回国会(特別会)

答弁書


(答弁書第八十八号)昭和二十二年十月二十三日配付

内閣参甲第一〇一号
  昭和二十二年十月二十一日

内閣総理大臣 片山 哲      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員栗山良夫君外一名提出税に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員栗山良夫君外一名提出税に関する質問に対する答弁書

一、の(一) 政府の立場から指摘できる税務機構の弱点及びこれが強化の具体策如何。

 現在の税務機構の弱点としては、
(イ)経済界の激変期に応ずるためには、税務署中に管轄区域が広すぎるものが存すること。
(ロ)財務局税務署間、大蔵省財務局間の紐帯が弱きこと。
(ハ)税務職員数が足らぬこと等が指摘しうるが、

(イ)については、本年度において従来の三六九署に対し既に八一署の増設を行い、
(ロ)に関しては、既に主税局に監理課(主として課税標準の調査に関する事務の指導を掌る)及び職員課(主として職員の養成指導、給与等を掌る)を設けて、大蔵省、財務局間の紐帯を強化すると共に、財務局長の課税上の権限を強化し、直接国税の課税標準の調査、間接国税の犯則検査、滞納処分等の事務に関し財務局員を増員し、財務局員の地方分駐制度を設ける等の措置を講じ、財務局、税務署間の紐帯を強化したいと考えている。
(ハ)については、(三)に詳述するように、相当数の定員増加をなし目下これが充実に努力している次第である。
 然しながら、ここに最大の弱点と考えられるのは、(二)の表により明らかな如く、現在のところ熟練者に欠けていることである。これに対しては民間等における経験者を二級官として採用するとともに(四)に詳説するような教育計画を以て臨んでいるのであるが、かかる教育には又相当の日子を要するので、結局のところ現在職員の努力によつてこれをおぎなう以外に方法なき状況にある。
 なお、財務局税務署間の紐帯強化のためには、財務局を細分化し、又は県毎程度に税務監督局を設置する方法も考えられるが、現在の物資の供給状態においてはかかる施設は相当に困難なるのみならず、熟練者を税務署から相当数引上げることとなり却つて税務署の弱体化を来すこととなるので、現下の状況の下においては実行困難と考える。

一、の(二) 現税務官史の質及び量を判定し得る統計的資料(官吏数内熟練者数等)

 昭和二十一年七月一日現在の財務職員(雇庸員を除く。)について、一、年令別 二、在勤年数別に区分調査した結果は別表の通りである。

一、年令別人員調(昭和二一、七、一現在) 1/2
一、年令別人員調(昭和二一、七、一現在) 2/2

二、在勤年数別人員調(昭和、二一、七、一現在) 1/2
二、在勤年数別人員調(昭和、二一、七、一現在) 2/2

一、の(三) 今後充足すべき予定数(年次別)

 特に政府は事務官一万名の増員を断行すると言明したが、今日まで殆んど充員されていないときく実情如何
 税務関係定員としては本年度予算において官吏一五、三七七人、雇傭人嘱託一四、二二九人を増加することとしているが、定員増加の官制が公布になつたのが本年六月二七日となつたため、八月末日においては僅か官吏一三一人、雇傭人二、二九〇人の充実を見たにすぎない。
 今回、政府は欠員不補充の原則を建てたが、税務官署の現状に顧み、税務職員については例外を認め相当程度までは充実するよう致したいと考えている。

一、の(四) 現税務官吏の徴税技術の教育訓練に対する具体策

 最近の税務官吏の素質は、戦時中において民間会社等に移つたものが多かつた上に、終戦後相次ぐ新税創設と税制改正に伴い急激に定員増加を行うこととなつたため多くの未熟者を要するに至り、これが教育訓練は極めて重要と考えておりこれについては左の如き対策を講じつつある。
(イ)本年五月高等財務講習所(定員二〇〇名)を開設し中堅財務職員に二年間法律、経済、財務等に関する再教育を行ひつつある。
(ロ)税務講習所の課程を一年から二年に延長し同所卒業者の素質の向上を図りつつある。なお同所の現在収容人員は七〇〇名である。
(ハ)本年より中堅財務官吏の質的向上を図るため大学、専門学校聴講生制度を設け、現在九五名の聴講生が各地の大学、専門学校に聴講している。
(ニ)主税局及び各財務局主催の短期の実務講習所会を計画している。

一、の(五) 税務官吏の待遇改善に関する具体策

 特に徴収税額と徴税費は諸外国に比して著しく低位にあるときく、出来うる限り広く数字的に比較明示せられたい。
 税務官吏の職務は、個人の機密に属する金額上の探査を行う極めて複雑困難な事務で、相当高等の知識と技術を要するのであるが、その給与は、昨年七月一日現在の給与局の調査によれば、学歴別勤続年数別の全官庁の各平均給与額に対し税務官吏のそれは基本給において平均二十六円(千六百円水準給与においては、一人平均百三十五円となる。)低いことになつておるので、差当り給与の凹凸是正のための昇給(凹凸財源による)をなすとともに税務職員の現下の職責に応ずる待遇について近く対策を明示したいと考えている。
 なお、我国の徴収税額及び徴税費と諸外国の徴収税額及び徴税費との比較は別表の通りである。

主要各国徴税費調(内国徴税費に限れるもの)

二、の(一) 大口所得者への徹底的課税

 さきに増加所得税の施行により新円所得層等一定額を超える所得者に対し課税の充実を図つたのであるが、更に本年四月から施行を見た新所得税により予算申告納税制度を採用し、その年の所得を課税の対象とする建前に切り換えるとともに、今後は政府において申告額の更正決定に主力を注ぎ一定額を超える所得者の課税の充実を期している。
 新円所得層等一定額を超える所得者に対し高率の課税をなすべしとの議論が存ずるので政府は、近く所得税法及び法人税法の一部を改正して、個人については課税所得一定額を超える者に対する税率を又法人については超過所得に対する税率を或る程度引き上げることを考慮している。
 しかしながら現在一定額を超える所得者に対する徹底的課税の議論は、主としてこれらの利得者の実額の捕捉が著しく困難であり且つ、税務当局の調査が不十分なため、これらの一定額を超える所得者が不当に租税負担を免れていることに基くものと考えられる。この点に鑑み、国民租税負担の公平を図りつつ租税収入を確保するためには、重点を課税の充実徹底に指向し、税務機関の拡充強化、税務運営の刷新を図るとともに、大口又は悪質の脱税者の調査摘発、処罰の強化、第三者通報制の活用等により一定額を超える所得者の所得を捕捉し、いやしくも闇所得者等が課税を免れていることのないよう一段と努力しているのである。
 即ち、政府は去る七月及び八月にあらたに全国八一箇所に税務署を増設するとともに、人員の大巾の増員を行つて税務機関の拡充強化、調査態勢の整備を図り、新円滞溜の状況等により都市商工業者、闇ブローカーの調査に重点をおき、ひろく実地について世帯調査実額調査等を励行して一定額を超える所得者に対し徹底した課税を行う方針である。又脱税者に対しては厳罰を科する方針であり、新聞等にこれを公表して、納税者の自発的戒心と課税の万全を期したい考えである。

二、の(二) 大衆課税の徹底的軽減

 政府は、最近における国民経済及び国民所得の現状と現下の財政需要の大きさとを考慮しつつ、国民租税負担をできる限り適正ならしめるよう努力しているのである。財政需要の現状よりして、本年度において、相当程度の増税を行うことも已むを得ない実情にあるのであるが、一般勤労所得者及び扶養親族を多数擁する所得者等については、物価の状況、給与水準、生計費等の現状に鑑み、その負担を軽減することが必要であるので、近く国会に提案される所得税法の改正案においても、勤労所得者、多子世帯等の負担の軽減を図ることを考慮している。他面新円所得層等の一定額を超える所得者については、税率の引き上げを行うとともに、課税の充実徹底を期し、これにより勤労所得者等との間の租税負担の公正を図りたい所存である。
 次に間接税の部面について見るに現下の財政需要よりして間接税においても相当程度の租税収入を図らねばならないので、徹底的に大衆課税を避けることは至難であるが、これが弊害をできる限り除去するため、酒税については大衆向と認められる酒類には定率を以て課税している反面、料理店等の業務用酒類については高率の加算税を課しているのである。又物品税については、生活必需物品に対する課税を極力避けるとともに奢侈性の程度等に応じ税率に差等を設けて極力大衆課税の弊に陥らぬよう措置している。

二、の(三) 昭和二十一年度国民所得

 基礎統計資料の整備が充分完成していない為め確定的な計数を得るに至らないが大約四、〇〇〇億円と推計される。今後計数整備の結果多少異動を生ずることがある。

昭和二十二年度国民所得

 昭和二十二年度国民所得は、大約八、五〇〇億円と推定される。尚右の金額は価格改訂当時の情況を基礎としているので其の後の物価の推移如何によつては再検討を要するであらう。

二、の(四)大口所得者への徹底的課税と大衆課税の軽減を行う場合の数字的比較

(一) 大口所得者へ徹底的に課税による増収    百万円
(1) 課税の充実による増         一二、二四七
(2) 税率引上               三、九四六
   計                  一六、一九三
(二) 大衆課税の徹底的軽減による減収
(1) 給与所得の特別控除引上        一、六二一
(2) 扶養家族控除引上           三、四九六
   計                   五、一一七

三、の(一) 税に関する諸資料の件

昭和二十一年度租税収入済額等の調 1/3
昭和二十一年度租税収入済額等の調 2/3
昭和二十一年度租税収入済額等の調 3/3

   租税滞納額
昭和二十二年七月末    件数 一、三一六、七六九千件
             金額 九、八九三、二八五千円

滞納増加の理由
 昭和二十一年末以来戦時補償特別税及び財産税が相次いで創設され、税務署の内部事務が急激に増加し、これに加えるに増加所得税の決定によつて多額の滞納を出すに至つた。しかして現在に至るまで、物納、延納等の内部事務の処理に全力を注いだ結果滞納整理に着手の余力なく。従つて滞納は、益々増加の傾向にある。

滞納整理の方策
 現在においては、物納、延納等の事務も相当進捗し、その他の内部事務も一応整理の見透しがついたので、本年十一月頃から年度末にかけて、滞納整理の特別計画を樹立し、年度末においては、現在の約三分の一の滞納にまで圧縮したい考えである。

三、の(二)(イ) 昭和二十一年度の予算において不足額はなかつた。
 (ロ) 昭和二十二年度の予算については、目下実施中であるので本年年度末に至らなければ不足額の予測はできない。しかし年度中の一時的の不足額については、大蔵省証券等短期借入の方法によつて調達支弁することがあるかも知れないが、予算の編成に当つては建全財政を堅持しているので予算不足額を生ずることはないものと考える。

四、の(一) 価格差益納付金の年度別、品種別の予算額、調定額及び収入済額は別表の通りである。但し二十二年度追加予算に計上すべき新価格体系に伴う収入見積額は目下検討中である。

四、の(二) 価格差益の徴収は所謂ポツダム緊急勅令である物価統制令に基いて施行されているもので、現行法令上は租税の取扱をしていない。価格差益の徴収は政府の物価政策に基く統制額の引上げによつて消費者の負担において発生する利益であるから、これを国庫に徴収することが適当であると認められるのであるが、価格差益の発生は価格形成と極めて密接な関係にあるから、その内容を最も知悉している物価庁においてこれが調査、決定徴収に当ることが適当と考えている。

別表の一 1/2
別表の一 2/2

(備考)
1 千円未満の端数は切捨てた。
2 決定額と調定済額と相違があるのは、価格差益納付金の納期は当該物品が販売される時期を認定して定めるため翌年度に調定を繰越したのと、第二封鎖預金になつている金額の納入手続が未決定のため翌年度に調定を繰越したことによる。(なおこの繰越額は二十二年度において調定済である。)
3 調定済額、収入済額及び収入未済額は昭和二十一年度決算額によつた。
(なお昭和二十二年十月三日現在においては収入済額は九一三、四三〇千円、収入未済額は六、六三四千円である。)

(参考)

 本表(A表とする)と、先に参議院共産党中西功君よりの質問に対して提出した表(B表とする)との相違は、A表は決算額によつたのに対し、B表は実際の額によつたためである。具体的には
1 調定済額欄数字の相違-九五一千円A表が多額
 高知県及び徳島県の両繊維製品株式会社について水害による減額訂正をしたため、納付義務者は一応当初決定額で納入を了したため調定超過があつたのによる。
2 収入済額及び収入未済額欄の相違
 A表備考の三の括弧書の通り

別表の二 1/2
別表の二 2/2

(備考)
1 千円未満の端数は切捨てた。
2 予算額には二十二年度における新規決定見込額と、二十一年度決定で、二十二年度に調定を繰越したもの四二二、二九四千円を含み、決定額は二十二年度における九月末までの新規決定額のみの係数である。
3 決定額と調定済額との相違は、決定額中より九月末現在において調定未済のもの六八、三〇一千円を差引き、これに二十一年度決定で二十二年度に調定を繰越したもの四二二、二九四千円を加算したものである。
4 収入未済額中には納付義務者が閉鎖機関に指定されたため滞納のもの七六五、八六二千円を含む。