質問主意書

第1回国会(特別会)

答弁書


(答弁書第八十二号) 昭和二十二年十月十六日配付

内閣参甲第九六号
  昭和二十二年十月十四日

内閣総理大臣 片山 哲      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員小川友三君提出山林濫伐と放水路問題等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員小川友三君提出山林の濫伐と放水路問題等に関する質問に対する答弁書

 河川改修の一目標は洪水を円滑且完全に流下せしめることであります。然し幹川のみで完全に其の目的が果せるならば改修は理想でありますが種々な情況の下にあります河川では幹川だけでは充分に洪水を流下し得ない場合があります。放水路計画は此の場合の一つでありまして従来から河川改修工事には所々に実施されて居るのであります。然しながら放水路計画には概して広域の潰地を要し又大土工を伴い引いては多額の経費を要しますので之迄はなるべく放水路の計画は万巳むを得ない場合の外は避けて居るのであります。今後に於きましても根本方針には変りはありませんが頻発する大災害に対処するためには放水路計画も果断に実施する必要があると考えて居ります。
 ましては両者とも得失がありますので直ちに断定は出来ませんが従来治水工事は技術的にも施行困難であり且つ長期に亘るので主として直営で実施したのでありますが、現在の民間業者は技術も相当進歩して居りますので今後は之等民間建設力をも積極的に取入れ工事の促進を図る考えであります。
 次に今回の関東、東北風水害のために流失、倒壊一三、一八五戸、浸水四〇一、八九四戸に上る被害を受けたのであるが、右に対する救済として高率の国庫補助に依る応急仮設住宅建坪二万坪(約三、三〇〇戸)を建設し自力で建築し得ない者や困窮者を救済する方針であります。此の数は局限された資材と資金面から右以上の計画は極めて困難であります。其の他救済策として被害者に対しては統制の枠を外し資材配給を行い普通建築の許可をして自力に依る建設を推進する。
 而しながら自力建設者に対する預金部資金の融通は現在その連用の範囲が中央政府又は地方公共団体に対する融通に限定せられて居りますので個人等に直接融通することは出来ないことゝなつています。
 尚従来長期金融を担当して居た日本勧業銀行に於ては現在資金コストの昂騰並びに手許資金の枯渇等から見て、巨額に上る長期且つ低利金融は困難であります。
 更に我国「セメント」工業は現在相当の能力を有し乍ら生産不振であるのは仰せの通り資金難と石炭不足によるものでありますが経理的には最近の公価改訂により若干事態が緩和されたと思われます。資金面に於ては従来復興金融金庫よりの融資の斡旋につとめてきましたが今後もこの方面の斡旋に努力したい。
 「セメント」の配当計画は経済安定本部において樹立して居るが現在毎月生産高僅か十万トン前後であつて而もその内相当の部分が特殊需要に向けられて居る状況であり増産の鍵たる配炭については最近漸くその重要性が認識されてきているが現実には未だ甚しく不足であります。
 今後共経済安定本部其の他関係方面の協力を得て配炭増加に努めたい。
 尚限定された配炭内における「セメント」増産の一策として特殊セメントの製造及び従来セメント製造に使用しなかつた低温炭によるセメント製造を考慮中であります。
 次に開拓特に山地開拓が今次大水害の原因の一をなすとの議論が相当ありますがかゝる断定は科学的な妥当性を欠いているものと云えます。
 即ち耕地の降水時における雨水の抑止力は一般の想像以上であり作物の保留、土壌の保水力に相当大なるものがあることは専門家の力説するところであり十数年洪水被害と耕地のこれに及ぼす影響について研究せる東大秋葉教授によれば、特殊土壌地帯を除き相当傾斜の畑地においても一日約一〇〇ミリの雨量を滲透により保留することができるとのことであり、このことは標準的な林相を示す森林地帯においても連続一五〇ミリ程度超える降雨に対しては森林は降雨に対し最早その調節の能力を期待し得ないと云う専門家の意見とを総合して今次の如き豪雨においては耕地と森林とはその出水の防除上大なる差異がないものと断定し得るもので開拓された土地は少くとも山林の濫伐跡地の裸地或は利用程度の低い原野等よりも降水の抑止力は大なりとは云えるのであります。
 今次災害の如くその降水量、特にその単位時間におけるインテンシテイにおいて、従来の最高記録である明治四十三年の記録をさえも相当超過するものにあつては山地開拓の有無を問わず、災害を受ける必然性があつたわけであります。山地開拓が洪水の原因とするのは当らないものと考えられます。
 而しながら戦時戦後を通ずる厖大なる森林資源需要の要請は山林の過伐を余儀なくせられましたが反面各種悪条件の累積は跡地造林の進捗を阻害し無立木地の増大となりました。これが為豪雨に際して山地に於ける流去速度を速めて洪水の一因となつたことは認められます。依て政府は現存の緊急に造林を必要とする一七三万一千町歩と今後伐採に依つて生ずる伐採跡地に付五ヶ年造林計画を樹立実行すると共に治水上重要地帯の伐採に就いては今後合理的なる伐採計画下に伐採を行わしめんとするものであります。
 次に今次関東地方に発生致しました大水害に際しまして地元消防団員各位が不眠不休の活動を以てその本来の使命達成に努力せられつゝありますことに対しましては深甚の敬意と感謝を致してゐるところであります。従つて関係府県に於きましても夫々慰労又は敬意の方法を講ずることゝは存じますが政府としても何等かの方法を以てこれらの労苦に報いたいと考えているのであります。