質問主意書

第1回国会(特別会)

質問主意書


(質問第百九号)昭和二十二年十一月六日配付

小作料金指定価格不公平に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十二年十一月二日

木檜 三四郎      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   小作料金指定価格不公平に関する質問主意書

 政府の答弁に曰く従来の小作料を定額金納小作料に転換する際の必要から定められたものであつて一回限りしか使用されぬ性質のものであつて、小作料が金納に転化した後においては一反歩何円という定額金納小作料が残つているだけである。これは金納小作料の当然の性質であつて、現物を基礎として年々の時価で換算するという所謂代金納と根本的に異なる点である。即ち金納小作料は、もう米価や他の生産物価格の変動によつて左右されないものであり、これが金納小作料の特徴である。これによつて初めて小作農は完全に独立した企業者となることができる。
 地主の方々が物価の騰貴によつて生活に困難を来されることがあるとしても、これは現在のインフレの時期において定額収入によつて生活するもののすべてが当面している問題であり、即ち農地改革とは自ら別のものである。
 右は私が曩に質問せる小作料指定価格不公平に付質問に対する答弁であるが、この答弁は学者又は理想家としての答弁なれば御尤に承知するが、国民生活安定の鍵を握れる責任ある政府の答弁としては毫も答弁にならぬ、因て茲に国民大衆の為めに再質問を提出する。
 政治は実際問題である事を忘れてはならぬ。物価も通貨も平準を得ておれば、政府の理想的答弁も承服出来るが、物価が現在の様に暴騰又暴騰で現に某所の食堂においては林檎一箇四十円、柿一箇四十円、昼食は主食券を添えて五十円である。然るに農林大臣の指定した小作料米四斗入一俵が三十円では、林檎一箇又は一回の昼食も喰うことが出来ぬ。又答弁中に地主の方々が物価の騰貴によつて生活に困難を来されることがあるとしても、これはインフレ時期において定額収入によつて生活するもののすべてが当面している問題であり」と云うが田畑の不動産より受くる小作料と他の定額収入者とは根本の性質において趣を異にしている事を忘れた意見と云わねばならぬ。
 昨年和田農林大臣は米価を一石五百五十円と定めたが本年十月二十二日の閣議で米価一石千七百円としこれに俵代五十円、奨励金五十円計千八百円とした所以のものは、物価の変動が甚しいため政府が之れに順応したに過ぎぬ。殊に憲法第二十九条に財産権はこれを侵してはならない」と規定してあるのに農林大臣の職権に因て地主は不動産より生ずる利益即ち米四斗の代金が現在にては林檎一箇柿一箇すら購入出来ぬ実状で、即ち多数大小地主の財産より生ずる利益を無視する事は、農林大臣の一指令に因て財産権を侵害されたもので、これは憲法違反ではないか。
 又憲法第十四条すべて国民は法の下に平等であつて人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別はない」とある。即ち小作人も地主も法の下には平等でなければならぬ。況んや農林大臣職権の指令の下に小作人は不当なる利益を受け、地主は極端なる不利益を受けるのみならず、生活権を脅かすに至ては、如何に法の下に不平等であり又経済的に差別があつて、これは慥かに憲法違反ではないか。
 更に大臣の答弁によれば金納小作料はもう米価や他の生産物価格の変動によつて左右されないものであり、これが金納小作料の特徴である」と云うが之れは物価及び通貨が平準を得ている時代こそ正論として受け入れる事が出来るが今日の如きインフレの甚だしき時に適用すべきでないと信ずるが政府の所見如何。
 憲法第二十五条すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。地主は土地を有しその土地の財産権より生ずる利益により生活を営み得たに拘わらず農林大臣の指定せる小作料金価格が現在の経済界においては林檎一箇柿一箇すら購入出来ざる状態となりたるため地主は生活し能わざる実状にあり、即ち政治が実情に添わざるため、多数の地主を死地に陥れるものにて憲法二十五条の国民の生活権を奪うものにして憲法違反ではないか。
 政府は国民全体をしてその所を得せしめなければならぬ、一人にてもその所を得ざるあらば是れは政府の責任である。
 然るに政府の謂う金納小作料は「もう米価や他の生産物価格の変動によつて左右されないものであり、これが金納小作料の特徴である」と称しているが之れは学者か理想家なら許せるが、苟も上に居て政治の局に当るものが小作料金釘附けを以て小作料金の特徴と云うが如き現時の極端なるインフレ時局に処する大方針となせるは、民の心を以て政治の本旨とすべき為政者の信条を忘れたるものにて非民主的政治家であると謂うべきである。政府は国民大衆のため大に反省して早急にその非を改むべきではないか。

  以上質問に対し文書を以て答弁を要求する。