質問主意書

第1回国会(特別会)

質問主意書


(質問第五十五号)昭和二十二年九月十七日配付

片山首相の平和主義見解の欠陥及ユネスコに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十二年九月十五日

吉川 末次郎      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   片山首相の平和主義見解の欠陥及ユネスコに関する質問主意書

 片山内閣がその施政の基本方針を、新憲法の精神たる民主々義と平和主義に置く旨を声明せることについては満腔の賛意を表する。しかして片山首相は、第一回国会壁頭における施政方針に関する演説および国会議場における民主教育連盟発会式の演説等において、その平和主義が民主々義社会主義と相互に連環するものなることを屡々声明している。その限りにおいては又敢て反対するものではない。しかし人間は単なる観念によつて行動を決するものではなくして、不可避の因果律によつて行動を決するものであることが知られねばならない。戦争を忌避し平和を欲求することは、古来人間の共通観念であるが、今日まで戦争は避けられなかつた。民主々義者も社会主義者もまたしばしば戦争に参加した。片山首相の説かるる理想主義的社会主義は、多分にマルクス主義者の言う空想的社会主義の長所と欠陥とを併有するものであるが、その平和主義論に至つては、全然観念的なユートピア平和主義論の域を脱せざるものであつて、古色蒼然たる時代遅れであることを深く新生日本のために遺憾とせざるを得ない。
 人類はもはや原子爆弾の発見によつて、今後戦争を為すことを不可能とされているという歴史的大事実を、片山首相は今日まで毫もその平和論の基礎としていない。
 イギリスの前外相イーデン氏は、一九四五年十一月二十二日イギリス下院において
 「原子力の発見によつて、科学は人類を、国際政治の現状よりも数段階先に持つていつてしまつた。しかも人類が、科学的に到達した点まで政治的に追いつき、現在人類を脅威している科学力を支配することができなければ、人類がことごとく木葉微塵に叩き潰されるにちがいない。問題の根本は、ここに伏在している。科学上の発見により、主権に関する旧来の観念はいよいよ大きなナンセンスと化した。今日の世界家族は、大戦の末期における欧洲家族よりも狭い。……」
と述べている。右のような原子力の発見が、人類の戦争を不可能となし、人類が今や新しい世紀に入つていることについては、イギリス皇帝、アトレーイギリス首相、バーンズ前米国務長官、アインスタイン博士その他多くの人類の将来を予見する明識を有するの士がしばしば説くところである。
 自然科学の智識を有せざる者、科学精神を欠如せる者、世界の大勢に通ぜざる者たちは、この偉大なる人類生活の革命をありのままの姿において感知し得ないであろう。
 憲法において武器の拠棄を宣言し、世界人類社会において、今後平和主義国家のチヤンピオンたることを最大最高の国民的理想として立つ新日本の、指導的地位にある人々が、旧態依然たる観念的平和主義をのみ虚空に画いて得々たることは許され難きことであらねばならない。

右に対する首相の所見如何

 また媾和会議に入る以前において、国際連合の外廓団体たるユネスコ(United Nations Educational Scientific and Cultural Organization)に、日本の教育科学及び文化諸団体が世界平和主義の発達普及のために加盟するの準備を政府が為さしむるの要ありと思うが如何