第1回国会(特別会)
(質問第二十五号)昭和二十二年八月十一日配付 病院組織、看護業務の改善並に国家による看護婦再教育に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。 昭和二十二年八月八日 井上 なつゑ 参議院議長 松平 恒雄 殿病院組織、看護業務の改善並に国家による看護婦再教育に関する質問主意書 今日の国家事情から見てその重要性の特に痛感される国民保健の問題に関連して、一日も速かに実施を要するのは(一)病院組織の改善及び(二)看護婦再教育の問題である。 現在病院の多くは、入院料が、廉くとも、一日四五十円を要する。この入院料というのは実は単なる室代を意味するにすぎず、食費、治療費、薬価等は別計算になつているのが普通である。一般の病院では病人に最も大切な寝具の用意さえなく、患者自身が準備せねばならぬのが実状である。 病人の看護を行うべき看護婦は医師と病人の連絡役が主な仕事となつて居り、患者の実際の病状看護は看護の知識も訓練も有せぬ家人または家人の代りとして傭われている他人によつて行われている。また患者の食事は、配給制度その他の理由で、栄養知識、病人料理の知識の不十分な家人がその調理や供食に当らなければならない。更に、患者の家庭では患者用の食糧の買出しに奔走する人手をすら必要とするのである。 これらの費用を合計すると、病人一名に要する一日の治療費は莫大な額に達し、勤労階級では癒る見込のある病人でも癒せないのが実状である。 また、清潔をその根本条件の一つとすべき病院でありながら不潔を極めているものがあり、現に過日も或る地方の病院はその甚しき不潔の故をもつて、視察した進駐軍の医官から即刻閉鎖を命ぜられたというような実例もある。 これらのことは病院や看護の業務についての世人の観念が謬つていることに原因していると思われるのであるが、それ以上に明白な事柄として速かに改善を要するのは病院の組織そのものである。日本の病院の多くは、医学的、看護的知識も訓練もない人々が事務を管掌し、その命令のもとに医療部、看護部の人々が動くようになつている。これは速かに改善して、医師は治療に、看護婦は看護に専ら当るようになり、現在多くの病院で行われているような、看護婦が給仕、雑仕婦、小使の代用に使われているような状態が改められたなら、ひとり患者の幸福だけではなく、病院の業務が整理単純化されて、能率を増進し、国民保健の上から益するところ大なるものがあるであらう。 病院組織の改善と相俟つてその実施を急ぐ必要のあるのは看護婦再教育の問題である。 昭和二十二年七月三日附政令をもつて、保健婦、助産婦、看護婦規則が公布されたが、この規則は言うまでもなく、わが国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むに必要な保健指導、助産、看護を受けるために準備せられたものであり、一面、保健婦、助産婦、看護婦の社会的、職業的地位の向上を希望して定められたものであると信ずる。しかし、その政令の実施は、一部を除けば、昭和二十五六年から行われることとなつているが、わが国の病院組織及び看護業務の現状は、前に述べたように、この政令の実施さるるまで侍つことを許すほど余裕のあるものではない。看護婦の再教育を国家の手で行うことは、国民保健のため今日速かに実施を要する問題の一つであることを信ずる。 憲法第二十五条に基き、国民の総ては健康回復のために必要な病院組織と看護業務の改善並に看護婦の国家の手による再教育を望んでやまぬものである。 依つて 一、病院組織の改善及び看護婦の再教育に就いての政府の御意見を承りたい。 この問題は引き続き研究を要する案件であるから、文書をもつて御答弁下さるよう御願いする。 |