質問主意書

第1回国会(特別会)

質問主意書


(質問第十号)昭和二十二年七月二十六日配付

食生活安定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十二年七月二十五日

参議院議員 市來 乙彦      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   食生活安定に関する質問主意書

 主食糧の遅配甚だしく、殊に政府が或は計画遅配を宣言し或は超過供出を公定価格の三四倍にて買上げらるる今日の場合、之に加ふるに野菜の供出配給も亦極めて品薄すであることは一般大衆の非常に苦痛とする所である、就ては私は主として野菜に付て再質問をするのである。
 さきに私の質問政府の答弁に於て

一、私が生産者の納得する程度に公定価格の引上を提唱せるに対し、政府は「生産者の立場のみから一方的に供出価格を決定することは実際問題としては許されない」と答弁された、然しながら供出価格の引上に付て生産者の立場を考へるのわ寧ろ第二義に属し、之に依て供出を円滑にし以て一般大衆に対する配給を成るべく豊富ならしめんことを第一義とするのである、政府は此点に思い及ばれなかつたであらう。

二、政府は「供出価格の引上は直に消費者価格の高騰を惹起し一般大衆の負担を増す結果となる」と答弁された、思うに供出価格の引上は物価体系内の他の物価に影響し又闇相場の高騰を来すことはありとするも、現在一般大衆が野菜の大部分を闇相場に依存するに比較すれば私の提唱せるが如く公定相場を引上ぐると共に闇相場を取締り之を絶対に禁止すれば野菜の入手は頗る低廉となり負担が軽くなるのである、況んや現に公定価格にては生産者が供出を渋ぶるが為め必要量の配給は到底望み得ないので矢張闇相場に依存せざるを得ないのである、私は政府が此点に付深く考察を加へ実情に徹せられんことを懇望するのである、唯闇相場が偶々公定価格を下廻ることがあるも、それは生産の過剰腐敗の懸念等に依る一時的のことであつて常例ではないのである。

三、私が取締に依て闇買出し闇持出し其他闇相場の根絶を提唱せるに対し、政府は「警察力に依る取締が真に効果を収め得る為めには国民全般の理解ある協力が必要である」と答弁された、私は警察力即ち国力は敗戦後の今日と雖も左様に弱いものとは思はない、仮令単独の活動に依ても真に取締の効果を収め得るものと信ずる、若し左様でないとすればそれは寧ろ実行手段の問題である、但し政府が国民の協力を求めらるることは誠に結構である。
 げんに私は政府が国民の協力を求めらるるの主意を体し、政府が国民の為めにする善政に依り一般大衆をして野菜の入手が成るべく容易に成るべく豊富ならんことを熱望し、政府が一般大衆殊に生活中層以下の食生活に絶大の考慮を払い深甚なる同情を注ぎ実際に効果ある方策を実行せられんことを希い再質問を為すのである。
 先以て野菜の供出に付最近新聞紙の報ずる所に依り二三の実例に対する関係者の意向を徴するに、

一、生産地側、かぼちや公定の十七円にては生産費の半分にもならず、而かも買出部隊が畑先きからどしどし買うので品物は無くなる許りで、各町村農会ではこんなに安くては当分出荷は望めないと悲観的予想を述べて居る、(七月十九日毎日新聞)、
二、市場側、再統制以後は市場の人気が無くなり少量を高価で闇に流すと云う風に変つて来た、(同上)、統制が撤廃されるか緩和されなければ出廻らないと思ふ、(同上)、
三、青果物共同組合、販売が始つて近県からの持込み販売が目立つて殖えて来た、大通りに堂々と店を拡げいんげん百目二十円(公二円十銭)、とまと同二十五円(公一円九十銭)、
などと売つて居た、(七月二十日日本経済新聞)、

 即ち一貫目の価格は、かぼちや公定十七円、闇各地にて五十円乃至七十円、いんげん公定二十一円闇二百円、とまと公定十九円闇二百五十円、であつて闇は大体公定の約三倍乃至約十五倍に相当し、而かも生産者販売業者が随時任意に其価格を上下するが為め頗る乱脈である。
 之を要するに自由販売に放任すれば闇値は無意味に暴騰する之は既に過去に於て経験した所であつて一般大衆殊に生活中層以下の消費者は之を購買するの力に乏しく、又闇値を禁止し公定価格のみに依存せしめんとすれば供出配給は有名無実となることは顕著なる周知の事実である。
 是に於て私は左の提唱を為し政府の意見を質問するのである。

一、政府は公定価格を物価体系の一環として維持すること。

二、政府は生産者側との懇談を重ね其良心に訴へ救国済民の赤誠を喚起し、兼ねて一般大衆殊に生活中層以下の購買力に乏しきを鑑み、生産者側を納得せしむべき適当なる協定価格を設定し、之に基いて消費者価格を定め、配給並に販売業等一切之を適用して厳守せしめ違犯は之を厳罰すること。

三、協定価格は勿論臨時的なれども成るべく長期に亘り之を適用し、其間供出配給並に販売が正常の規制に慣るるに至らば事宜に応じ漸次之を低下すること。

四、協定価格の目安は、今日の情勢に鑑み公定価格の約二倍内外を適当と思考するも、固より品種に依り実情に即し懇談の結果に待つべきは申す迄もなきこと。

五、協定価格の設定は漸次他の副食糧に及ぼすこと。

就ては
 政府は以上の如き大体の主意に依り協定価格を設定し、之に依て家庭の野菜入手を成るべく多量にし様との意見を持たるることは出来ないのであるか。

  右は食生活安定上重要の案件に付文書を以て御答弁あらんことを希望する。