憲法第90条第1項には、「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」と定められています。毎年度の決算は、内閣から衆議院、参議院の両院に同時に提出され、それぞれの院で審査されます。
国の予算の執行実績である決算を審査する意義は、審査結果を後年度の予算編成や政策遂行に反映させることにあります。すなわち、決算審査は国の予算が適法に目的どおり使用されたか、その効果を発揮することができたかといった観点から、各府省等の予算執行の状況等を審査し、不適正なものや非効率なものがあればこれを内閣に警告するなどして、将来の財政の計画や執行を一層適正なものにしていくという重要な役割を担っています。
決算審査を重視する参議院では、これまで、内閣に対し決算の早期提出を求め、自らも早期審査に努めるなど、決算審査を充実させるために種々の改革を行ってきました。その結果、平成13年度決算以降は、原則として直近の常会会期中に議決できるようにあらかじめ計画を作成して審査を行ってきました。さらに、平成16年11月には、前年度決算の秋の臨時会への早期提出が実現し、翌年度予算の政府案決定前の審査開始が可能となりました。
内閣による決算の作成及び予算編成時期と参議院における決算審査の流れとの関係は、国会の開会状況等により異なりますが、おおむね次のとおりとなります(参考の図も併せて御覧ください)。
当該年度の決算は、翌年度の7月末日に主計簿が締め切られた後、それを基に作成され、9月に内閣から会計検査院に送付されます。会計検査院において決算の検査が行われ、内閣に回付された後、国会が開会されていれば、11月20日前後に会計検査院の検査報告とともに国会に提出されます。
決算が国会に提出されると、参議院では、本会議において概要報告と質疑が行われます。また、決算委員会では、決算と検査報告の概要説明が行われた後、全般質疑(内閣総理大臣以下全大臣出席)が行われます。
その後、決算委員会において、4月から5月にかけて省庁別の審査(6回程度)、5月から6月にかけて決算審査のまとめとして准総括質疑(財務大臣及び質疑者要求大臣出席)と締めくくり総括質疑(内閣総理大臣以下全大臣出席)が行われ、討論・採決をもって委員会審査が終了します。次いで、本会議において、決算委員長から審査の経過と結果の報告が行われた後、討論、議決がなされ、常会会期中に決算審査は終了します。
その後、政府においては、8月末日までに各省各庁の概算要求が行われるという流れで進められます。
このように、参議院では、決算審査の内容を以降の予算編成に反映させていくことができる予算・決算のサイクルが確立されてきました。
令和3年度決算は、第210回国会(臨時会)の令和4年11月18日に検査報告とともに国会に提出されました。参議院では、第211回国会(常会)の令和5年1月24日の本会議で概要報告・質疑が行われ、同日、決算委員会に付託されました。決算委員会においては、同日、財務大臣から決算について、会計検査院長から検査報告について、それぞれ説明を聴取し、同国会の4月3日に、内閣総理大臣以下全大臣出席の下、全般質疑を行いました。
その後、各省各庁所管の決算をグループ分けして順次審査を行う省庁別審査を6回行い、5月22日に准総括質疑を、6月12日に内閣総理大臣以下全大臣出席の下、締めくくり総括質疑を行いました。その後、各会派代表による討論を行った後、採決の結果、令和3年度決算は多数をもって是認すべきものと、内閣に対する警告案は全会一致をもって警告すべきものと決定しました。また、全会一致をもって措置要求決議を行いました。
委員会での審査を終えた令和3年度決算は、6月14日の本会議において、決算委員長から委員会審査の経過と結果が報告され、討論の後、採決の結果、多数をもって是認することに決定しました。また、全会一致をもって内閣に対する警告を行いました。
本会議及び決算委員会での決算審査においては、決算に関する様々な問題が取り上げられ、幅広く質疑が行われましたが、内閣に対する警告に関連した主なものは、次のとおりです。
令和3年7月、福岡県中間市において5歳の子供が保育所の送迎用バスに置き去りにされ熱中症で亡くなる事案が発生したことを受けて、政府は同年8月、子供の出欠状況に係る保護者への確認や職員間での情報共有等の安全管理の徹底に係る通知を発出したものの、4年9月、静岡県牧之原市において3歳の子供が認定こども園の送迎用バスで亡くなる同様の事案が発生しました。委員会においては、子供の送迎用バスの置き去り事案が繰り返し発生したことに対する認識及び安全対策の実施状況等について質疑が行われました。
名古屋刑務所の刑務官22名が収容中の受刑者3名に対して暴行や暴言等の不適正処遇を行い、刑務官等33名が懲戒処分等となり、このうち13名が特別公務員暴行陵虐等の容疑で書類送検されました。委員会においては、名古屋刑務所において再び暴行等の不適正処遇事案が繰り返された原因等について質疑が行われました。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い1年延期して開催された東京オリンピック・パラリンピック競技大会について、不正行為により組織委員会の元理事らが相次いで起訴され、スポーツの価値を大きくおとしめるとともに、大会経費について国として公表する仕組みがなく、組織委員会と会計検査院とで2,751億円もの相違があり、国民に十分な情報が提供されませんでした。委員会等においては、東京オリンピック・パラリンピック競技大会をめぐる汚職・談合事件に対する政府の責任及び再発防止を徹底する必要性等について質疑が行われました。
ハラスメントは、自衛隊員相互の信頼関係を失墜させ、組織の根幹を揺るがす決して許されないものであるにもかかわらず、元女性陸上自衛官が所属していた部隊で性被害を受ける事案が発生し加害者の隊員5名が懲戒免職処分とされるとともに、ハラスメントが重大な問題となっていることを受け発出された防衛大臣指示による特別防衛監察で1,000件を超えるハラスメント被害の申出がありました。委員会においては、防衛省及び自衛隊におけるハラスメントの相談件数が増加している実態及びその要因等について質疑が行われました。
前述のとおり、参議院決算委員会では、決算の議決に当たって、「内閣に対する警告」と「措置要求決議」を行っています。
「内閣に対する警告」(いわゆる警告決議)は、決算審査で取り上げられた問題の中で、参議院として、政府の不当・不適正な事業や非効率な予算執行などを批難し、是正を求めることを内容としています。「措置要求決議」は、決算審査を踏まえて、決算委員会として、決算的観点から行政の制度面や実施面での改善が必要と考えるものなどについて、政府に対し適切な措置を講じるよう求めるものです。
令和3年度決算審査では、以下の項目について「警告決議」及び「措置要求決議」を行いました。決議の具体的内容は、決算に関する議決等に掲載されています。
参議院決算委員会では、平成9年に設けられた国会法第105条の規定による会計検査院に対する検査要請の制度も積極的に活用しています。平成17年6月に、平成15年度決算審査で取り上げられた事項に関して9項目の検査要請を行ったのを始めとして、これまで、51項目の検査要請を行いました(令和5年6月末時点)。会計検査院から検査結果が報告されたものについては、委員会において会計検査院から説明を聴取するとともに、その内容について政府や会計検査院に対して質疑を行うこともあります。
令和3年度決算の審査において取り上げられた事項に関する検査要請は、次のとおりです。